欧州環境庁、地表水系で混じり合う化学物質の複合作用への対応促す報告書を公表

欧州環境庁(EEA)は2019年1月16日、報告書「欧州水系の化学物質-知識の進展[1]」を公表し、欧州規模の対応(大半はEUの規制)のおかげで過去50年近くの間に一部の危険な化学物質が欧州の多くの地表水系(湖や河川など)に入るのを減らし、防ぐことに成功してきたが、水銀や臭素系難燃剤、そして水枠組み指令(2000/60/EC)で優先監視対象となっていない多くの有害化学物質への効果的対応という点で課題が残ると指摘した。また、水中で低濃度の様々な化学物質が混じりあう“カクテル作用”がもたらす危険への対応にも、もっと注目する必要があるとした

報告書は、どの化学物質が(特に水中存在時に)引き続き重大な環境リスクとなっているのかを、より良く理解することを狙いとし、悪影響を抑制・最小化する上で知識・理解の改善が、いかに貢献し得るかも検討している。また水枠組み指令(WFD)の下で水質評価に用いられている汚染物質に関する情報を概観し、水質評価に利用可能な新しい技法について記している。主な指摘は次のとおり。

  • WFDの優先監視物質の多く(カドミウム、鉛、ニッケル、殺虫剤のクロルフェンビンホスやシマジンなど)は、環境中への放出を防ぐ欧州の対策が奏功し、水系中の存在量が著しく減っているが、環境中には、それ以外の化学物質も多く存在し、これらが地表水系にとってリスクとなっていないかを知るため、情報と知識の改善が必要。
  • 主に懸念されるのは、個別に害のない濃度で存在する化学物質が混ざり合って健康リスクを生じさせるカクテル作用である。自然環境中では地表水系に入り込む化学物質が天然の鉱物塩や有機物、そして下水や農業排水などの廃水中の養分と混じりあう。そこに大気中に含まれる化学物質が雨やチリなどの形で降下して加わってくる。一つの淡水試料から、低濃度の有機化学物質が数百種も検出されることが普通になっているが、それが生じさせるリスクの程度は十分に理解されていない。
  • 今後の地表水系の保護には改善の余地がある。既存のEU規制は水を柔軟に管理する方法を提供しているが、混じり合った化学物質を評価する最近の科学的進歩を反映していない。環境への負荷を正確に把握し、対策の狙いを適切に定めることが確実にできるよう、化学物質の排出に関するデータ報告の信頼性を高め、散在汚染源(農業など)の監視・モデリング・報告を改善すべき。
  • EEAが2018年7月に出した報告書「欧州の水系-2018年の状況と負荷の評価[2]」では、監視対象の地表水系のうち、化学物質の点で良好な状態(どの優先監視物質の濃度もEU共通の環境基準を超えていない)にあるのは38%のみと判明した。大半の加盟国で最も基準超えが多かったのは水銀(最近では石炭燃料プラントに起因するものが主流)で、次にカドミウム、そのほかポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)や多環式芳香族炭化水素(PAH)も多く見られた。


図 地表水における水銀の環境基準の超過状況
(出典:欧州水系の化学物質-知識の進展)

[1] 報告書は下記URLから閲覧可能。
https://www.eea.europa.eu/publications/chemicals-in-european-waters

[2] https://www.eea.europa.eu/highlights/european-waters-getting-cleaner-but