中国・環境モニタリング事業の発展状況

中国の環境保全関連事業の全面的な加速に伴い、近年、環境モニタリング事業分野は、政府内で重要視されている。特に「十三五」期間において、一連の政府促進策の実施に伴い、市場が更に拡大し、環境モニタリング業界の急成長につながっている。またモニタリング第三者サービス、ビッグデータの応用サービスなど新業態も発展し始めている。そこで本稿は、近年の中国の環境モニタリング事業の発展状況と方向を解説する。

 

1. 中国の環境モニタリングの政策方向

近年、中国は生態環境の改善に力を入れている。特に「十二五」期間(2011-2015年)以降、関連法制度の構築、政策・基準作り、事業展開が全面的に加速されている。生態環境モニタリングは「生態環境保護の基礎」として政府にとって重要な位置づけとなっている[1]。「十三五」期間(2016-2020年)では、中央政府の推進のもと、全国の環境監視ネットワークの構築、汚染源の監視強化、計測水準・品質の向上、関連基準作りの加速など関連事業が全面的に展開されている。

1.1 生態環境モニタリングネットワークの構築

2015年7月、中国国務院は、「生態環境監測網絡建設方案」を公表し、「2020年までに、環境質、重点汚染源、生態状況をカバーする全国生態環境モニタリングネットワークの大半を達成する」といった目標を明確にした。同方案では水、土壌、騒音、放射線などの要素を含む全国環境質モニタリングネットワークの建設、通信技術・ビッグデータ応用による監視情報の共有などの重要任務を明確にした。同「方案」の公表・実施に伴い、各地方も地方レベルの建設方案を策定し、「北京市生態環境監測網絡建設方案」(2016年9月)や「広東省生態環境監測網絡建設方案」(2017年3月)などがその一例である。

政策推進のもと関連事業が進み、水分野においては、国レベルの地表水の監視システムが2018年までにほぼ完成し、全国1366の重要河川および139の重要湖における国レベルの水質自動監視ステーションが完成し、一部ステーションを除き、監視データのオンライン転送も実現された。また省レベル・市レベルの水質自動監視ステーションの建設も加速している。また地下水に関しては、2019年3月、生態環境部は「地下水汚染防止実施方案」を公表し、2025年までに全国地下水環境モニタリング・システムおよび地下水環境監視情報プラットフォームの完成といった目標を挙げている。

1.2 重点汚染源における監督管理の強化

「水汚染防止行動計画」(2015年4月)、「土壌汚染防止行動計画」(2016年5月)および「国家重点監測企業自行監測及び情報公開弁法(試行)」(2013年7月)など一連の政策では、汚染物質排出企業に対して自主的にモニタリングを行い、関連の環境保護部門は定期的に監督管理を行うべきであると要求している。

さらに、2016年に発表された「『十三五』生態環境保護計画」では、すべての固定汚染源を含む企業排出許可証制度の設立が目標として打ち出された。その後、「排汚許可管理弁法(試行)」に続き、「排汚許可証申請と核発技術規範 水処理(試行)」(2018年11月)を含む15業種の汚染物質排出許可の申請・発給規範および「排汚単位自行監測技術指南 総則」(2017年5月)をはじめとする11業種の企業自主モニタリング指南の公表によって、汚染物質排出許可証制度が整備されている。各企業は許可証を申請する際、これらの指南に基づき、自主モニタリング計画を立て、取得した後に許可証に明記される内容通りに、自主モニタリングを展開しなければならない

表 各業界自主モニタリング指南リスト

No. 名称
1 排汚単位自行監測技術指南 総則(HJ 819-2017)
2 排汚単位自行監測技術指南 鋼鉄工業及びコークス化学工業(HJ878-2017)
3 排汚単位自行監測技術指南 紡績捺染工業(HJ879-2017)
4 排汚単位自行監測技術指南 石油精製工業(HJ880-2017)
5 排汚単位自行監測技術指南 採取類製薬工業(HJ881-2017)
6 排汚単位自行監測技術指南 発酵類製薬工業(HJ882-2017)
7 排汚単位自行監測技術指南 化学合成類製薬工業(HJ883-2017)
8 排汚単位自行監測技術指南 電気メッキ(HJ985-2018)
9 排汚単位自行監測技術指南 農副食品加工業(HJ986-2018)
10 排汚単位自行監測技術指南 農薬製造工業(HJ987-2018)
11 排汚単位自行監測技術指南 板ガラス工業(HJ988-2018)
12 排汚単位自行監測技術指南 非鉄金属工業(HJ989-2018)

