雨水やグレー・ウォーター、代替水源としての安全な利用にガイドラインが必要――全米アカデミーズが報告書

旱魃や深刻な水不足に直面しているアメリカでは、雨水やグレー・ウォーターなどの代替水源の利用をめざす動きが強まってきているが、そうした水の利用が安全であるという判断をくだすには、ひとびとの健康と環境へのリスクについて、ガイドラインと研究が必要であるとする報告書*1を、全米アカデミーズがこのたび新たに発表した。グレー・ウォーターと雨水は、原水を得てそれを処理する既存技術を使った従来の上水供給を大きく補うものとなる可能性があるが、そうした代替水源を使ったプロジェクトのコスト、利点、リスク、および関連する規制については、現在のところ情報は限られていると報告書は述べている。報告書はまた、グレー・ウォーターと雨水の可能性をフルに引き出すには、さらなる研究とインフラの改変が必要となることを指摘している。

リスク、コスト、利点を総合的に分析

ここでいうグレー・ウォーターとは、洗面台、シャワー、浴槽、洗濯機、洗濯場の流しなどからの未処理の廃水を指し、また、雨水とは、屋根、駐車場、地表などから流出するあま水や雪解け水をいう。こうした水は、集水して処理すれば、灌漑、トイレの流し水、洗濯、外壁や石畳の洗浄など、飲用以外の用途に使うことができる。この研究を実施して報告書を作成した全米アカデミーズの委員会は、グレー・ウォーターと雨水のさまざまな用途への利用について、また、そうした水を捕捉して世帯規模、近隣規模、および地域規模で利用することについて、そのリスク、コスト、および利点を総合的に分析した。

そうした水にさまざまな場面で接することによるリスク、特に、病原体の種類や濃度に関係するリスクを評価するには、雨水とグレーウォーターについてのさらなる研究とデータが必要であると報告書は述べている。また、雨水中にどのような有機化学物質が含まれているか、さらに、各種用途に使われるなかでそうした化学物質がどのようなふるまいをするかについても、より多くの情報が必要である。

さまざまな利用方法

報告書は、雨水と地下水の捕捉と利用のベスト・プラクティスやシステムの推奨もおこなっている。渇水時や乾季における利用を見込んで雨水を帯水層に貯めておける地方では、近隣規模および地域規模で雨水を捕捉することにより、都市の水供給に大きく貢献することができる。このような雨水浸透による地下水再注入はすでによくおこなわれていることだが、特に都市の雨水に関しては、設計や規制が、地下水の水質保護にじゅうぶんではないおそれがある。いっぽう、グレー・ウォーターを、トイレの流し水や地下灌漑といった飲用以外の用途に再利用することもでき、これは、ロサンゼルスのような乾燥地においては、かなりの節水効果を生む可能性があり、また、雨がほとんど降らない夏の数ヵ月間の安定した水源として利用できる可能性もある。しかし、比較的規模の大きな灌漑システムや、屋内での水再利用には、より複雑な配管や水処理システムが必要であり、これは概して、新たにつくられる集合住宅や住宅団地、それに将来の都市計画により適した利用法といえる。

いくつかの課題

世帯規模の灌漑は、エネルギーや保守をほとんど必要としない簡単なシステムで実現が可能だが、報告書は、乾燥地でグレー・ウォーターや雨水を造園用に使うのは長期的に見て持続可能性に欠け、これはするべきではないとしている。もしも節水が第一の目的であるならば、水利用効率の高い造園をくふうして灌漑用水の使用を減らすかゼロにするなどの別の戦略をまず試してみるべきで、そうした戦略のほうが、乾燥地における水需要をずっと大きく削減することになるというのである。

報告書はまた、オンサイトの水再利用システムを設置した場合にそれが各家庭の水使用行動におよぼす影響について、これはまだほとんど解明されておらず、節水対策に消費者がどのような行動で反応するかを研究する必要があることを指摘している。

最大の障害のひとつは、水質に公衆衛生上の問題がないことを保証するためのリスク・ベースのガイドラインがないことだと報告書は言う。厳格な、リスク・ベースのガイドラインがあれば、安全性を向上させ、不必要な処理にかかる費用を減らすことができるほか、オンサイトの水供給に関する規制の枠組をもたないコミュニティもこれを参考にすることができる。この報告書を作成した委員会は、環境保護庁(EPA)、または州間の協力機関、あるいは水道事業者間の協力機関とEPAとの連携によって、そうしたガイドラインを策定するべきであると勧告している。現在のところ、グレー・ウォーターと雨水のオンサイト利用については、州により、また、それぞれの自治体によって、規制が大きく異なる。技術の進歩とその利用に規制が追いついていないのが現状で、そのため、グレー・ウォーターと雨水が本来もっているはずの、アメリカの水供給能力を大きく向上させる可能性が、あまり活かされないままになっている。

*1 Using Graywater and Stormwater to Enhance Local Water Supplies: An Assessment of Risks, Costs, and Benefits
http://www.nap.edu/catalog/21866/using-graywater-and-stormwater-to-enhance-local-water-supplies-an