中国水市場コラム(2013年5月号) – 中国の排水市場に関する動向

本稿は、EnviXのパートナーでもある「清華大学環境学院常妙助教授」による中国の水市場に関するレポートである。今回は、中国の「排水」政策および市場に焦点を当て、その最近の動向を概説する。

1. 中国の排水に関する主要政策動向

2012年第4四半期の都市部排水におけるインフラ整備状況の公表

2013年3月に中国・住宅都市農村建設部が公表した、2012年の全国の都市部生活排水処理施設の建設運営状況によると、2012年末までに国内の全ての設市都市*、県において、計3340の排水場が建設・稼動しており、それらの合計の排水処理能力は1.42億m3/日に達した。一方で、2012年の全国都市部排水処理場は累計で422.8億m3の排水を処理し、運行負荷率は82.5%であった。第4四半期に限っていえば、累計で106.9億m3の排水を処理し、運行負荷率は82.3%である。

* 中国の行政区画の1つ。ある一定規模以上で且つ中央政府の認定を受けた都市を指す。特大都市、大都市、中等都市、小都市、建制鎮の5つに区分される。現在全国に657の設市都市がある。

各地方での2015年に向けた都市部生活排水処理・再生水関連建設計画・目標の公表

今後も、国内の工業化や都市化にともない、排水処理量は増加していくだろう。このような現状のなか各地方政府は、2012年5月に中国政府が公表した「“十二五”全国都市部排水処理および再生利用施設建設計画」に基づき、それぞれの“十二五”に向けた関連発展計画を進めている。2013年3月~5月には、河南省、江蘇省、北京市、安徽省、山西省が、2015年の都市部生活排水処理・再生水の発展計画を発表した。それらの要点は以下の通りである。

各地方の排水、汚泥および再生水に関する大規模な建設計画・目標が公表されたことで、関連事業の市場発展に繋がると見込まれる。特に注目すべきは、各計画のいずれも、民間資本の導入を強調している点である。また、北京市および山西省の計画では、BOT、TOT方式の導入を更に奨励している。具体的に山西省の「“十二五”都市部排水処理および再生利用施設建設実施方案」では、資金調達において中央・地方公的資金の投入のほか民間資金の積極的な導入を強調し、「誰投資、誰経営、誰受益(投資・経営側が利益を得るべし)」という原則を明確にしている。

表1 地方における都市部排水処理および再生利用施設建設計画作りの状況

計画名 発表日 主な目標2010年をベースにした2015年の目標) 投資予算
「河南省十二五都市部排水処理および再生利用施設建設計画」 2013年
3月
  • 配管敷設事業:配管7144.7 kmの増設
  • 新規排水処理能力の向上:新たに処理能力を353.3万m3/日増強
  • 既存処理施設の更新
  • 汚泥処理能力の向上;7124トン/日の増加、汚泥処理率を80%にする
  • 排水再生利用能力の向上:338.19万m3/日の増加
325.69億元
(約
5373億円)

  • 新規排水処理施設は123.55億元(約2038億円);
  • 新規汚泥処理施設は32.65億元(約538億円)
「江蘇省十二五都市部排水処理および再生利用施設建設計画」 2013年
4月
  • 都市部排水処理率を90%以上に上昇
  • 都市部排水処理場で発生する汚泥の全面的な無害処理の実現
580.1億人民元
(約9570億円)
「安徽省十二五都市部排水処理および再生利用施設建設計画」 2013年
3月
  • 配管敷設事業:配管7477 kmの増設
  • 新規排水処理能力の向上:新たに処理能力を237万m3/日増強
  • 既存処理施設の更新
  • 汚泥処理能力の向上;14.2万トン/年の増加(乾燥汚泥換算)
  • 排水再生利用能力の向上:69万m3/日の増加
165.32億元
(約
2727億円)

  • 新規排水処理施設は41.97億元(約692億円);
  • 新規汚泥処理施設は7.09億元(約116億円)
山西省十二五都市部排水処理および再生利用施設建設実施方案 2013年
4月
  • 配管敷設事業:配管3478.7 kmの増設
  • 新規排水処理能力の向上:新たに処理能力を75.6万m3/日増強
  • 既存処理施設の更新
  • 汚泥処理能力の向上;10.8万トン/年の増加(乾燥汚泥換算)
  • 排水再生利用能力の向上:113万m3/日の増加
「北京市排水処理および再生利用施設建設の加速に関する3年行動方案(20132015年) 2013年
3月
  • 配管敷設事業:配管1290キロの増設
  • 新規排水処理能力の向上:新たに処理能力を228万m3/日増強
  • 汚泥処理能力の向上;3995トン/日の増加

「華北平原地下水汚染防止取り組み方案」の公布

その他、気になる政策動向として、2013年3月に中国・環境保護部が公表した「華北平原地下水汚染防止取り組み方案」が挙げられる。これは、華北平原地域における地下水量・汚染源モニタリングネットワークの構築、華北平原地域における地下水重点汚染源対策に関して定めたものである。
同方案は、総投資額346.6億元(約5718億円)にも及ぶ「全国地下水汚染防止計画(2011-2020)」(環境保護部2011年10月に公表)の一環とみられ、水質モニタリング、工業排水関連の市場拡大に繋がると見込まれている。

