中国、全国海水利用第13次5か年計画を発表

中国国家発展改革委員会と国家海洋局は、2016年12月28日、「全国海水利用第13次5カ年計画」(以下、本計画)を発表した。本計画は、中国の「第12次5カ年計画」期間における海水利用産業の規模、技術革新などの分野での進展や、海水利用産業の発展過程で構築した政策モデルを客観的に総括するとともに、「第13次5カ年計画」期間における海水利用産業の発展動向や政策の動きについて分析したものである。本計画は、海水利用の大規模応用の推進、中国の水における安全性の確保、エコ文明建設の支援を積極的に促進する役割を果たしていくものとなっている。

本計画の原文は以下よりダウンロード可能である。
http://www.ndrc.gov.cn/zcfb/zcfbghwb/201612/W020161230519130996138.pdf

問題指向を際立たせた「海水利用計画」

本計画は以下の6章で構成され、海水利用技術産業の発展における現状、存在する問題および直面する情勢について記載されている。

  1. 全体要求
  2. 海水利用の応用規模拡大
  3. 海水利用における革新力の向上
  4. 総合的な協調を図る管理枠組みの整備
  5. 海水利用の自由化による発展推進
  6. 計画的な保障実施の強化

枠組みの設定やその内容を見ると、本計画では以下の3つの面で問題指向が強調されている。

  1. 海水利用の大規模発展や国際競争力の向上における需要に対応するため、「海水利用の応用規模拡大」、「海水利用における革新力の向上」が計画の重要内容となっている。
  2. 現在の海水利用産業における不健全な政策制度などの問題に対応するため、「総合的な協調を図る管理枠組みの整備」が打ち出されている。
  3. 海水淡水化技術産業の国際化および国際的な戦略における需要に対応するため、「海水利用の自由化による発展推進」が打ち出されている。

本計画は、国の科学技術計画など関連する資金措置を踏まえたものとなっている。加えて、組織や実施の強化、保障制度への多元的な取り組みの確立、人材育成の強化、広報による世論の誘導などの分野で、保障を実施するための措置も打ち出されている。

3つのレベルで大規模応用を推進

本計画では、沿岸の水不足が深刻な都市、岸から離れた島嶼地域、工業団地という3つのレベルで、海水淡水化の大規模応用を重点的に推進することにより、「第13次5カ年計画」期間中、沿岸地域で日増しに逼迫する淡水資源危機という問題の解決を図る。詳細は下表の通り。

エリア別 詳細目標
沿岸の水不足が深刻な都市 現地の実情に応じて、各地域で海水淡水化による国民生活保障用大型プラントを建設し、それに対応する配管網も敷設する。また、モデル事業を実施して、都市市政配管網への淡水化水の送水方式、投資、運営、管理の仕組みを模索し、沿岸都市での給水保障能力の増強を図り、海水利用のモデル都市づくり業務を実施する。
島嶼地域 異なる島嶼で発展する海水淡水化における需要に基づき、島嶼の機能の位置づけ、期間や分類別の開発という原則に従って、海水淡水化の「100島プラント」、「島や船舶への海水淡水化装置の設置」計画を実施することにより、島嶼地域での中国製海水淡水化技術設備の利用を秩序正しく推進する。その中でも、人口が比較的多く、面積が大きめの有人島や開発が計画されている無人島に、大型・中型の海水淡水化プラントを建設する。例えば、舟山市の環境配慮型石油化学基地計画では、1日当たりの淡水化量が10万トンに達する海水淡水化プラントを付帯施設として建設し、石油化学基地の水使用における必要を満たすとともに、舟山本島周辺の臨港工業島における給水水源構成のさらなる整備を図る。加えて、面積が小さめで、人口が分散し、戦略上および旅行業での価値を有する島嶼に小型の海水淡水化装置を設置するとともに、設置されてから時間が経過し、運行状況が良好とはいえない海水淡水化装置の技術改造を行う。また、海水淡水化装置の海洋漁船への応用についても、積極的な普及を図っていく。
沿岸の工業団地 電力、化学工業、鋼鉄などの重点業種で建設が計画されている大型の海水淡水化プラントや、それに対応して敷設される輸送管網を拠点として、「2地点間を結ぶ」水質別の給水を実施し、工業団地内の企業に異なる水質の淡水化水を供給する。例えば、青島市西海岸新区の董家口循環経済区では、1日当たりの淡水化量が30万トンの海水淡水化プロジェクトが建設される計画で、同プロジェクトで生産される淡水は、臨港工業団地の石油化学、鋼鉄、装備製造業など水消費量の多い企業向けに供給される。加えて、電力、化学工業、石油化学、鋼鉄など重点業種での新設・拡張プロジェクトにおける海水循環冷却技術の応用の推進を図り、海水の総合利用を奨励し、産業チェーンを整備する。

 

中国の海水利用産業発展における現状と特徴

巨大な人口と少ない水資源、不均一な水資源の時空分布というのが、中国の水に関する基本的な状況である。現在、中国の水資源不足や、需要と供給における矛盾は際立った問題となっており、経済社会の持続可能な発展を制限する顕著なボトルネックとなっている。水資源の重要な補充および戦略的備蓄手段として、海水の利用は、沿岸地域の水資源不足を解決する上での重要な方法といえる。2005年、中国初の「海水利用特別計画」の発表および施行以降、各部門の大々的な協力や支援を得て、海水利用は大きな進展を見せた。現在、低温多重効用蒸留法や逆浸透法による海水淡水化技術は、すでに確立した状態にあり、システム統合やプラントについても基本的な能力を備えている。1日当たりの水生産量が1万トンクラス以上に達するモデルプラントも、国産の技術を用いて中国国内で建設され、10万トンクラスの海水循環冷却技術のモデル応用も実施済みである。複数の海水淡水化装置も海外に輸出しており、技術水準は世界と肩を並べたといえるだろう。

