米国におけるフラッキング廃水処理ビジネスを巡る今後の投資ポテンシャル

1. パーミアン盆地におけるフラッキング廃水処理ビジネスが活発化

米国では近年、フラッキングによるシェールオイル・タイトオイルの生産量が増加しており、なかでもテキサス州西部とニューメキシコ州東部に跨るパーミアン盆地(Permian Basin)は、最近の原油価格の上昇に伴い採掘井の新設件数が増加するなど、過去数年間において石油生産量が急増している。同地域における1日当たりの石油生産量は2018年12月時点で372万9,000バレルに達するなど、全米で最も石油生産量が多い。また2019年も引き続き石油採掘事業の活発化が見込まれているほか、石油生産量は2030年までに現行水準と比べて60%増加するとの見方もある。パーミアン盆地における石油生産量が拡大するにつれて、採掘時に使用されるフラッキングから大量の廃水が発生することから、フラッキング廃水処理ビジネスへの投資が拡大しつつある。

パーミアン盆地では、1日当たりの石油生産量が100万バレル増加するごとに、フラッキングによる廃水量は600万バレルに達するなど、大量のフラッキング廃水が発生している。今後の石油生産量の増大によりフラッキング廃水量も膨大となる。そのため、Solaris Water Midstream、WaterBridge Resources、Oilfield Water Logistics、Goodnight Midstreamなどの廃水処理プロバイダが同地域における廃水処理ビジネスの事業拡大を進めているほか、プライベート・エクリティ・ファームや投資銀行などがこれらの企業への投資を加速させている。同地域ではフラッキング廃水は一般的にトラックにて廃水井へ輸送、地下へ廃棄されている。そのため、これらの廃水処理プロバイダは、現行のトラック輸送の代替として廃水パイプラインの建設を進めているほか、一部の企業は廃水を回収、処理し、フラッキングとして再利用するために、採掘事業者へ再生水を販売している。またプライベート・エクリティ・ファームによるこれらの企業への投資額は合計5億ドル以上に達するなど、今後成長が見込まれる廃水処理ビジネスが注目を集めている。主にパーミアン盆地にて廃水処理ビジネスを展開するプロバイダによる最近の投資動向を以下のとおりまとめた。

表 主要廃水処理プロバイダによる最近の投資動向

対象企業 概  要
Solaris Water Midstream
  • Solaris Water Midstreamは2016年12月、Water Midstream Partners(WMP)の買収完了を発表した。WMPは、テキサス州西部(パーミアン盆地)にて全長35マイル以上の廃水パイプラインや廃水処理施設2カ所を所有している。Solaris Water Midstreamは、WMPが所有するこれらの資産を買収し、同地域における廃水処理ビジネスへ参入した[1]
  • 同社は2018年5月には、パーミアン盆地内のDelaware Basinにおけるフラッキング廃水を回収、処理・再生または破棄する一連の施設「Pecos Star System」の初期運用を開始した。今後、採掘地から廃水を集積、輸送するパイプラインを新設するほか、廃水の処理・再生する廃水処理施設や排水貯水池に加えて、廃水井等を新たに整備する[2]
  • 更に2018年6月には、Delaware Basinにおける工業用水道事業をVision Resourcesから買収したと発表した。「Pecos Star System」の一環として、同地域において採掘事業者に対して工業用水を供給するため、水供給パイプラインや貯水池、水利権などを獲得した[3]
WaterBridge Resources
  • WaterBridge Resourcesは2018年6月、パーミアン盆地を始めとする廃水処理ビジネスを拡大するため、投資銀行SunTrust Bankから2億ドル、プライベート・エクイティ・ファームFive Point Energyから5億ドルに上る資金調達に成功した(合計7億ドル)。同社はパーミアン盆地にて、70マイル以上の再生水供給パイプラインのほか、19箇所の廃水井などを所有している。今回の資金を活用し、関連インフラ施設を整備することで廃水処理事業を拡充する[4]
  • 同社は2018年12月には、更なる事業拡大を目的として、合計8億ドルに上る資金調達に成功したと発表した。これらの資金は、他事業者の買収を通じて、廃水処理施設や廃水井、工業用水供給パイプラインや揚水井などの上下水道インフラ施設等の買収に充当される[5]
Oilfield Water Logistics
  • Oilfield Water Logistics(OWL)は2014年5月、パーミアン盆地の廃水関連インフラ施設(主に廃水井)を取得した。同年6月には、廃水関連インフラの買収等を目的として、プライベート・エクイティ・ファームNGP子会社NGP Natural Resource X及びNGP Energy Technology Partners IIから投資を獲得した[6]
  • OWLは2018年8月には、Delaware Basin北部に位置する一連の廃水関連施設の建設開始や整備完了を発表した。同社は、11マイルに及ぶRed Hills廃水集積パイプラインの建設に着手したほか、既存インフラ(廃水集積パイプライン、廃水処理施設、廃水井)と接続するHat Connectionパイプラインを整備完了した[7]
Goodnight Midstream
  • Goodnight Midstreamは2016年8月、IPO(新規株式公開)を通じて、プライベート・エクイティ・ファームTailwater Capitalから8,000万ドルに上る資金を獲得した。同社は、ノースダコタ州バッケン・シェール層にて廃水処理ビジネスを展開しており、今回のIPOによる資金を活用し、同シェール層における廃水関連インフラの拡充に加えて、パーミアン盆地への事業拡大を図った[8]
  • 同社は2018年11月、パーミアン盆地を始め、バッケン・シェール層やイーガル・フォート・シェール層における事業拡大に向けて、ABN AMRO Capital USAやWells Fargo Bank等の金融機関が付与する現行の信用上限枠が3億2,000万ドルから4億2,000万ドルへ引き上げられたことを発表した[9]

