自己組織化するバイオミメティック膜、水の濾過などに使える可能性

自己組織化する性質をもち、容易につくることのできる合成膜がガス分離、純水製造、ドラッグ・デリバリー、およびDNA認識の改善につながる可能性を、ペンシルベニア州立大学などの国際研究チームが明らかにした*1。このバイオミメティック膜は、脂質――脂肪分子――および蛋白質付加分子から構成されている。これら分子は、自然の膜と同じように水を通過させる水チャネルを形成しており、平行ないくつものチャネルをもつ2次元の膜に自己組織化する。ペンシルベニア州立大学化学工学科のManish Kumar助教はこう述べている。「自然のすることはじつに効率的で、輸送蛋白質は生体膜にある驚くべき仕組みだ。この蛋白質には、合成したものでは再現するのが難しい機能がある」

アクアポリンを模倣

自然の水チャネル蛋白質であるアクアポリン*2の模倣はこれまでも試みられてきたが、Kumarらの研究チームは今回、その第2世代ともいうべき、安定性にすぐれ、製造も容易な合成水チャネルを開発した。このペプチド付加ピラー[5]アレーン(PAP)は、カーボン・ナノチューブと比べても、また、膜分離用として研究されているその他の材料と比べても、均質なものとして製造するのが容易である。

この成果について、Kumarはつぎのように述べている。「水の輸送量が1チャネルあたり毎秒10億水分子というほぼありえないような値に近づいたのにはびっくりした。われわれはまた、この人工のチャネルがたがいに結合しあって、細孔密度のきわめて高い2次元アレイとなり、膜を形成する性質をもっていることをつきとめた」

Kumarらは、PAP膜はこれまでに報告されている第1世代の人工水チャネルよりも性能が1桁上回っていると考えている。PAPの水チャネルが密度の高いアレイを自動的に形成する性質は、さまざまな応用につながるものである。「この水チャネルの用途としてまず考えられるのは、おそらく、きわめて効率のよい純水製造用膜の製作だろう」とKumarは言う。

Yue-xiao Shen, et al., 2015: Highly permeable artificial water channels that can self-assemble into two-dimensional arrays, Proceedings of the National Academy of Science, doi: 10.1073/pnas.1508575112

*1 http://www.pnas.org/content/early/2015/07/24/1508575112.abstract

*2 細胞膜において細孔を有し、選択的に水分子のみを透過する膜タンパク質で、“water channel”とも呼ばれる。1992年に赤血球から米国で発見された。

タグ「」の記事:

2020年7月6日
中国標準化研究院、「汚水処理装置一式」など3本の国家標準の意見募集稿を公表し意見募集
2019年12月11日
Suez、ハンガリーのオロスラーニにあるUF膜グローバル製造拠点を拡張
2019年12月11日
金属有機構造体で淡水化用高性能膜を実現へ
2019年6月17日
「ホットスポット」への集中照射で太陽光淡水化の効率を50%改善――ライス大学
2019年1月17日
細菌を使って細菌を殺す濾過膜をつくる技術――セントルイス・ワシントン大が開発