米ライス大の研究チーム、水圧破砕流体の再利用を可能にする超親水膜を開発

米テキサス州のライス大学の研究チームが開発した新しいフィルターが、シェールオイル・ガス井における水圧破砕で生じる汚染水から炭化水素、細菌、および微粒子を90%以上を除去できることがわかった。ライス大学の化学者Andrew Barronらの研究チームは、いくつもの微細孔のあるセラミック膜で、ファウリングという膜につきものの問題を事実上解消する超親水フィルターを実現した。実験結果によると、水圧破砕で生じる汚染水は、このフィルターを1回通るだけでシェールオイル・ガス井での再利用が可能な程度に浄化され、貯蔵や輸送をしなければならない汚染水の量を減らせることがわかった。この研究の成果は、Natureのオープン・アクセス・ジャーナル、Scientific Reports誌上で公表された[1]

帯電した細孔で炭化水素の目詰まりを防止

このフィルターは、直径およそ5分の1ミクロンの細孔がイオン化により帯電しているため、乳化した炭化水素は通り抜けることができない。また、他の汚染物質も、このような小さな細孔を通り抜けられない。さらに、帯電した細孔が水を引き付けて水の薄い層が全表面に粘着し、油その他の炭化水素の小球体を撥ね付けて目詰まりを防ぐ。

水圧破砕法では、ひとつの石油・ガス井あたり平均で500万ガロン以上の水を使い、そのうち10%ないし15%だけが逆流水として回収される。「この回収した水が再利用できることがきわめて重要だ」とBarronは言う。Barronによれば、フィルターによってはすべての種類の汚染物質を高い信頼度をもって除去できるわけではないという。可溶化した炭化水素分子は、細菌除去用の精密濾過膜を素通りする。破砕流体の粘性を増すのに使われるグアーガムの糖分のような自然の有機物を濾過するには限外濾過膜またはナノ濾過膜が必要だが、そうした膜は、特に小球体状に乳化した炭化水素によって容易に目詰まりを起こしてしまう。また、多段フィルターを使えばすべての汚染物質を除去できるが、それはコストと消費エネルギーの見地から実際的ではない。これについてBarronはこう述べている。「破砕水と油汚濁水は技術面での大きな課題だ。分離に必要な程度に小さな細孔をもつ膜を使うと、目詰まりを起こし、膜が使いものにならなくなる。われわれの膜では、超親水処理が膜を通過する水の流量を増すとともに、油などの疎水性のものの通過を阻止する」

システイン酸による処理で超親水性を実現

Barronらは、アルミナ・ベースのセラミック膜の表面をシステイン酸で処理し、超親水性、すなわち水をきわめて引き付けやすい状態にした。超親水性の膜表面の接触角は5°である。(接触角0°は、表面が全面的に濡れることを意味している。)システイン酸は膜の表面ばかりでなく細孔の内壁も覆うので、微粒子が内壁に付着してフィルターが目詰まりを起こすのを防ぐ。

水圧破砕の逆流水、すなわちグアーガムを含む油汚濁水を使ったBarronらの試験では、このアルミナ・ベースの膜は初期段階で流量――単位時間に膜を通り抜ける物質の量――の減少があるものの、しばらくすると流量は安定した。これに対してシステイン酸で処理していない膜では、流量が18時間以内に激減した。この初期の流量減の原因について研究チームは、これは細孔から空気を押し出しているためであって、その後は超親水性の細孔が水の層を捉え、目詰まりを防いでいるとしている。この膜の利点を、Barronはこうまとめている。「この膜は目詰まりがないので長持ちする。高い圧力を加える必要がないため、電力消費量の少ない小さめのポンプしか必要ない。これらはすべて、環境にもよいことだ」


図 システイン酸で処理した膜を使用したときの流量の推移
(出典:ライス大学HP[2]よりエンヴィックス作成)

[1] Samuel J. Maguire-Boyle et al., Superhydrophilic Functionalization of Microfiltration Ceramic Membranes Enables Separation of Hydrocarbons from Frac and Produced Water, Scientific Reports, doi: 10.1038/s41598-017-12499-w
https://www.nature.com/articles/s41598-017-12499-w

[2] http://news.rice.edu/2017/09/25/filter-may-be-a-match-for-fracking-water/#longdesc-return-103908

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