アイルランドのコークなど3州、下水処理がEUの基準を満たさず――下水インフラへの更なる投資が必要

アイルランド環境保護庁(EPA)は2015年11月24日、“EPA Urban Waste Water Treatment Report for 2014”を公表した*1。この報告書は、都市部の下水をそのまま河川等に排出しないようにするために、また、下水が環境と健康に悪影響をおよぼすのを防ぐ目的で定められているEUの基準を満たすために、下水インフラへの投資が必要であることを強調している。この報告書について、EPAのGerard O’Leary環境取締局長はこう述べている。「未処理下水の排出があいかわらず環境を汚染しており、特にコーク、ドニゴール、それにゴールウェイが最悪だ。未処理下水の環境への排出をなくし、アイルランドがEUの基準にしたがうためには、近年みられる設備投資額の減少傾向を逆転させる必要がある

報告書の概要

インフラの現状と排水の水質:

  • 大都市部では174地区のうち143地区(82%)が、EUの義務的な水質基準を満たしている。この割合は2年で8%上昇した。
  • 都市部の45地区は下水処理をまったくおこなっておらず、未処理の下水をそのまま排出している(下図)。このうち半分以上がコーク、ドニゴール、およびゴールウェイの3州に属している。

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図 各州における下水の未処理または予備処理のみの地区の数
(出典:EPA Urban Waste Water Treatment Report for 2014よりEnviX作成)

  • 大都市部の12地区が、二次処理を求めるEUの都市廃水処理指令を守っていない。
  • 大都市部の7地区が、富栄養化物質削減のためのインフラの整備を求めるEUの都市廃水処理指令、および富栄養化物質に関する水質基準を守っていない。

下水処理プラントの管理・運営:

  • 大都市部の57地区では、下水処理能力はじゅうぶんだが、排水が水質基準を満たしておらず、運営の改善が求められる。
  • 下水処理プラントで発生する問題の21%は、運営・管理上の原因によるものと考えられる(下図)。

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図 2014年に下水処理プラントで発生した各種問題の原因
(出典:EPA Urban Waste Water Treatment Report for 2014よりEnviX作成)

下水汚泥の利用:

  • 下水処理の副産物である汚泥の2014年における発生量は5万3543トン(乾燥重量)で、そのほとんどは肥料や土壌改良剤として農業用に再利用されている(下図)。

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図 2014年における下水汚泥の利用用途(単位:トン)
(出典:EPA Urban Waste Water Treatment Report for 2014よりEnviX作成)

下水による汚染の状況:

  • 2014年には、ヨール、ラッシュなど7ヵ所の指定海水浴場で、下水の排出による水質汚染が起きている。
  • 都市下水の排出が原因の河川の重度な水質汚染は1件だった(モビルのブレダー川)。これは、2013年の6件と比べて減少している。

こうした調査結果について、EPA環境取締局のDavid Flynnプログラム・マネージャーはつぎのように述べている。「新たな設備投資に加えて、既存の下水処理施設の運営・管理を改善する必要がある。EPAによる下水処理施設監査で、下水処理プラントおよび設備の保守・運営が不十分なケースがいくつかみつかった。下水処理プラントが原因の汚染問題の5分の1は、管理・運営の改善で防ぐことができたものだ」

*1 http://www.epa.ie/pubs/reports/water/wastewater/2014%20waste%20water%20report_web.pdf

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