出典:各種情報

 

2.フラッキング廃水の再利用が注目

このようにパーミアン盆地では最近、石油生産量の増加に伴い、フラッキング廃水処理ビジネスが活況にある。同廃水の一部は処理され石油採掘に再利用されているものの、その大部分は廃水井を通じて地下の枯渇した油田へ注入、廃棄処分されており、廃水を再利用することができない状況にある。同手法は採掘事業者にとり最も低廉で容易であることから、フラッキング廃水の一般的な処理方法として実施されている。しかし、大量の廃水を地下へ注入することで、オクラホマ州やカンザス州などでは地震が誘発されているなどの課題も見受けられる。更に、テキサス州を含めた米南西部では近年、干ばつによる水不足が深刻化しており、地下へ廃棄処分されているフラッキング廃水を回収、処理し、再生水として再利用する取り組みが進みつつある。再生水は主に、フラッキングに使用される水として再利用され、石油採掘での用途に限定されてきた。しかし最近では、再生水を石油採掘以外の用途である、農業用水や引いては飲用水として再利用する動きが見られる。

その先駆けとしてニューメキシコ州政府は2018年11月、石油・ガス採掘により発生するフラッキング廃水の再利用に向けた文書草案を発表した。同州政府は、米環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)の支援の下、フラッキング廃水の処理や再利用を促す法的枠組みや許認可手続きにおける役割等を明確化し、農業利用、引いては飲用水など、石油・ガス採掘以外の目的で再利用することを掲げている。同文書草案は同年12月上旬にパグリックコメントの募集が締め切られ、これを反映した最終版の作成が現在進められている。

またテキサス大学アーリントン校(University of Texas at Arlington)研究チームは、油田採掘関連サービスプロバイダChallenger Water Solutionsと共同で、イーガル・フォート・シェール層の採掘時に発生するフラッキング廃水の有効利用(再利用)が可能となる新たな処理技術の開発を進めている。フラッキングには水や砂のほか、少量の様々な化学物質が含まれており、石油・ガス採掘事業者は企業秘密の観点からフラッキングの構成物質を公開しない傾向にある。そのためテキサス大学アーリントン校は、同シェール層での採掘に発生するフラッキング廃水を、分離、凝集、消毒といった一連の処理過程を通じて、石油・ガス採掘への再利用を阻害しうる膨大な数に上る有機化合物や無機化合物等を試験した。その結果、石油を劣化させ、鉄製パイプや装置を腐食させるバクテリアを特定したほか、シェール層への浸透性や多孔性を阻害し石油生産を鈍化させる構成物質の発見に成功した。同大学による研究成果は現時点で、フラッキング廃水の石油・ガス採掘への再利用を目的としており、農業などの他の用途で活用するには更に研究が必要としている。しかし、フラッキング廃水の構成物質を特定化しそれを除去する処理技術を開発することで、処理水を石油・ガス採掘以外の用途に将来活用することを視野に入れている。特に、パーミアン盆地では石油採掘量に対するフラッキング廃水発生量の比率が高いことから、テキサス大学アーリングトン校は同地域への適用を念頭に置いている。

