世界気象機関、水文学と水資源に関する長期目標を採択、情報の共有と統合を強調

国連の世界気象機関(WMO)は、2019年6月11日、6月3日に開幕した世界気象会議で、「水文学[1]と水資源(Hydrology and Water Resources)」計画の新たなビジョンと戦略を方向付ける長期目標が採択されたと報じた。同会議では、水の需給逼迫、洪水や干ばつ、水質汚染など水に関わる危機が深刻化する中、水資源を監視、管理する能力と体制が細分化され不十分と総括し、WMOが運用する水文学サービスの強化と監視、予測の改善に優先して取り組むことが確認された。今回採択された長期目標は、同会議の期間中に開催された水文学会合(Hydrological Assembly)の議論と結論を踏まえ設定されている。

多くの国が抱える水資源問題の危機

現在、多くの国は以下のような問題を抱えている。

  • 関連データの監視・分析能力が不足し、主要インフラや都市計画が古くて不完全な情報に基づいて行われている。
  • 国境を越える河川や淡水域は、関係国間の平和と紛争の潜在的な要因となっている。
  • 気象および気象サービスと、水文学および水サービスは別れている。

こうした課題を議論するため、水文学会合が3日間開催され、水資源管理のための持続可能な監視と意思決定支援を確実に実施し、災害リスクの軽減化を支援するためのロードマップが作成・採択された。また、WMOと世界水パートナーシップが、分散している水資源管理を統合する分野横断的な統合型水資源管理で協力する覚書を取り交わした。

世界気象会議が合意した8つの長期目標

同会議では、水に関連するWMOの活動を方向付ける8つの長期目標が承認された。

(1) 洪水の脅威に対する認知
(2) 干ばつへの完全な備え
(3) 食料の安全保障を支える水文学気候と気象データ
(4) 科学を支える高品質のデータ
(5) 水文学運用に健全な基盤を提供する科学
(6) 世界の水資源に関する十分な知識の保有
(7) 持続可能な開発を支える完全な水文学循環を網羅する情報
(8) 水質情報の把握

同会議はまた、より統合された気象、気候、水、環境、海洋サービスを含め、よりシームレスなアプローチを目指すWMOの統治構造改革の一環として、WMOの活動に幅広い水文学コミュニティの関与と参加を増やすことで合意した。 

ハイレベルのパネルセッションで出された主な意見

持続可能な開発目標の水利用の在り方に焦点を当てたハイレベルパネルの議論では、次のような意見が出された。

  • 複数のストレス要因により、水の循環および水資源の分配と利用可能性に影響
  • WMOは、水に対し、より積極的に調整と指導的役割を果たすことが必要
  • 水文学データとサービスの拡大に向けた市場において、WMOは、特定の利益と一般的な社会的利益とのバランス構築に寄与すること
  • データの収集、管理、共有は、適切な水管理ソリューションを開発するための基本で、特に越境流域の意思決定に対する情報提供では根本的に重要となる。

WMOの水文学・水資源プログラム

WMOは、地球の大気の状態と動き、大気と海洋の相互作用、それらが作り出す気候とその結果による水資源の分布などの科学情報を提供し、また、グローバルな監視体制およびグローバル、地域、国のセンターのネットワークを通して気象、気候、水文学的予報サービスを提供している。現在、193の国・地域が加盟している。WMOの水文学・水資源プログラムは、地球上の水資源の評価、管理、維持を支援し、また、水文学に関するネットワークとサービスを発展させる国際協力の促進をめざす。さらに、複数の国が共有する河川流域内での協力を強化し、洪水の多い地帯では特別な予報を行っている。WMOの戦略や予算は、4年ごとに開催される世界気象会議で決定される。

[1] 水文学(hydrology)とは、特に、人間にとって重要な河川水、地下水、湖沼水をその循環過程から、地域的な水のあり方・分布・移動・水収支等を主眼に研究する科学。