膜のバイオファウリングの研究に新たな進展

オーストラリアのマードック大学の研究者が、フル・スケールの淡水化プラントを使って、濾過膜上に微生物がどのように集積するかを研究した。この研究の成果は、世界中で年間150億ドル(約1兆7000億円)が費やされているといわれる膜のバイオファウリング問題への、よりよい解決策につながる可能性がある。

使用済み膜と未使用膜との微生物群集の違い

マードック大学の博士課程の大学院生、Veena Nagarajは、ロッキングハムにあるパース海水淡水化プラントで7年間使用した14基の逆浸透ユニットの膜に生息する微生物を、同じプラント内でこれから設置する未使用のユニットの微生物と比較した。その結果、長年使ってバイオファウリングを起こした膜と未使用の膜とでは微生物群集がいちじるしく違うことが判明した。これについてNagarajはこう述べている。「どちらの微生物ももちろん、淡水化プラント付近の海水に棲む生物種の一部だが、両者はたがいにまったく異なっている。海水は逆浸透膜に到達する前に、砂濾過、精密濾過、そして化学薬品による処理で、できるかぎり微生物が除去されている。膜が組み込まれている逆浸透ユニットは、高圧、高塩分濃度、高剪断力、低栄養分という過酷な環境だ。この研究でわかったのは、多くの微生物が前処理で取り除かれるが、それは単に、この環境で繁栄する少数の種の競争相手を除去したにすぎないということだ」

微生物群集形成のメカニズム

Nagarajは、バイオファウリングの原因となる微生物群集の形成を助けるプロテオバクテリアのいくつかの集団が膜上にあることをつきとめた。「これらのバクテリア集団は、膜への付着に役立つ粘着性の特殊構造をもち、一種の瞬間接着剤の役割を演じる粘液を出す」とNagarajは言う。「そのあと、いくつかの種が2次コロナイザーとして働き、微生物群集を形成する。これらがひとつになることで、過酷な環境条件からたがいを守ることができる」

バイオファウリング防止には海水中の微生物の理解が重要

こうした研究成果を踏まえて、Nagarajはバイオファウリング防止により有効な海水の前処理の方法について検討をはじめている。「淡水化プラントを建設する際には、環境エンジニアがその付近の海水に棲む微生物を理解することがきわめて重要だ」とNagarajは言う。「海水中の微生物の理解は、バイオファウリングという観点から最も問題のある微生物を狙い撃ちして排除するためのよりよい方法を考案するのに役立つだろう。それはまた、世界中の産業にとっても大きな意味のあることだろう」

マードック大学によると、Nagarajは淡水化プラントで実際に使われている膜の、使用期間を経たものを対象にバイオファウリングの全貌を調べた最初の研究者のひとりである。それ以前の研究は、実験室でおこなわれたか、淡水化プラントの実際のプロセスではないサイドストリームでおこなわれたか、またはフル・スケールの淡水化プラントであっても期間を短くしておこなわれたものしかなかった。また、今回のNagarajによる研究は、未使用膜上に存在する微生物群集を調べた最初のものでもある。この研究は、Nature Researchのジャーナル、npj Biofilms and Microbiomesで発表された[1]

[1] Veena Nagaraj et al.,2017: Characterisation and comparison of bacterial communities on reverse osmosis membranes of a full-scale desalination plant by bacterial 16S rRNA gene metabarcoding, npj Biofilms and Microbiomes, doi: 10.1038/s41522-017-0021-6
https://www.nature.com/articles/s41522-017-0021-6

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