中国水産養殖業における汚染対策

本稿は、EnviXのパートナーでもある「清華大学環境学院環境管理・政策研究所常杪所長」による中国の水市場に関するレポートである。今回は、中国の「水産養殖業における汚染対策」というテーマで、その最近の動向を概説する。

1. 水産養殖業の発展現状

中国の水産市場は最近30年間で急増してきた。2014年には、中国の水産物の生産量は6461.52万トンに達し、前年比4.69%の伸びを示した。そして、中国水産流通加工協会によれば、2014年の養殖量は中国水産物生産量の73%以上を占め、2020年には80%を越えると予測されている。また、2014年の水産養殖場の総面積は838万6000ヘクタールに達し、うち海水養殖の面積は230万5000ヘクタールで、淡水養殖の面積は608万ヘクタールである。

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図 2009-2014年全国水産養殖生産量の推移
(出典:中国漁業生態環境状況公報(2014))

淡水養殖の生産量に関して、2014年の統計データから、江蘇省、湖北省、広東省が全国のトップ3となっている(下図)。

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図 2014年 地域別の淡水養殖生産量
(出典:中国漁業生態環境状況公報(2014))

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図 中国漁業生産高の推移
(出典:中国漁業生態環境状況公報(2014))

 

2. 水産養殖における汚染の特徴と現状

中国で水産養殖が盛んになるいっぽうで、深刻な水汚染問題も現れはじめている。魚やエビの死亡率が増加し、水産物の種類と数量の減少など、一部の地域では汚染物である病原微生物が水産養殖業に深刻な被害をもたらし、さらには食物連鎖により人に健康被害をもたらすリスクも高い。

一方、中国の水産養殖業は迅速な発展を遂げたが、総合的な発展計画を欠いており、不合理な養殖密度、高生物負荷と高投入量の養殖方式などによって、水中排泄物、残餌と化学薬品が累積し、環境許容量を超えてしまっている。試算によれば、この20年間で約1000万トンレベルの飼料と肥料、大量の化学薬品が投入され、毎年約3億m3の養殖排水が発生しているものの、その処理が行われずに直接放流され、養殖排水による水環境問題が深刻化している。

2010年に発表された「第一次全国汚染源普査公報」によれば、中国水産養殖業において、主な水汚染物の排出量について、化学的酸素要求量(COD)は55.83万トン、全窒素(TN)は8.21万トン、全リン(TP)は1.56万トン、銅は54.84トン、亜鉛は105.63トンであった。また、重点流域における水産養殖業の水汚染物排出量について、化学的酸素要求量(COD)は12.67万トンで、全窒素(TN)は2.15万トン、全リン(TP)は0.41万トン、銅は24.62トン、亜鉛は50.15トンである。

『中国漁業生態環境状況公報(2014)』(農業部、環境保護部)によれば、2014年に重点海水養殖区域77万ヘクタールのうち、無機窒素、活性リン酸塩、石油類、化学的酸素要求量、銅、亜鉛などの指標基準を超えた面積はそれぞれ、72.0%、33.7%、38.7%、17.8%、0.03%、0.2%であり、無機窒素、活性リン酸塩、石油類が主な汚染物となっていることが分かる。いっぽうで河川、湖泊、水庫などの水域においては、全窒素(TN)、過マンガン酸塩が主な汚染物であるという。全体的にみれば、富栄養化の問題に注目が集められている。

また、水産養殖量の大きい江蘇省では、水産養殖業関連統計データによれば、2013年に養殖池の年間排水量は約3万m3/ヘクタールで、汚染物の発生内訳については、SS、COD、BOD、TN、TPの排出量はそれぞれ2280 kg/ヘクタール、999 kg/ヘクタール、145 kg/ヘクタール、101 kg/ヘクタール、4.95 kg/ヘクタールであるという。

 

3. 水産養殖汚染防止関連政策

水産養殖業の発展につれて、大量の有機物を含有する養殖排水による水環境への悪影響が現れ、重要視されつつある。現段階では、水産養殖を規制する法令として以下のものが挙げられる;