汚染源自主モニタリングを含む企業の責任が強化されている一方、関連部門の監督管理の厳格化も推進されている。2017年国家重点監督管理企業リストが発表され、1万4200社がリストに登録された。廃水排出企業2504社、排ガス排出企業3365社、汚水処理場3991箇所、重金属企業2535社、危険廃棄物関連企業1785社、養殖場20箇所が含まれている。登録された企業は、前年度の環境統計の重点調査範囲に含まれている。そのほかにも省レベル・市レベルの重点監督管理企業リストも地方政府により定められ、「汚染源自動監控施設運行管理弁法」(環境保護部・2008年5月)および地域別の「重点汚染源環境監察管理規定」に沿って監督管理を受けることとなる。

1.3 監視「質」を重視し、特別取組を実施

環境モニタリング体系の構築につれて、全国各地の環境モニタリング事業の展開が始まった。しかし、一部の地方政府が実績について高く評価されるため、データを偽造・改ざんする現象が起きている。そのため、中央政府は政策を打ち出し、データ品質の向上を図るようになった。2016年中国環境保護部に公布された「『十三五』環境監測質量管理工作方案」および2017年国務院に発表された「関於深化環境監測改革・提高環境監測数据質量の意見」は環境モニタリングデータへの不正関与を取り締まり、社会環境モニタリング機関のサービスレベル・質を向上させる目標、計画、手段などの内容を打ち出した。

2018年、上記の政策目標を実現するため、生態環境部は「生態環境監測質量監督検査三年行動計画(2018-2020年)」を公開し、3年以内にモニタリング機関および汚染物質排出企業・運営機関のモニタリングデータ質に対する検査を行うことを発表した。

生態環境モニタリング網の構築を推進すると同時に、環境モニタリングデータ質を向上させ、環境モニタリング事業の健康的な発展を図る。

1.4 環境モニタリング関連基準作りの強化

2017年4月、環境保護部は「国家環境保護標準『十三五』発展計画」を公布し、「十三五」期間中に、400件の環境モニタリング類標準を含む、約900件の環境標準を制定するという計画を発表した。このなかには、質量標準、排出標準およびその他の環境管理制度の実施に適合する環境モニタリング類の標準体系を構築することが含まれている。環境モニタリング分析方法標準については、水・大気汚染物質へのモニタリング方法標準、土壌有毒有害汚染物質分析方法標準などを制定する。環境モニタリング技術規範に関しては、地表水・汚水モニタリング技術規範体系の完備、環境大気手動モニタリング・自動モニタリング技術規範の制定、土壌環境モニタリング技術規範の策定を行う。

水関連分野においては、生態環境部は「地表水自動監測技術規範(試行)」(2017年12月)、「汚水監測技術規範(意見募集稿)」(2018年6月)、「地下水環境監測技術規範(意見募集稿)」(2019年2月)などの国家環境標準を相次いで発表した。

1.5 第三者サービスの導入

上記の内容の通り、政府は環境質モニタリングと生態モニタリングの実施、汚染源モニタリングの監督管理に対して主体責任を持つ。しかし、伝統的な環境モニタリング体制は社会環境モニタリングの需要を満たすのが難しいために、関連マーケットの需要が増加している。このような状況から、多くの社会環境モニタリング機関がマーケットに参入し始めている。

2015年2月、環境保護部(現在は生態環境部)は「関於推進環境監測服務社会化の指導意見」を公布し、環境モニタリングに関するサービスを必要とする政府・企業向けのモニタリング市場を全面的に開放し、社会環境モニタリング機関の発展について規定を制定し、支援を提供し、環境モニタリングサービス主体の多元化およびサービス方式の多様化を推進するなどの方針を示した。環境モニタリング第三者機関の発展のため、市場環境を整える傾向がみられる。

それに続き、2015年11月、財政部と環境保護部によって公布された「環境監測体制改革の実施意見」によると、中央政府に返上される環境モニタリングステーション、モニタリング断面などは原則、政府サービス調達の方式で第三者機関に委託することになる。

環境質モニタリングの実施を直接に担当していた政府はサービスを購入するなどの方式で、モニタリングの実施・運営・維持を社会機関に委託し、監督管理を担当するようになり、環境モニタリングの社会化が始まった。

 

2. 中国の環境モニタリング関連業界の発展状況

現在、環境空気、地表水、酸性雨、沿岸海域、土壌、騒音および生態などの要素を含んだ国家環境質量モニタリングネットワークが基本的に構築されている。2015年、中国環境モニタリング業界市場規模は367億元を超え、「十二五」期間中の業界年平均成長率が17.6%に達していた。

