シンガポール公益事業庁、上下水インフラを対象とした先端技術の研究開発に投資

シンガポールの上下水道事業を統括する公益事業庁(PUB:Public Utilities Board)は2018年7月3日、将来における国内の水需要を満たすために、排水処理施設におけるエネルギー消費量とスラッジ(汚泥)発生量の低減などを含めた、上下水インフラを対象とした先端技術の研究開発に、4億5300万シンガポールドル(約373億723万円)を投資すると発表した。同庁は次世代イノベーションの研究開発を長期目標として掲げており、海水淡水化にて使用されるエネルギー消費量を現行水準の3分の2以上低減するとともに、低エネルギーで排水処理水を90%再生する。さらに、エネルギー自給型排水処理システムを開発、商用化するほか、排水処理プラントにて生成されるスラッジ(汚泥)の発生量を半減する。

PUBは過去約20年間に亘り、水分野の業界パートナーや関係機関と共同で、新規技術の研究開発、試験、実用化に取り組んできた。特に、水資源の利用増大と排水処理プラントにおけるエネルギー消費量やスラッジの生成量の削減を、研究開発の柱としてきた。同庁は、長期目標として次世代イノベーションをもたらす先端技術として以下を掲げている。

 

低エネルギー型の海水淡水化技術 海水淡水化は、シンガポールにて4番目に淡水生成(利用)量が多い水資源であり、エネルギー集約度が最も大きい。同技術の活用を通じて生成される淡水量は、現行の水需要のうち最大30%を占めているほか、2060年における将来の水需要でも30%を維持する見込みである。PUBは、海水淡水化プロセスのエネルギー消費量を、現行水準の1m3当たり2.5kWhから、短期的には同1.5kWh、長期的にはシステム全体として同1.0kWhへ低減することを目標としている。現在海水淡水化プロセスに使用されている技術には逆浸透(RO)膜が採用されており、膜を通じて海水から塩分や不純物をろ過する。PUBは現在、Tuasに位置する研究開発施設にて電気式脱イオン方法を実証しているほか、低エネルギーで海水を淡水化する新規且つ高効率な生体模倣膜のテストに取り組んでいる。
低エネルギー消費型NEWater(再生水)技術 シンガポールは世界で最も大規模且つ高品質なNEWater(再生水)の利用が進められている。同国で利用されているNEWaterは現行の水需要のうちの最大40%を占めており、2060年には最大55%へ拡大する見込みである。使用済みの水から再生水を生成するプロセスには、精密ろ過(MF)、逆浸透(RO)、紫外線消毒といった3つのステップから構成されている。PUBは、エネルギー集約度が高い逆浸透法における現行のエネルギー消費量(1m3当たり0.4kWh)の水準を維持しつつ、再生水の生成率を現行水準の75%から90%へ引き上げる短期目標を掲げている。また長期目標として、逆浸透法におけるエネルギー消費率を現行水準と比較して半減以下にし、再生水の生成率を90%とするとしている。現在、Kranji NEWater施設にて逆流技術(Flow Reversal Technology)が実証されているほか、Ulu Pandan再生水プラントにて逆電気透析-逆浸透法(Electrodialysis reversal-reverse osmosis:EDR-RO)が試験的に導入されている。これらの技術は、PUBが掲げる長期目標を達成する潜在性を有している。
排水処理プラントにおけるエネルギー自給型スラッジ削減技術 排水処理技術は、公衆の健康や環境を保護する上で重要な位置づけにあるほか、NEWaterを生成する基盤となる。PUBは現在、可能な限りエネルギー消費量を自前で賄う自給自足の排水処理プロセス技術の開発を積極化している。排水処理(再生水生成)プラントにおけるエネルギー自給率を、短期的には現行水準の25%から75%へ引き上げるほか、最終的には100%とする長期目標が掲げられている。またエネルギーの自給自足とスラッジ管理には密接な関係があり、スラッジを活用したバイオガス発電を通じて、排水処理過程で発生するスラッジの生成量を長期的に50%以上削減する。結果として、現行のスラッジ生成量を維持した場合、相対的に排水処理量を倍増させることができる。現在、Ulu Pandan再生水プラントにてエネルギー自給型システムが導入、実証されている。さらに、Jurong再生水プラントの熱加水分解プロセス(THP:Thermal Hydrolysis Process)でも、スラッジ生成量の削減とバイオガス生産量の拡大が実証されている。これらの技術は今後、Deep Tunnel下水システムフェーズ2の目玉として、Tuas排水処理プラントへ導入される予定である。

図 シンガポールの水資源循環、水供給フロー
(出典:シンガポールPUB)

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