2. 中国の排水に関する市場動向

2013年4月以降に新規プロジェクトが増える傾向

2013年第1四半期においては、中国国内における排水・給水関連の新規または建設中のプロジェクトは比較的少なかったが、4月以降からは大幅に増える傾向が現れている。大手証券会社中信証券の傘下の研究部門が出した統計によると、2013年4月の新規または建設中のプロジェクトの規模は150万m3/日にも及び、同年3月の3倍に達している。

排水処理分野における民間資本参入が依然として活発

特に、中国の排水処理分野においては民間資本の参入が奨励され、BOT、TOTなどの方式を採用するプロジェクトが近年多く見られる。これらの参入方式は、中国の排水処理市場の重要な一部となっている。国内の半数以上の処理施設が、BOT方式で建設・運営されているとみられている。また、都市部の生活排水関連インフラ整備分野だけではなく、工業団地における集中排水処理分野にも民間資本の導入例が多く見られるようになっている。以下に、2013年3月~5月における民間資本参入による主な新規プロジェクトをまとめる。

表2 3月以降新規BOTプロジェクト一覧(一部)

プロジェクト名 段階 方式 規模 投資・運営社 投資額
宿州市埇橋経済開発区排水処理工場プロジェクト 落札
(2013年5月)
BOT 3万m3/日 上海東振環保科学技術有限公司
山東省章丘市第三排水処理工場プロジェクト 落札
(2013年5月)
BOT 3万m3/日 中国光大国際有限公司 6070万元
(約10億円)
臨沂市蒼山県第二排水処理工場プロジェクト 落札
(2013年4月)
BOT 4万m3/日 首創股フン 6700万元
(約11億円)
江山市第二排水工場一期目プロジェクト 落札
(2013年4月)
BOT 6万m3/日 中持(北京)水务運営有限公司
香屯生园区排水処理場プロジェクト 落札
(2013年4月)
BOT 2万m3/日
坊市排水処理場移転改造プロジェクト 落札
(2013年4月)
BOT 20万m3/日 聨合潤通水務 3.6億元
(約59.4億円)
潭高新区竜崗排水処理場プロジェクト 着工(2013年5月) BOT 3万m3/日 中国節能環保集団公司 1.25億元
(約20.6億円)
潮陽区谷排水処理場プロジェクト 着工(2013年4月) BOT 3.2 m3/日 広業環保集団有限公司 9900万元
(約16.3億円)
駐馬店市産業集聚区排水処理場プロジェクト 着工(2013年3月) BOT 2.5万m3/日 河南昊華駿化集団 9600万元
(約15.8億円)
雲南省双柏県排水処理場プロジェクト 契約(2013年3月) TOT 1万m3/日 安徽国祯環保節能科技股フン有限公司
銀川暖泉工業団地排水場プロジェクト 着工(2013年5月 BOT 5万m3/日 北京藍星環境工程有限公司 1.2億元
(約19.8億円)
新疆阿拉爾排水処理場プロジェクト 着工(2013年4月) BOT 5万m3/日 艾特克控股集団有限公司 7000万元
(約11.5億円)

主な水処理関連企業が安定的な成長を維持

2013年以降、中国の水関連の主要企業も順調に事業を展開している。
2013年5月に公表された上場各社の第1四半期の業績をみると、設備・エンジニアリング(EPCなど)大手の巴安水務社(工業排水処理関連)、碧水源社(膜・生活排水処理関連)、津膜科技社(膜)、万邦達社(工業排水処理関連)等が安定的な成長を維持し、2012年の同時期に比べ、売上額が大きく伸びている。特に巴安水務社は、2012年から立て続けに大型給水・排水処理プラント建設事業を受注したことで、売上が急伸している。

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主な水処理設備製造・エンジニアリング企業の売上
()内の数字は前年からの増加率

水処理膜技術においては、その普及が2012年以降更に大きく推進されたことで、関連主要メーカーは2012年に大きく業績を上げ、2013年もその勢いが維持されている。その中でも代表的な膜メーカーである碧水源社は、2012年度の売上が5.6億元(約92.4億円)に達した。2013年も積極的に事業を展開しており、2013年4月に同社は、珠海水務集団社と共同で資本金1億元(約16.5億円)にものぼる新たな合弁企業を設立した。これは、華南地域において膜技術を用いた水処理市場の拡大を狙っていると予想される。

また南海発展社、興蓉投資社、重慶水務社、首創股フン社を代表とする上下水道の運営・管理各社については安定しているものの、営業収入および純利益率が伸び悩み、成長率がやや鈍化している。主要8社の売上および純利益の増加率はいずれも一桁にとどまり、首創股フン社に関しては純利益がマイナス成長であった。この原因としては、マクロ経済成長の減速に一定の影響を受けていることが考えられる。

3. まとめ

十二次五カ年計画に基づく各地方の政策からも分かるように、中国の排水処理市場は、今後も投資が活発的であることは容易に予想される。まずは、それらを網羅的に把握することが、中国の排水市場を狙う上での基本であることは間違いないだろう。また、競合他社である中国企業の動向にも目を向ける必要がある。彼らがどのようなプロジェクト、そしてどの地域に目を向けているかに注目することで、その企業戦略を理解する上で重要なものとなる。