ウィスコンシン州の水道民営化法案にまつわる諸問題

ウィスコンシン州議会に、ふたつの水道民営化法案が上程されている。下院のAB 554法案と、Frank Lasee上院議員が提案したそのコンパニオン法案(同じ内容で他の院に上程される法案)のSB 432法案である。このうち、AB 554法案は下院を発声投票ですんなりと通過した。このことは通常、この法案に異を唱える者がいないことを示している。ところが、SB 432法案のほうは、2016年2月中旬に上院で審議が難航した。

これら法案は、民営化上下水道ユーティリティがウィスコンシン州内での事業をしやすくするためのもので、自治体の運営する水道ユーティリティを民営化ユーティリティに売却または賃貸する際に、選挙民から請求があった場合にのみ住民投票を実施することを柱としている。両法案とも、原案では自治体の水道ユーティリティ売却を認める決議または条例が成立してから30日以内に有権者の25%の請願があれば、その可否を決める住民投票を実施しなければならないことになっていた。だが、AB 554法案は、2016年1月12日の下院の採決の直前に、60日以内に有権者の10%の請願があれば住民投票がおこなわれるよう修正された。

下院のAB 554法案の採決に先立ち、上院人材開発・公共事業・軍事委員会で2016年1月5日に開催された公聴会では、ペンシルベニア州に本社を置く営利水道ユーティリティAqua America Inc.のJim Bilottaが法案に賛成する立場で証言をおこなった。この公聴会で、民間企業の代表による証言はこれだけだった。この証言のなかでBilottaは、住民投票は時間がかかりすぎて、これをかならず実施しなければならないというのは「好ましくないビジネス環境」だと主張した。Aqua Americaは現在、イリノイなど8つの州で水道事業を営んでいる。

民営化ユーティリティは料金が割高

ウィスコンシン州では現在、自治体の運営する水道ユーティリティを営利ユーティリティに売却するには住民投票で賛否を問うのが必須となっており、これまで、民営化ユーティリティが大規模な公共水道システムを運営しているのは1――州最北部のシューピアリアの水道システム――しかない。営利ユーティリティの利用者のほうが公営ユーティリティの利用者よりも高い料金を支払っているという最近の調査結果からすれば、シューピアリアの水道利用者はウィスコンシン州内の大規模水道システムの利用者のなかで最も高い部類の料金を払っていることになる。

ウィスコンシン州と同様の法案がつい最近成立したニュージャージー州では、消費者団体のFood & Water Watchの同州支部によれば、民営化水道の利用者は最大で64%割高の料金を支払うことになるという。「Aqua Americaは、高い水道料金と水質のわるさに不満を抱いた利用者が結集して、フロリダから追い出した企業だ」と、Food & Water Watchでアメリカにおける水道民営化の政策分析を担当しているMary Grantは言う。Grantによれば、このとき結成された利用者の団体、Florida FLOWは、多くが年配の市民らから成っていたという。「どうやらAqua Americaはウィスコンシン州に進出することに関心があるようだ」とGrantは言う。なぜこうした時期に水道民営化法案が提出されているかを問わなければならないという声も、一部からあがっている。

法案をめぐるさまざまな意見

Aqua AmericaのBilottaが証言したのと同じ上院人材開発・公共事業・軍事委員会の公聴会で、SB 432法案の提案者であるLasee上院議員の立法補佐官、Adam Gibbsが、水道システムの不具合や財政問題のために公営ユーティリティを手放そうと考えているおよそ20の自治体のリストを州の公共サービス委員会(PSC)がもっていると証言した。しかし、そうした自治体のリストを求められたPSCのElise Nelson広報・立法部長は、「PSCは、民間企業への売却や賃貸に関心を示しているいかなる水道ユーティリティも承知していない」と述べた。

この水道民営化法案に当初賛成していた団体のひとつに、ウィスコンシン州自治体連盟がある。しかし、同連盟の理事会は2016年2月12日、この法案への支持を取り下げることを賛成13対反対0で決議し、法案に反対する環境保護団体や水質改善要求団体などの側にまわった。

いっぽう、住民による管理がおよばなくなるという理由で水道民営化法案に当初から反対していた団体のひとつに、ウィスコンシン州公営電力ユーティリティ協会(MEUW)がある。MEUWのMatt Bromley理事長はこう述べている。「MEUWは公営の電力ユーティリティの団体であり、この法案は上下水道ユーティリティに限った話ではあるのだが、それにもかかわらずわれわれは、どのような公営ユーティリティであっても、それを売却または賃貸することを決定するには現行の州法が要求しているように住民投票によって住民と利用者の意見を反映させるべきだと強く感じている。この法案は住民投票の実施義務を取り除くものだ。われわれが問題にしているのはこの点に尽きる」

Food & Water Watchの報告書のデータ

消費者団体のFood & Water Watchは2016年2月16日、“The State of Public Water In the United States(アメリカにおける公共水道の現状)”と題する報告書を公表した。この報告書は、全米のコミュニティの水道システムを規模の大きい順から500選んで、その水道料金を調べた結果をまとめたものである。それによると、水道利用者の87%が公営ユーティリティからサービスをうけており、民営の営利ユーティリティの水道料金を公営のそれと比べると、民営のほうが公営よりも平均して58%高い(下図の右端にある2本のグラフの比較

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図 米国における公営水道料金と民営水道料金の平均値の比較
(出典:The State of Public Water In the United States)

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図 人口カバー比で見た米国における水道事業民営化率
(出典:The State of Public Water In the United States)

具体的には、1年間に使う水を仮に6万ガロンとして、公営ユーティリティの場合はその料金が平均316.20ドル(約3万5125円)であるのに対して、営利ユーティリティの場合はそれが平均500.96ドル(約5万5654円)になる。公営ユーティリティと民営ユーティリティの料金の違いは、Aqua Americaが本社を置くペンシルベニア州で最も大きく、民営水道の料金は公営よりも84%(すなわち、年間で323ドル(約3万5800円))高い。

報告書はさらに、つぎのように述べている。「アメリカ環境保護庁(EPA)の調査データも、大中小の事業規模を問わず、全体として民営水道システムのほうが公営の水道よりも高い料金を課していることを示している。また、実際問題として、民間企業が所有する水道システムの利用料金が高いことは、一般にひろく受け入れられている」

追記:下院法案、上院法案とも、2016年4月13日に不成立が確定した。

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