2015年末の時点で、全国で建設済みの海水淡水化プラントは121箇所、総規模は1日当たり100万トンあまりに達する。また、海水を利用した冷却水量は、年間約1125億トン。淡水化した海水は、主に沿岸地域の電力、化学工業、石油科学、鋼鉄などの企業のボイラーや製造工程用水として使用されている。また、天津市、舟山市、青島市の海水淡水化プラントでは、2地点間を結ぶ給水により、または在来型水源と一定の割合で混合した後、市政配管網に送水することにより、住民に生活用水を提供している。

f-061009a
図 中国における海水淡水化量の推移(万トン/日)
(出典:2015年全国海水利用報告*1

f-061009b
図 中国における手法別の海水淡水化量
(出典:2015年全国海水利用報告*2

海水利用産業化の発展における基礎や条件を満たした状態にある中国に対して、世界の同分野における技術は成熟を続け、その利用規模も急速な拡大を遂げており、市場での競争はますます激化し、新技術の研究開発も活発に行われている。2015年末時点で、世界の淡水化プラントの規模は1日当たり8655万トンに達しており、すでに160あまりの国や地域で淡水化技術が利用されている。世界の先進レベルと比較した場合、中国の海水利用は大きく水をあけられた状態にある。主な問題には、開発規模の小ささや、整備されていない仕組み、競争力の低さ、早急な進展が求められる中核技術などが含まれる。とりわけ政策面での制約的要素が存在するため、海水を利用した産業の発展を促す政策的文書の公布や実施により、中国の海水利用技術の絶え間ない革新や、産業の健全な発展を推し進めていくことが早急に必要とされている。

海水利用における国際競争力の全面的な引き上げ

世界ですでに商用利用されている主な海水淡水化技術には、多段フラッシュ法(MSF)、低温多重効用蒸留法(MED)および逆浸透法(RO)がある。現在、上記の各技術における世界最大プラントの規模(1日当たりの淡水化量)は、それぞれ88万トン、80万トン、54万トンで、1装置あたりの最大規模(1日当たりの淡水化量)は、それぞれ7.9万トン、6.8万トン、2.7万トンである。1960年代に始まった中国の海水淡水化技術の研究開発は、ここ数年、国の科学技術支援プロジェクト、海洋公益・海洋経済地域モデルプロジェクトなどによる支持を得て、比較的早い成長を遂げたが、世界最先端の技術と比較した場合、中国の海水淡水化における基礎研究は脆弱で、全体の技術レベルについても早急な引き上げが求められる状態にある。高性能な膜材料、省エネ技術、専用薬剤、主要設備、大型海水淡水化システムの統合などの分野で、中国と世界の先進レベルには一定の差が存在する。

「第13次5カ年計画」期間中、中核材料や設備の国産化、技術サービス力の向上、公共サービスプラットフォームの構築、技術の持続的な革新を推進することにより、中国の海水利用技術や設備を国際水準にまで到達させる。主要設備の国産化という分野では、海水逆浸透膜、熱伝導材料などの中核材料や、高圧ポンプ、エネルギー回収、蒸気噴射ポンプなどの主要設備の研究開発や応用を重点的に推進する。また、海水利用における設計、加工、建設、運営、プラント管理のサービス力を引き上げ、公共サービスプラットフォームを構築し、正浸透、容量性脱イオン、グラフェン膜作製など海水利用分野での新製品、新工法や新技術の研究開発を展開することにより、中国の海水利用技術や設備を国際水準にまで引き上げる。加えて、「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード」の建設実施を巡る世界の海水淡水化の発展における需要に対して、国外の研究機関や企業などとの相乗効果によるイノベーションを創出したり、研究センターや共同ラボなど国際提携における新たなプラットフォームを構築したりすることにより、海水利用における国際的な提携や交流のさらなる促進を図るとともに、中国製の海水利用技術設備を輸出し、海水利用における国際競争力を全面的に引き上げる。

高品質の飲用水に属する海水淡水化水

現在、淡水化した海水の使用に不安を覚える人々もいるが、海水淡水化技術への理解が不足しているのがその主な原因といえる。自然界における水循環の過程を人類が模倣して形成した海水淡水化技術は、より多くの飲用可能水を人類に創出するための水源開発技術である。海洋に含まれる淡水の総量は13.3億m3と豊富で、海水の約97%を占める。それゆえ、海洋は淡水の巨大かつ安定した淡水の貯水池といえる。大自然の水の循環は、実際には海水淡水化の過程と同一である。太陽の照射により蒸発した海水は、雨、雪、つゆ、雲、霜、霧となり淡水に変化し、地表で再び集まり川、湖、海を形成する。

国外の実践例を見てみると、アラブ首長国連邦、クウェート、サウジアラビアなどの国では、淡水化した海水が重要な生活用飲用水となっている。実際、カタールやクウェートでは飲用水の90%以上、モルディブなどの島嶼国では、ほぼすべての飲用水に淡水化した海水が使用されている。イスラエルなどの国でも、全国水資源分配システムに海水淡水化が組み込まれており、淡水化工場と給水系統を結ぶパイプラインも敷設されている。淡水化した海水は、高品質な飲用水である。水質の各指標も中国の「生活飲用水衛生基準」に達するか、それを上回っており、沿岸の水不足都市や島嶼の水源として活用できる。

 

*1 http://www.soa.gov.cn/zwgk/hygb/hykjnb_2186/201608/t20160831_53086.html

*2 http://www.soa.gov.cn/zwgk/hygb/hykjnb_2186/201608/t20160831_53086.html

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