米独の研究チーム、大量のエネルギー消費も膜も必要としない海水淡水化法を発表

2013年6月19日、ドイツの化学誌Angewandte Chemieに、米国とドイツの研究チームによる“Electrochemically Mediated Seawater Desalination”*と題した論文が発表された。この手法は、テキサス大学オースティン校のRichard M. Crooks教授とドイツMarburg大学のUlrich Tallarek教授が中心となり、米国エネルギー省(DOE)の支援のもとに開発したものであり、従来の方法とは異なり、エネルギーをほとんど消費せず、膜も使用しないシンプルな方法である。

2本の直径約22 µmのマイクロチャネルを設け、一方(補助チャネル)は電源に接続し、もう一方(淡水化チャネル)は接地し、後者には途中で枝分かれさせてブランチ・チャネルを設ける。そして、その枝分かれ部分と補助チャネルを双極電極で接続し(枝分かれ部分に双極電極の一端を突出させる)、両方のチャネルの間に3 Vの電位差を発生させ、両方のチャネルに海水を流す。

こうすると、淡水化チャネルの枝分かれ部分まで流れてきた海水中の負に荷電した塩素イオンの一部が電位差によって双極電極の先端部で酸化されて中性の塩素になる。その結果、この部分では負に荷電したイオンの数が相対的に少ないゾーンができ、電場勾配が生じて、海水中の正に荷電したイオンは枝分かれしたブランチ・チャネルのほうへ流れるようになる。そうすると、物理の原理は常に電気的中性を保とうとする方向へ作用するので、マイクロチャネルの中では陰イオンも陽イオンについてブランチ・チャネルのほうへ流れていこうとする結果、イオンはブランチ・チャネルのほうに集まり、メインの淡水化チャネルを流れる海水からは、相対的に塩分が低下していく。

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このシステムは電気化学的作用を利用するのでほとんどエネルギーを必要とせず、単純な電池1個だけで動作させることができる。また、前処理でも、海水から砂や沈殿物などを取り除けばよいだけなので、逆浸透膜のような膜を必要としない。さらに、消毒薬などの化学物質を添加する必要もない。簡単なろ過を施した海水を2本のマイクロチャネルに流せばよいだけなので、淡水化のスループットも大幅に増大すると見られる。

国連の統計によると、現在でもすでに世界の人口の3分の1が水の逼迫した地域で生活していると見られており、2025年にはその数が倍増すると想定されているので、海水の淡水化は喫緊の課題だが、海水をいったん蒸発させてから凝縮させるような方法では膨大なエネルギーが必要となるし、逆浸透膜のような方法でも、莫大な経費や複雑な前処理などが要求されるので、今回発表されたような手法が実用化されれば、世界の水不足の問題に解消の糸口が見えてくるのではないかと期待されている。

* Kyle N. Knust, Dzmitry Hlushkou, Robbyn K. Anand, Ulrich Tallarek & Richard M. Crooks, 2013: Electrochemically Mediated Seawater Desalination, Angewandte Chemie
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.201302577/abstract

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