「ホットスポット」への集中照射で太陽光淡水化の効率を50%改善――ライス大学

太陽光とナノ粒子を使った淡水化の効率を当初予想されていたより大幅に改善することに、ライス大学(テキサス州ヒューストン)の研究チームが成功した。同大学ナノフォトニクス研究所(LANP)の研究者らはこのほど、既存の太陽光淡水化システムに安価なプラスチック・レンズを付加して太陽光を「ホットスポット」に集中させるだけで効率を50%以上改善できることを示す研究成果を、Proceedings of the National Academy of Science誌上で発表した[1]

この論文の共筆頭著者で、ライス大学ジョージ・R・ブラウン工学院で応用物理を専攻している大学院生、Pratiksha Dongareはこう述べている。「太陽光を利用したシステムの性能を上げるには、通常だと集光器を付加してより多くの光を当てるという方法がとられる。だが、われわれの方法がそれと大きく異なるのは、当てる光の量そのものは違わないという点だ。光のエネルギーを安価な方法で再分配して造水率を劇的に向上させられることを、われわれは示した」

膜自体を太陽光による加熱素子に

膜による従来の淡水化では、塩分を含む熱い水がシート状の膜の片面を流れ、冷たい濾過水が反対面を流れる。この温度差が蒸気圧の差を生み、これによって、加熱側の水蒸気が膜を通って低温低圧側に移動する(下図)。この技術をスケールアップするのは難しい。膜が大きくなるにつれ、膜全面にわたって温度差を維持するのが困難になり、温度差の低下とともに造水量が減ってしまうからである。ライス大学の「ナノフォトニクス利用太陽光膜淡水化」(NESMD)技術は、光吸収ナノ粒子を使って膜自体を太陽光利用加熱素子にすることにより、この問題を解決している。

Dongareと、同じく共筆頭著者のAlessandro Alabastriらの共同研究者たちは、膜の最上層を、すでに市場にある安価な、太陽光エネルギーの80%以上を熱に変換するナノ粒子でコーティングした。この太陽光によるナノ粒子加熱の採用で生産コストが下がることから、ライス大学の研究者らは、この技術をスケールアップして電力網の届いていない遠隔地で応用することをめざしている。

入射光強度と蒸気圧との非線形な関係

NESMDのコンセプトとそこで使われている粒子は、今回の論文の共著者に名を連ねているLANPのNaomi Halas所長とOara Neumann研究員が2012年に初めて実証に成功したものである。今回の研究でHalas、Dongare、Alabastri、Neumann、およびLANPの物理学者Peter Nordlanderは、入射光の強度と蒸気圧とのあいだに本来あるものだが以前は認識されていなかった非線形な関係を利用できることに気がついた。ライス大学電気・コンピュータ工学科のTexas Instruments Research助教を務める物理学者、Alabastriは、線形な関係と非線形な関係の違いを簡単な数学的例題によって説明している。「足すと10になるふたつの数――7と3、5と5、6と4など――があったとする。そのふたつを足し合わせると答はいつも10だ。だが、プロセスが非線形であれば、足し算の前に2乗、場合によっては3乗されることもある。すると、たとえば9と1の場合、9の2乗の81と1の2乗の1が足し合わされて答は82になる。これは、線形な関係の場合に得られる最高の値の10と比べてはるかに大きな値だ」

NESMDにおいては、非線形な関係への改善は子どもが天気のよい日に虫眼鏡でするのと同じように太陽光を微小なスポットに収斂させることによって実現している(下図)。太陽光を膜上の微小なスポットに収斂させることによって、そこで発生する熱は線形に増加するが、そのスポット加熱が蒸気圧の非線形な増加を引き起こす。こうして増加した圧力が、より多くの純粋な水蒸気をより短い時間に膜を通過させる。Alabastriはこう述べている。「膜全面に光子を一様に分布させるよりも、より小さな領域により多くの光子を照射するほうがつねによい結果を生むことを、われわれは示した」

光活性化ナノマテリアルの利用について25年以上にわたって研究をリードしてきた化学工学者のHalasはこう述べている。「非線形の光学的プロセスがもたらす効率改善が重要なのは、世界のおよそ半分の地域で水不足が常態化しているなか、効率のよい太陽光淡水化がその状況を変える可能性を秘めているからだ」Halasはさらにこうつづける。「この非線形な光学的効果は、単に浄水への応用にとどまらず、太陽光による加熱を光触媒反応などの化学プロセスに利用する技術の改善にもつながる」

こうした試みの一例としてLANPは、大気圧のもとでアンモニアを水素燃料に変換するための銅ベースのナノ粒子の開発に取り組んでいるところである。

[1] Pratiksha D. Dongare et al., Solar thermal desalination as a nonlinear optical process, Proceedings of the National Academy of Science
https://www.pnas.org/content/116/27/13182

タグ「, 」の記事:

2020年7月6日
中国標準化研究院、「汚水処理装置一式」など3本の国家標準の意見募集稿を公表し意見募集
2019年12月20日
チリの銅開発公社Codelco、丸紅のコンソーシアムが落札していた淡水化プラント建設の入札をキャンセル
2019年12月11日
Suez、ハンガリーのオロスラーニにあるUF膜グローバル製造拠点を拡張
2019年12月11日
金属有機構造体で淡水化用高性能膜を実現へ
2019年10月15日
チリの銅公社Cochilco、2018年度の銅鉱山での地表水、海水、再利用水の使用状況を発表