EU諸国の水不足・干ばつ政策は不十分――欧州委員会が2010年版の年報で評価

欧州委員会は2011年3月21日、EU諸国における水不足・干ばつ政策の実施状況を評価する2010年版の年報を発表し、大半の国が建物や水使用機器に関する水使用効率基準を採用していないと指摘した。基準は、欧州委員会が2007年7月に発表した水不足と干ばつに関する方針書(コミュニケーション)で示したものである。この方針書で欧州委員会は、水使用の効率化と節水を進めるための7つの政策オプション(水の適切な価格表示、水関連予算配分の効率化、干ばつリスク管理の改善、水供給インフラ増設の検討、効率的水利用技術・慣行の育成、節水意識の育成、知識とデータ収集の改善)を勧告し、これらのEU諸国での実行状況を評価する年報を2008年から出している。同方針書をEU環境閣僚理事会が2007年10月に支持した際につけた要求に応じて、欧州委員会は2012年末までに水不足・干ばつ政策をレビューして新政策を提案する予定であり、今回の年報はその前の最後のものとなる。

年報と詳細な背景情報が欧州委員会の下記ウェブサイトから閲覧可能。
http://ec.europa.eu/environment/water/quantity/eu_action.htm#2008_report

今回の年報は、21カ国が提供した情報に基づき2009年5月~2010年5月の状況をまとめたもので、他に次のような指摘を行っている。

  • EU諸国は7つの政策オプション勧告を概ね無視している。
  • 違法採水や非効率な配水網による水の漏失を防ぐ措置を導入する試みが一部の国で不十分ながら行われている。水の価格表示や水管理の改善、水使用効率化・節水に向けた措置は、不十分な部分もあるが、多くのEU諸国が採用している。
  • 水不足と干ばつは、地中海沿岸諸国だけの問題ではなく、北欧の一部を除いたEU全域で悪化している。チェコ、キプロス、マルタは深刻な状況と報告している。
  • 欧州は、主に持続不可能な水の使用に加えて気候変動の影響により、2050年までに中程度または強度の水ストレス状態に陥ることが最近の研究で見込まれている。
  • 欧州の多くの地域で水の需給バランスが危機的水準に達している。

折しもEU閣僚理事会の現議長国ハンガリーは、今後提案されるEU水政策(建物に関する水使用効率基準が盛り込まれる可能性もある)に資するべく、水関連災害の管理に重点を置いた水政策文書を作成中である。

関連動向として、国連の食糧農業機関(FAO)は、2025年までに世界人口の3分の2が水ストレス状態に置かれ、18億人が水が完全に不足した地域で暮らすことになる可能性を指摘する報告書(下記ウェブサイトで閲覧可能)を2011年3月中旬に出した。
http://www.fao.org/docrep/011/i0410e/i0410e00.htm