米NASEM、EPAの雨水管理許認可プログラムの更新を提言

米ワシントンDCに拠点を構える全米科学学会National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine(NASEM)は2019年2月下旬、環境中への汚染物質の放出を最小限に抑制するために、雨水管理を産業施設へ義務付けた既存許認可プログラムを更新すべきであると、米環境保護庁(US Environmental Protection Agency:EPA)へ提言した。

NASEMは2019年2月下旬、「Improving the EPA Multi-Sector General Permit for Industrial Stormwater Discharges[1]」報告書を新たに発行した。環境保護を推進しつつ、産業施設から放出される雨水に含有された汚染物質の測定(モニタリング)への負担を軽減させる幾つかの手法を通じて、EPAが現在運用する既存許認可プログラムを強化することを、NASEMは同報告書にて提言した。MSGP(Multi-Sector General Permit)と称される既存許認可プログラムは、水質浄化法(Clean Water Act)に基づき現在運用されているプログラムの一つであり、地域の水域への雨水放流を規制している。米国では多様なセクタが存在し、雨水に含有される汚染物質はセクタ毎に異なることから、産業施設から放出される雨水を包括的に管理することは特に困難である。MSGPプログラムに基づき、産業施設の運営事業者は自身が認定した雨水汚染物質防止計画を施行することが義務付けられている。同計画には、汚染水準を低減するために雨水管理軽減措置を実践することが盛り込まれている。また、多くの施設では特定の汚染物質を対象とした雨水の放出状況を測定(モニタリング)することが義務付けられており、その測定結果は基準値と比較、分析される。同基準値は、水または魚の摂取を通じて人間の健康へ影響を及ぼす、またはそれに寄与する可能性が懸念されるとEPAが判断した水準を超える値である。

同報告書では、MSGPプログラムに基づき、現場サイトでの雨水管理軽減措置の効果性を測る基本的な指標として、pH、総懸濁固体量(TSS)、化学的酸素要求量(COD)を産業全体で測定することをEPAが義務付けるべきと提言している。これらの指標を踏まえて、不十分な現場の管理体制、雨水管理軽減措置の不備などを把握することが可能となる。これらの汚染物質を業界全体で測定することで、産業施設における雨水管理に対する共通理解を全産業セクタにて促進する。NASEMは更に、産業活動が異なるため汚染リスクがセクタ毎に異なるほか、産業界や規制当局の負担軽減を図るために、規制対象となる産業施設をリスク毎に区分し、区分に応じた汚染物質の測定方法を掲げている。汚染リスクが低い産業施設は、汚染物質を定期的に測定する代わりに、認定検査官が許認可期間内に検査を行う。一方、放出される汚染物質が日常的に基準値を超える、または汚染物質の放出可能性が高い大規模な複合施設は、より厳格に汚染物質を測定し、同施設への影響を評価するため、高度なモニタリングやモデル化を戦略的に行う手法が挙げられる

複数の産業セクタから収集した意見を踏まえて、MSGPプログラムの下で運用されている基準値の測定方法は、業界で統一されていない。雨水に汚染物質が見られる一部の産業セクタでは汚染物質の測定が全くまたはほとんど実施されていない。一方で、他のセクタでは、産業活動が類似しているにもかかわらず、複数回にわたり汚染物質が測定、基準値と比較されている場合もある。そのためEPAは、特定の産業セクタを対象とした基準値を測定する要件を定期的に見直し、更新するため、新たな科学的情報を活用したモニタリング方法(手順)を実践するべきであると、NASEMは提言している。最新の業界概況に関する情報、公開論文、業界データ、高度な測定技術の活用や、他の利用可能な情報を踏まえて、モニタリングの手順を検討する必要がある。その結果、モニタリングを通じて、現場サイトにて使用される汚染物質の区分や環境汚染の潜在性に関する問題を十分に解決することができる。

[1] https://www.nacwa.org/docs/default-source/resources—public/nas_industrial-stormwater-discharges_2019.pdf?sfvrsn=2

タグ「, 」の記事:

2020年7月10日
台湾環境保護署、「水汚染防止法事業分類および定義」の改正を公告――オイル貯蔵場や貯蔵施設の分類・定義を改める
2020年7月9日
米カリフォルニア州政府、飲料水中のマイクロプラスチックの定義を発表
2020年7月9日
米EPA、飲料水中の過塩素酸塩を規制しない方針を最終決定
2020年7月8日
ベトナム、水資源開発や排水の許可承認に関する手数料を暫定的に減額する通達を制定
2020年7月7日
ベトナム、水資源分野の違反に対する罰則を定める政令を制定