インド、タミル・ナードゥ州が水源保全のためコカコーラ社の製造工場建設予定地の借地契約を解消――50億ルピーの製造工場計画は白紙に戻る

インド南部に位置するタミル・ナードゥ州の産業促進公社(SIPCOT:State Industries Promotion Corporation of Tamil Nadu)は、2015年4月20日、契約不履行を理由に、コカコーラ社に対して土地の借地契約を解除した旨を通知した。コカコーラ社のインド子会社Hindustan Coca-Cola Beverages Pvt Ltd(HCCBPL)は、同州のペランドュライ(Perundurai)に50億ルピー(約93億5000万円)の製造工場を建設することを目指し、同州政府と土地のリース契約を結んでいた。しかし、製造工場が与える水源への影響を危惧した周辺住民や農家の人々による活発な抗議活動、および政府の許可の遅れのため、コカコーラ社の計画は困難に直面していた。契約解除の通知を受けた直後の4月22日、同社は声明を発表し、予測できなかった数々の問題のためにプロジェクトを断念することを明らかにするとともに、同社がこれまでに支払った全額を返還するよう州政府に請求していることを発表した。

タミル・ナードゥ州では、抗議者が製造工場の建設に2年間反対し続けていた。同地域ではすでに水不足の問題が深刻であったため、同製造工場が1日に200万リットルの水を使用することが地下水の水位を下げ、有害化学物質を含む工場廃水による水質汚染を引き起こす可能性があると彼らは主張した。いっぽう、HCCBPLは地下水およびインド南部を流れるカーヴィリ川から製造工場が使用する水を取水せず、水源の汚染を引き起こすことはないと主張したが、HCCBPLの水資源管理および汚染防止に関する低い実績を強く懸念するコミュニティの理解を得ることはできなかった。

コカコーラ社が発表した同声明文によると、これらの問題に対処するために最大限の努力を注いだが、同計画に反対する抗議活動や政府から許可を得ることに過度の遅れが生じたことなど、予期できなかった問題が生じたため、製造工場の建設計画を実施することができないという。

2014年にインド国内で白紙に戻ったコカコーラ社の製造工場計画の事例

  • 2014年4月、ウッタラーカンド州にコカコーラ社の製造工場を建設する計画は、環境問題を訴えるコミュニティの反対運動により取り消された。
  • 2014年8月、ウッタル・プラデーシュ州汚染管理局(Uttar Pradesh State Pollution Control Board)は、HCCBPLが地下水の保全に関する規則に違反したと抗議した後、HCCBPLはインド中部のワーラーナシー近郊にある2500万ドル(約29億7500万円)の製造工場の拡張計画を取り消した。しかし、HCCBPLは拡張計画の取り消しはあくまで政府の許可の遅れによるものであると主張した。

コカコーラ社のライバル企業PepsiCoも速いペースで利用可能な水源の水質および水資源量の低下を引き起こすような様々なビジネスをインド国内で行っていたため、活発な抗議活動に直面していた。環境、健康管理、インフラに関連した法律問題を専門に扱う法律事務所Trust Legalの会長兼業務執行社員Sudhir Mishra氏によると、ここ数年コミュニティは環境問題、特に水の使用に関してより活発に活動しているという。

インドの国家水政策は、飲料水として水を使用することを最優先事項と位置づけており、農業、産業の順で後に続いている。しかし、水に関連する問題は憲法に基づき、主に州レベルで対応すべき課題であり、複数の州は水の使用に関する独自の法律を定めている。例えば、マハーラーシュトラ州(Maharashtra)は、農業よりも産業に優先的に水を回すように定めている。