またコロラド州に拠点を構える廃水処理ベンダAgua Dulce Technologiesは、フラッキング廃水やその他の廃水を処理、再生する廃水処理施設の建設を同州にて進めている。同社は、膜分離法の一種である独自の浸透気化法(パーベーパレイション)を用いて、表面積が多い複数のセラミック管を活用し、適度に低温且つ低圧の条件の下で廃水に含まれた鉱物の塩分を分離する。同社は更に、廃水処理過程の前段階として、前処理技術を導入し、廃水から残余分の石油を回収するとともに固形堆積物を除去する。Agua Dulce Technologiesは、廃水処理施設を建設するにあたり、Samuel Engineeringとパイロットプロジェクトを実施したほか、同プロジェクト終了後はProcess Engineering Associatesと共同で、前処理と浸透気化法との双方を対象とした配管設計や計装設計など実施した。また廃水処理施設の実現可能性や同施設の設計をTetra Techと共同で検証した。

 

3.まとめ

このようにフラッキング廃水の処理、再利用は、特に水不足の地域では新たな水資源として注目されている。しかし、フラッキング廃水の再利用は、環境や安全性の面から懸念の声も聞かれる。ペンシルバニア州では2008年、シェールガス採掘に使用されたフラッキング廃水を地域の公共下水処理場へ持ち込んだ結果、廃水に含有する特定の化学物質が未処理のまま周辺の河川へ放流したことで、上水道が汚染される事態に陥った。そのため同州政府は2011年、公共下水処理場へのフラッキング廃水の持ち込みを制限するよう採掘事業者に対して要請した。その後EPAは、フラッキング廃水の公共下水処理場への持ち込むを禁止する規制を2016年6月に策定した。フラッキング廃水を処理し、再生水を農業や飲用水など、石油・ガス採掘以外の用途へ活用するには、更なる技術革新と法規制の整備など、安全性の確保が鍵となる。石油・ガス採掘以外の用途でフラッキング廃水を再利用することで、地震誘発や水不足など、現在直面している様々な課題を解決する一つの手段として、今後の動向が注目される。

[1] http://www.solarismidstream.com/news/solaris-midstream-holdings-subsidiary-solaris-water-midstream-announces-merger-water-midstream

[2] http://www.solarismidstream.com/news/solaris-water-midstream-begins-operation-its-pecos-star-system

[3] http://www.solarismidstream.com/news/solaris-water-midstream-acquires-new-mexico-water-supply-business-vision-resources-inc-and

[4] Phttps://www.prnewswire.com/news-releases/waterbridge-resources-llc-announces-200-million-revolving-credit-facility-to-fund-growth-projects-300666863.html

[5] https://www.prnewswire.com/news-releases/waterbridge-resources-llc-announces-800-million-debt-facilities-to-fund-water-infrastructure-acquisitions-from-halcon-resources-corporation-and-ngl-energy-partners-lp-and-to-support-ongoing-organic-growth-300770055.html

[6] https://www.pehub.com/2014/06/natural-gas-partners-invests-in-oilfield-water-logistics/

[7] https://www.businesswire.com/news/home/20180830005683/en/OWL-Expands-Northern-Delaware-Basin-Produced-Water

[8] https://www.prnewswire.com/news-releases/tailwater-capital-announces-investment-in-goodnight-midstream-300311478.html

[9] https://www.prnewswire.com/news-releases/goodnight-midstream-upsizes-its-credit-facility-to-420m-to-support-continued-infrastructure-growth-300745728.html

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