特集(2012年11月号) – 米国の地方政府の財政危機と水インフラ対策上の課題

本稿は、水ビジネス・ジャーナル第44号(2012年11月発行)の特集記事「世界中のインフラ市場の危機と今後の市場性」の一記事です。


デトロイト市が水道事業部門の職員の81%をカットする大改革へ

2012年8月上旬、デトロイト市のDave Bing市長とデトロイト水道委員会(Detroit Water Board)は、デトロイト市水道下水局の非効率で放漫な官僚的運営を示す新たな証拠が暴露されたことにともない、今後5年間に5人に4人の職員を削減すべきとしたコンサルタントの計画案を支持した。

同市の水道下水局は、430万世帯に対して過去10年間に料金を2倍に上げて郊外に住む住民の怒りを増大させてきたことから、料金の請求徴収業務、メンテナンス、及びその他の業務をアウトソーシングして9億ドルを節減する計画である。

同局の高官は、「その計画が導入されたからと言って代金が戻ってくるとか料金が今後下がるとかを期待してはならない。同計画は、ここ数年、年率8%で上昇してきた料金の引き上げのペースを緩やかなものにするのが狙いだ」と述べている。

一方、Bing市長は、「こうした変革は犠牲を伴わずして実現できない。職員が職を失うことにつながるとともに、すべての住民の水道料金の引き上げを制限すべく取り組んでゆくことになる」と語った。

水道委員会のメンバーたちは、コンサルタントが提出したレポートについて「ショックと脅威」という言葉で表現した。同委員会のMacomb County代表メンバーのFred Barnes氏は、「James Fausone委員長が、新たに暴露された新事実をもう無視できないものとして決断していなかったら、私もまだ覚悟はできていなかったろう」と述べている。

【労働者組織の抵抗】

これらの改革を目指す人達に対して、数百名の水分野の労働者を代表するアメリカ州・郡・都市被雇用者ローカル207連盟のJohn Riehl会長は、改革派はもっと少ない人数で淨水プラントを運転できると思っているが、それは夢だとして即座に疑問を投げかけた。

同会長はさらに次のように苦言を呈した。

「コンサルタントやコンピュータには漏水しているパイプを掘り起こして修理できないし、壊れた機械を直すこともできない。これらは手にレンチをもって現場で働く労働者にしかできない。同連盟はこの人員削減に抵抗してゆく。Bing市長は同連盟の主張を一蹴しているが、人員削減は尽くす手がなくなったうえでの最後の手段だ。現状、この変革に抵抗する人々はたくさんおり、それだからこそ我々はこうして戦っている。」

【コンサルタントEMA社の勧告案】

今回、同市の水道下水局はこの調査を実施したEMAと17万5000ドルの契約を結び、EMA社はその調査の一環として200名を超える従業員とインタビューを実施した。調査報告書を提出したEMAはその中で次のような指摘を行っている。

  • 同市の水道下水局は、今後5年間に現行の人員数1978名から約374名へと81%削減すべきである。
  • 外部から361名の人員を契約スタッフとして同水道下水局に補充し、それによって同局の人員総数は735名となり、現行レベルより63%以上少ない人員となる。
  • 全ての職務記述書(job description)は現状の内容よりもいっそう柔軟性を持たせて職務範囲を拡大したものに書き換えるべきである。現状、水道下水局は、柔軟性のない職務定義や多すぎる管理職、訓練の不足という環境下で、いわばぬるま湯に浸かった状態である。
  • 同水道下水局には257種もの職位(job cllassification)があるが、その中には「馬蹄磨き」まである。しかし、同局には馬など飼っておらず、そうした職位があることは極めて奇怪である。組織再編計画では、職位の数は31種に絞り込まれる。
  • 同水道下水局は、その歳入の約44%にあたる60億ドルを配管や処理プラントなどの設備の未払い債務の支払いに充てている。これらのコストは長期間に亘って固定されているので、節減を図るとすれば運営管理費からということになる。
  • 従業員の賃金と福利厚生費などを含む平均コストは8万6135ドル(700万円)である。(給与を引き下げるのではなく)技術の刷新、アウトソーシング及び新しい技能を習得できるよう従業員を再訓練するなどしてのみ節減が実現され得る。

また、EMA社のBrian Hurding 社長は、「当の従業員は変革を求めている」と述べている。実際に、壊れた配管の修理に現場に送られた修理工にインタビューしたところ、修理工は「壊れた配管を修理するために水を止めるバルブを閉じる運転員が現場に来るまで半日も待たなければならなかった」と述べたという。

同社長の考えでは、新たに作成される職位の下では、配管修理工は自らが配管を即座に修理できるようバルブの開閉の訓練も受けれるようになるという。

【水道委員会の姿勢】

水道委員会はこれらの改善に向けた勧告に前向きではあったが、潜在的に可能な節減効果と同改善計画の実施可能性を立証したいと語った。

水道委員会のJames Thrower副委員長は、「経営合理化という観点からだけでなく、人道的な観点からも、分別をもって取り組まなければならない」と指摘した。

また、Thrower副委員長は、EMA社の報告内容を確認するために第2のコンサルタントにも打診すべきとしたが、その意図は水道下水局の組織改革と類似した改善が行われた他の地域での成果を確認したいとするものであった。水道委員会の他のメンバーもこれに賛同した。

デトロイト市議会の議長は、水道下水局が推進しようとしている変革は同市の他の部門でも活かすことができると述べ、水道下水局は同市のすべての部門にとって参考とすべき運営方法のモデルになるだとうとの見解を示した。

水道下水局のSue McCormick局長は、レイオフを含め、摩擦を生じながらも多くの削減を実現してゆきたいと述べたが、具体的にいつから削減を始めるかは明言しなかった。ただ、毎年約200名の作業スタッフが転職や退職を理由に水道下水局を離職している、と付け加えた。

また同局長は、「従業員にはより高くより多様な技能を身に着けてもらいたいし、そうすれば彼らにはもっと給与も払えるようになる。そして、必要とする有能なスタッフが魅力を感じて来るような競争力のある職場にしなければならない」と語った。

【連邦裁判所の命令という大改革推進への後押し】

労働者にとってこの再編計画に抵抗できる多くのチャンスがあるようには見えない。なぜなら、今回のデトロイト市の大規模な組織改革を行おうとする権限は、長期間に亘って続いている公害訴訟の中で発せられた連邦裁判所による命令に基づくものであるからである。

2011年秋に連邦地方裁判所のSean Cox判事が同市の高官に対して、連邦政府の水質浄化法(CWA)の要求条件を満たすためには、同水道下水局が市の憲章や法律、労働組合の契約さえも無視することができると伝えていた。すなわち、同命令は、アウトソーシングの制限を除外し、また管理職がより柔軟な対応ができるよう作業規定を緩和している。Cox判事は、水質浄化法の規定を満たすためには水道下水局をもっと効率的なものにする必要があるとの見解を明らかにしていた。

同命令は、水道下水局に対して、他の市でその職員に適用されている給与制度や他の労務規定の多くが適用の対象から除外していた。

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