シンガポール南洋理工大のスタートアップ企業、革新的な多機能膜を開発

シンガポールの南洋理工大学(NTU)のスタッフらが2年前に設立したスタートアップ企業が、この種のものとしては世界初の多機能濾過膜を開発した。コスト面でも性能面でもすぐれたこの膜は、水ビジネスで現在使われている膜を一挙に時代遅れにしてしまう可能性を秘めている。

このNTU製の膜は、従来の膜の2倍の寿命があり、きわめて破れにくく、抗菌と抗バイオファウリングの性質を備えている。さらに画期的なのは、この膜が従来の濾過膜のすくなくとも10倍という空前の流量を可能にすることだ。NTUのスタートアップ企業、Nano Sunが開発したこの画期的な多機能膜の中核をなすのは、酸化チタンを使ったナノテクノロジーで、これはすでに特許取得済みである。酸化チタンのナノ粒子は細菌を殺し、日光または紫外線の照射により排水中の有機化合物を分解することが知られている。

この膜はNTUの土木・環境工学部のDarren Sun准教授が発明した。Nano Sunを設立したのは、このSun准教授と、NTUの南洋ビジネス・スクールのWong Ann Chai非常勤講師である。Wong講師は、DBS銀行とNormura Singaporeで投資業務をおこなっていた経歴がある。Nano Sunは設立後わずか2年しか経過していないにもかかわらず、水ビジネスが直面する最重要課題のいくつかの解決に役立つ新技術の大きな可能性が業界に認められ、その企業価値は8000万ドル(約87億円)と評価されている。

Sun准教授はスタンフォード大学の客員教授も勤めており、世界中の水処理施設で使われているさまざまなシステムをこれまでに開発してきた。水処理の画期的な技術の必要性について、Sun准教授はこう述べている。「世界の人口のますます多くが都市に移動し、ますます多くの廃水を生じさせる時代にあって、費用対効果性の高い技術が真に求められている。従来のポリマー・ベースの濾過膜には、ファウリングや破れやすさといった問題がある。いっぽう、工業生産の盛んな途上国は、処理がますます困難になる廃水を生み出している」同准教授はさらにこうつづける。「世界が必要としているもの――そしてわれわれが開発したもの――は、大量の汚染水や未処理水を、素早く、安全に、しかもわずかなコストで飲用水に変えることのできる画期的な技術だ」

水ビジネスが直面している問題を解決する

バイオファウリングと有機化合物は、その規模2000億ドル(約22兆円)といわれる世界の水ビジネスにとって大きな問題である。従来のポリマー・ベースの濾過膜は、濾過の対象物によって目詰まりを起こしやすいからである。

ところが、Nano Sunの新しい膜では、有機物と細菌は膜に接触した時点で殺され、破壊されるので、バイオファウリングは大幅に低減される。分解しない有機物があったとしても、それは膜を摂氏700度のオーヴンに入れればすぐに燃やしてしまうことができる。この膜は従来のポリマー膜と違って高温に耐えられるからだ。

業界の関心

Nano Sunの共同設立者にして現在は社長の職にあるWong講師は、この新技術の応用範囲と影響のおよぶ範囲はきわめて広いと言う。これについて、NTUで金融論を教えているWong講師はこう述べている。「廃水処理施設や淡水化プラントの改善に役立つのはもちろんだが、そのほかにも、すでに食品・飲料業界の複数の多国籍企業が、生産プロセスにわれわれの技術を使うことに関心を示している」マサチューセッツ工科大学の卒業生であるWong講師は、さらにこうつづける。「われわれの膜の応用範囲はきわめて広く、化学、食品、および飲料メーカーに利益をもたらすものだ」

東南アジア地域のいくつかの都市の水道局や、複数の多国籍企業が、いまや市場に売り出す準備の整ったNTUの新技術に関心を示している。Nano Sunは最近、インドネシアの大手企業PT Pelaksana Jaya Muliaと、日量1万立方メートルの水の供給契約を結んだ。中国では、広州の製紙工場で廃水処理プロセスの最適化に取り組んでいる。このプロセス最適化によって、向こう5年間に300万ドル(約3億3000万円)の経費が節減される見込みである。シンガポール国内では、Nano Sunは大規模でエネルギー効率の高い発電・水再生利用統合プラントを所有する水道局や企業と、この革新的な技術の試用について話し合っているところである。

こころある技術

Nano Sunはまた、膜をよりハンディな製品に小型化して、家庭用ばかりでなく、人道支援や災害救助にも使えるようにするための研究にかなりの資金を投じていると、Wong講師は話している。「こころを忘れないようにしよう。家庭用濾過器ばかりでなく、途上国や災害救助目的にも使える低コストの浄水ボトルの開発にも、われわれは取り組んでいる」

Nano Sunは現在、膜の生産量を1日に7メートルから1日100メートルにまで高めようとしている。また、エア・フィルター、殺菌包帯、太陽電池など、他の製品の可能性も探ろうとしている。Nano Sunの新しいナノテクノロジーは、たとえばつぎに挙げる用途に使えることがすでにわかっている。

  • 廃水を処理しながら水素(クリーンな燃料)を発生させる。
  • 包帯の抗菌材料としてプラスチックの替わりとして使う。
  • 効果的なN95エア・フィルターとして機能する。
  • 低コスト高効率の太陽電池のベース材料として使う。

Nano Sunは、NTUが100%出資しているNTUitiveという組織の支援をうけているが、このNTUitiveは、教員や学生が立ち上げたスタートアップ企業を、助言や融資元の紹介などによって支援する組織である。

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