飲用水からPFOAを除去する新材料の開発

テフロン製造や他の産業プロセスで使用されるフッ素化合物の一種であるパーフルオロオクタン酸(PFOA、perfluoroctanoic acid)による飲用水汚染が世界各地で懸念される中、ノースウエスタン大学研究チームは2017年6月8日、飲用水に含有するPFOAを除去する低廉且つ再生可能なβ-Cyclodextrinポリマーの開発に成功したことを明らかにした[1]。同材料は、水中のPFOA濃度を1 μg/Lから10 ng/L未満に減少させることができ、米国政府が設定した基準値を大幅に下回る水準にまで微量汚染物質を効果的に除去することができるとして注目されている。

米国では昨年、有害汚染物質であるPFOAの飲用水への含有が問題化し、上水道供給システムが閉鎖される地域が相次いだ。特に、産業施設や軍事施設、空港などの周辺に位置する地域では、PFOAの水準が米環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)が設定する基準値を上回った。ニューヨーク州フーシック・フォールズ(Hoosick Falls)やバーモント州ベニントン(Bennington)では2016年、飲用水がPFOAにて汚染されたため、州知事が非常事態宣言を発布する事態となった[2]

研究チームを率いるノースウエスタン大学教養学部化学科William Dichtel教授は、ポリマーにはPFOAを強く結合させる空間が存在し、濃度が極端に低い場合でも同有害物質を水から分離、除去することが可能であるとしている。ポリマーは複数回にわたり再生、再利用が可能であるものの、Dichtel教授は、PFOAを回収し、基準値以下の水準にまで同汚染物質を除去できるようにポリマーの分子量を適切に調整し、その選択性を実証した。結果、同材料は、従来除去に活用されている活性炭と比較してPFOAの親和性が10倍高いことが明らかとなった。更に同ポリマーは、飲用水からPFOAのみならず、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS:perfluorooctanesulfonic acid)などのPFAS(Polyfluorinated alkyl substances)を除去できる可能性もある。

EPAが2016年に策定した飲用水に含有されるPFOA 及びPFOS基準値は、70ppt(parts per trillion)である。同基準値は、オリンピックサイズのプール14個分の水量にわずかスプーン一杯分のPFOAが含有されている割合に匹敵する。ある研究結果では、EPA基準値よりも低くとも、PFOAへ暴露した場合、健康被害が出る可能性が指摘されている。ミネソタ州、ニューハンプシャー州、ニュージャージ州、バーモント州といった少なくとも全米4州では、EPA基準値よりも半分程度の厳格な州基準値が策定されている。

今回の研究開発は、ノースウエスタン大学Dichtel教授のほか、コーネル大学土木環境理工学Damian Helbling助教授、双方の大学に在籍する研究チームのメンバーにより実施された。これらの研究チームによる成果は、米国化学学会(American Chemical Society)が最近発行した定期刊行物に掲載された。今回開発されたポリマーは現在、Dichtel教授が創立したCycloPure社にて商業化が進められている

[1] Leilei Xiao et al., 2017: β-Cyclodextrin Polymer Network Sequesters Perfluorooctanoic Acid at Environmentally Relevant Concentrations, Journal of the American Chemical Society, doi: 10.1021/jacs.7b02381
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jacs.7b02381

[2] EWBJ58号に関連記事あり「米NY州、PFOAを州スーパーファンド法の有害物質に緊急指定――水道水汚染で