英国オックスフォード大学、都市部と農村地域間における水の再分配を巡る研究調査を発表

英国オックスフォード大学国際研究チームは2019年4月中旬、都市部の人口増加に伴う水需要を満たすために、農村地域にて利用可能な水を都市部にて活用するという水の効率的な再分配に関する研究成果を発表した。その結果、合計3億8300万人が居住する世界69カ所の都市において、年間約1600m3に上る水が農村地域から都市部へ再分配されていることが明らかとなった。これらの都市で1年間に再分配される水の量は米コロラド川の年間流量に匹敵する。

オックスフォード大学国際研究チームによる今回の研究成果は、環境科学学術雑誌「Environmental Research Letters」にて公開された[1]。農村地域から都市部への水の再分配を巡る研究はこれまで断片的であったことから、同チームは世界各国を対象とした水の再分配に関する体系的な研究調査を世界で初めて実施した。オックスフォード大学エンタープライズ・エンバロメント・スミススクール(University of Oxford’s Smith School of Enterprise and the Environment)の環境マネジメント学部Dustin Garrick准教授は、中国、インド、メキシコなどの主要国の専門家で構成された国際研究チームを結成し、約100件に上る文献を検証するとともに、世界的な水の再分配に関する新たなデータベースを構築した。その結果、北米やアジア地域では、農村地域から都市部への水の再分配が最も盛んであり、アジア地域ではその傾向が顕著であることが結論付けられた。特にヨルダンのAmmanやインドのHyderabadといった合計21カ所の都市では、水の再分配プロジェクトが複数実施されている。

現在世界の都市人口は1960年と比べて4倍に膨れ上がり、都市部と農村地域間における水獲得競争が激化している。都市人口は2050年までに更に25億人増えることが予想されており、今後も増加する傾向にある。比較的水が豊富である英国でさえ、英環境庁(Environment Agency)が警告しているとおり、25年後には水不足に陥ることが懸念されており、農村地域から都市部への水の再分配に関する関心が高まりつつある。また、ケープタウン、メルボルン、サンパウロなどの都市では過去10年間において干ばつが深刻化しているほか、気候変動の進行が水資源確保に向けたプレッシャーや水の再分配を巡る地域の意思決定に影響を与えている。

Garrick准教授は、「我々の研究成果によると、水の再分配を適切に管理できるかが今後の鍵となる。都市部と農村地域は水の再分配を巡り交渉を行い、紛争を緩和するとともに、水の再分配によって受ける影響を抑制しつつ、利点を互いに共有する話し合いが必要である」と述べている。また同氏は続けて、「今回の調査結果は氷山の一角であり保守的に見積もった予測である。特に南米やアフリカでは水の再分配を巡る課題が深刻化しており、都市部と農村部間の水の再分配に関するコストや利益、規模などを我々は過小評価し過ぎている」と述べた。

Garrick准教授とその研究チームによる今回の分析は、将来的に農村地域と都市部の双方が利益を得る「win-win」の関係を構築支援するために、水の再分配プロジェクトを成功に導く主要な要素や脅威を特定する第一歩として有益である。

[1] Dustin Garrick et al., Rural water for thirsty cities: a systematic review of water reallocation from rural to urban regions, Environmental Research Letters
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/ab0db7/meta