「『十三五』環境監測質量管理工作方案」などの政策の公布により、環境モニタリング業界はさらに発展し、2020年の市場規模は800億元を突破し、「十三五」期間中に水質モニタリング市場は300億元を突破する見込みである[2]

2017年、中国環境モニタリング機器業界の売上総額は65億元を突破し、前年同期比が1.56%増であった。その中で、水質モニタリング機器の売上が全体に占める比率は最も高く、34%であった。

企業別では、聚光科技、先河環保、北京雪迪龍、中環装備の支社である天融科技および盈峰環境の支社である宇星科技という上場企業5社の売上総額は31.4億元に達し、前年同期比34.8%増であった。5社の業界売上総額に占める比率は2016年の36.4%から2017年の48.1%に上がった[3]

環境モニタリング業界の急速な発展および競争の激化により、業界トップ企業は自社の技術優位、ブランド影響力、多面的なソリューション、多様なサービスを生かし、市場占有率をさらに広げると考えられる。

 

3. 新たな市場ニーズ

政策の強化に伴い、環境モニタリング市場ニーズの新しい変化も現れ始めている。

モニタリング機器に対する要求

水関連分野において、2017年8月、生態環境部は「関於加快重点行業重点地区の重点排汚単位自動監控工作の通知」を公開し、各汚水処理場および窒素やリンを排出する重点業種のなかの重点企業に対して、総窒素・総リンの自動モニタリング設備の設置が義務化された。これにより、総窒素・総リンのモニタリングのニーズが拡大している。

生態環境モニタリングネットワークの構築に伴い、水分野における汚染源の追跡、汚染予知と未然防止のため、特定地域、流域において、より集中したモニタリング装置の設置が必要となり、コストが安く且つ複数指標を同時にモニタリング可能な小型多項目自動モニタリング装置に対するニーズが高まっている。また、実験室での機械分析・現場サンプル採取を含む伝統的な水環境モニタリング手段では現在のニーズを満たすことができなくなり、水質オンライン自動モニタリング機械・システムのさらなる開発は水環境モニタリング分野の発展方向の一つになると考えられる。そのほか、監督管理の強化につれて、汚染源モニタリング設備の運営維持の効果およびデータ質の向上が求められる。

水分野以外では、工業VOCsモニタリング分野、土壌環境モニタリング分野が関連政策の推進のもとでニーズが拡大している。

ビッグデータの応用

2016年3月に環境保護部(当時)は「生態環境大数据建設総体方案」を公布し、生態環境ビッグデータの建設を通じ、2020年までに「生態環境総合決策の科学化、生態環境管理の精確化、生態環境公共サービスの利便化」の実現といった目標を挙げている。それに伴い、ビッグデータの生態環境分野での応用が促進され、関連事業が各地で展開しいる。

2018年4月、中国で初の省レベル生態環境ビッグデータ・プラットフォームである福建省生態クラウドプラットフォームが正式に運営開始した。当プラットフォームは省・市・県レベルの環境システムのデータ、一部の関連部門の業務データおよびIoT・インターネットのデータを集成、分析、処理する仕組みである。福建省環境情報センターは入札方式でプラットフォームの建設を第三者機関に委託した。福建省星雲大数据応用服務有限公司はそれぞれ489.8万元、993.6万元の金額で、当プラットフォームの一期(2016年)、二期(2018年)建設プロジェクトを落札した。また青海省、四川省、江西省、山東省、河南省、甘粛省、河北省などの地域も省レベルの環境モニタリング・ビッグデータ・プラットフォームの構築に取り組み、環境モニタリングデータの活用を図っている。

 

まとめ

環境モニタリングは環境保全事業の重要な要素として、中国政府に重視されている。一連の政策の公布により、大気、水、土壌などを含む環境モニタリングネットワークの全面的な構築が行われ、汚染源に対する監督管理も厳格化され、モニタリングデータの正確性の向上もより一層求められる。

環境モニタリング事業の全面的展開と第三者機関への委託形式の出現によって、水質モニタリングを含む環境モニタリング市場は更に拡大する傾向がみられる。環境モニタリングとビッグデータを活用した新たな環境マネジメントシステムの構築は、政府に重視され、国からも直接推進されていることもあり、これからの有望分野であるとみられる。

[1] 出典:中国国務院:「生態環境監測網絡建設方案」(2015年7月)

[2]出典:前瞻産業研究院:「生態環境監測業界発展前景予測と投資戦略計画分析報告」(2017年10月)。

[3]出典:中国環境モニタリング総ステーション:「環境監測機械業界2017年発展総述」(2018年8月)。