  • 漁業法
  • Ÿ海洋環境保護法
  • Ÿ水産養殖質量安全管理規定
  • Ÿ完全水域干潟養殖証制度試行方案
  • Ÿ海域使用管理法
  • Ÿ水汚染防止法
  • Ÿ飼料と飼料添加剤管理条例、など

しかしながら、依然として強制力不足、執法依拠や特別法令の欠如などの問題が存在している。

『水産養殖における汚染防止技術対策』
中国環境保護部は水産養殖業における汚染防止対策の実施可能性を引き上げるため、2013年12月19日に「水産養殖における汚染防止技術対策」(意見募集稿)を公開し、意見募集を始めた。

これは主に漁業用水排出基準の制定と適用、水産養殖関連法規と許可証制度の整備、水産養殖環境管理システムの確立、水産養殖計画の最適化、養殖池の標準化改正、科学的養殖方式の推進などの要求に基づき、養殖方式の合理化、汚染防止対策について規定する文書となっている。

具体的に、養殖方式の合理化について、養殖業者は水生態機能と環境容量に基づき、適切な養殖魚の種類、構造、規模、方式を決めなければならない。また、水産養殖排水の循環利用技術の応用、汚染物収集と浄化施設の設置の奨励、養殖過程における水質管理、給餌管理、薬品使用管理の強化なども規定している。

水産養殖の汚染対策については、養殖業者はCOD、窒素、リン、重金属、硫黄、SSおよび残餌、薬品、排泄物などに対して重点的に対策を講じなければならない。例として、海水網いけす養殖、池塘養殖、放し飼い、工場式養殖などの養殖方式に対しては適切な排水処理、汚泥処置、悪臭処理措置を講じなければならないと規定している。

しかしながら、現時点までに同対策は未だに正式に公布、施行されていない。また、水産養殖業を対象とするその他の関連汚染防止策も発表されていないのが現状である。

なお水産養殖用水については、農業部が制定した「無公害食品海水養殖用水水質(NY5052-2001)」、「無公害食品淡水養殖用水水質(NY5051-2001)」などの基準を満たさなければならない。また、水産養殖の排水に関する国家レベルの基準として、2007年に農業部が制定した「淡水池塘養殖水排出要求(SC/T 9101-2007)」と「海水養殖水排出要求(SC/T 9103-2007)」の2部が実施されている。なお地方基準としては、浙江省が2006年に「水産養殖廃水排出要求」(DB33/453-2006)を発表している。しかし、こういった基準を実施する際に、排出の有無、排出量などの判別に関して、それを実施するための有効な細則が乏しい。

新『環境保護法』
2015年から施行されている新「環境保護法」の発表前までは、水産養殖業による環境汚染問題は関連企業や主管部門に重要視されておらず、養殖排水への監督管理が不足していた。だが、これまでで最も厳格な環境法令と呼ばれる新「環境保護法」の施行により、水産養殖業における汚染対策業界の再編と最適化が促進されると分析されている。

今後、環境保護関連基準の達成は水産養殖産業の参入条件となり、一部要求を達成できない業者が淘汰される。要求を満たした企業はより厳しい政策のもと、今まで以上に効率的かつ経済的な養殖方法と水質浄化の方法を模索するものと見込まれる。

新『環境保護法』の施行後、日数罰金制度や治安拘留処罰制度の導入などにより企業の違法コストが増加したため、立ち遅れた養殖方式と水質浄化方式は今後次第に淘汰される見込みで、飼料生産業者や養殖関連薬品メーカーは研究開発の方向転換を迫られるだろう。

地方政策
一部の地域では、水産養殖汚染防止策が打ち出されている。例えば、「浙江省汚水対策(2014-2017年)実施方案」では、水産養殖による水汚染対策として以下の要求事項を挙げている;

  • Ÿ環境に優しい水産養殖業を構築し、水産養殖集中区では水環境モニタリングを実施しなければならない。
  • Ÿ各養殖区域の生態環境の状況、水系機能と許容力に基づき、養殖禁止区、養殖制限区を決定し、養殖の種類、数量、方式を定める。
  • 水庫、湖泊、干潟での養殖規模を厳格に管理する。
  • Ÿ水産養殖水汚染対策を強化し、漁業養殖園区と特殊水産養殖場の排水処理を全面的に展開する。
  • Ÿ配合飼料の使用を大いに推進し、冷凍海水小雑魚の使用などの環境汚染の原因となる養殖方式を全面的に取り締まる。
  • 2017年に稲魚共生、稲魚輪作などの生態型養殖面積が50万畝*1(ムー)に達し、水産養殖排水対策を講じる大規模水産養殖場の面積が50万畝(ムー)に達する。

 

4. 水産養殖汚染対策

養殖過程による汚染発生の抑制
水産養殖管理において、水環境の汚染やその他の負の影響を防ぐための手法が「最適管理手法(BMPs)」と呼ばれるものである。このBMPsを活用することで、養殖活動の経済効益を確保すると同時に環境負荷を効率的に低減することができる。水産養殖の大規模化、集約化につれて、BMPsの応用推進が次第に重要性を増している。またBMPsを組み合わせて最適な管理体系を構築することも可能で、一般には以下の項目などが含まれる;

  • Ÿ水産養殖環境の評価体制の構築
  • Ÿ水産養殖の標準化発展
  • Ÿ水産養殖水体の管理

そして、「企業+基地+農家」という経営モデルの応用範囲も拡大している。企業は請負、賃貸、購入などの方式で養殖に適する用地を取得、開発し、一定の規模と機能を備える養殖場(基地)をつくり、市場・技術・管理などの優位性と社会化サービスを利用して、農家を組織し養殖に参加する、という組織化、規模化、専門化の生産経営モデルである。企業と農家は「基地」をめぐり役割分担を決めて協力し、関連資源の合理的な配置と利益の合理的な分配を図る。この経営方式は従来の小規模、高汚染養殖方式の改善、養殖排水処理の展開に対して有利である。

その他の水産養殖汚染抑制対策としては、池塘の改造、水源の保障、密度の最適化、品種の合理的な組み合わせ、水環境の維持、漁用機械の使用、生態系飼料の開発、科学的給餌などがある。

養殖排水の浄化処理
水産養殖排水の浄化技術として、主に物理的浄化技術、化学的浄化技術、微生物浄化技術、人工湿地及び安定床浄化技術などがある。また、水産養殖排水処理において、水循環利用の要求に対し、近年は膜技術の応用も推進されている。同分野において、事業を展開している専門企業は多数存在する一方、現状は事業規模が限られおり、関連有力企業が少ない。

 

まとめ

今後、水産物市場と消費者の需要規模は更に拡大し、特に高級水産物に対する需要が急増すると見込まれている。関連統計によれば、2014年全国水産物の総生産量は6451.52万トンで、一人当たりの水産物占有量は47.24 kgであった。さらに、人口の増加や都市化の推進につれ、都市部における水産物に対する需要はさらに増える見込みである。一方、中国の中部、西部地方や内陸部の農村地域では水産養殖市場の成熟度は低く、一人当たりの水産物占有量と消費量は少ない。今後、農村消費水準の成長につれて、水産物への需要も成長のチャンスを迎えるだろう。このような水産養殖規模の拡大にともない、関連汚染対策への需要も拡大するものと期待される。

また、新「環境保護法」や「水汚染防止行動計画」など環境保護関連法律法規・政策の施行により、各産業における汚染対策の強化が迫られている。現状は、水産養殖関連の国家統一排出基準や、具体的な汚染対策関連政策はまだ不足しているが、一部の地域ではすでに水産養殖汚染対策の要求を明確にし、汚染対策を展開している。今後、関連政策、基準の発表により、本格的な対策が急速に展開されると考えられる。

*1 1畝(ムー)は、1haの15分の1に相当。