フランスの水市場における設備投資需要はまだ膨らみそうだ。背景には、EU基準の遵守義務や環境被害によるコスト上昇などがある。
排水処理基準の到達に遅れ
1991年に発効したEU都市排水指令(91/271/EC)は、1998年12月31日までに、処理人口10,000人以上、または影響を受けやすいと認定された地域の上流地域において、集水・高度処理システムを確立することを加盟国に義務付けているが、フランスは同指令の遵守に大きな遅れをとっている。今年初めには欧州委員会が、同国に対して制裁措置を伴う警告を発しているほか、EU環境委員Stavros Dimasは、フランスの遅れを「嘆かわしい」とコメントしている。
フランス環境省の調査では、国内の大型水処理施設1,000か所のうち、146か所がEU基準に達していない。特に改善が必要なのは、ノルマンディ地方セーヌ川流域の56施設、ローヌ川・地中海ならびにコルシカ島の45施設だ。
なお、現在予定されている9件の新規プロジェクトのうち、2件はノルマンディ地方で実施される。両方とも最新鋭メンブレンフィルター技術を採用した排水処理場新設工事で、1件はマンシュ(Manche)県Avanches(総工費1,400万ユーロ、約20億6000万円)、もう1件は、カルバドス(Calvados)県Touques(総工費2,350万ユーロ、約34億6000万円)における工事である。
フランス国内水市場の現状
同国における2008年の水処理関連設備・サービスの国内市場規模は約160億ユーロ(2兆3500億円)、うち42億ユーロ(約6,200億円)は輸入と見積もられている。今後、大幅な需要拡大が見込まれる分野は、下水処理施設、独立タイプの汚水処理タンク、遠隔診断システム、膜技術、フィルター技術、沈殿処理技術などだ。また、漏水検知やリサイクルをはじめとする水の保全対策も重要度を増している。
また、国内市場は、Veolia Eau(マーケットシェア40%)、Suez-Lyonnaise des Eaux( 22%)、SAUR(10%)の3大企業によって支配されていると言ってよい。数年来、外国企業が新規参入を試みてはいるものの、地元自治体の抵抗によって阻止されているのが現状だ。Veolia Environnement やSuezは、過去に、RWE、Iberdrola、Enelによる買収計画の対象となったが、いずれも国内市場における優位性を武器に、これらを撥ね退けた経緯がある。
モンペリエ世界水会議
2008年9月初頭には、ラングドック=ルシヨン地域圏の首府モンペリエ市で世界水会議が開催される。同地域圏では、この機会に、水ビジネスの新たな「競争力拠点」(注:フランスでは2004年、地域に集積した大学・研究機関、企業が協力し、特定産業の技術革新を進められるように、国内の複数の地域を「競争力拠点」(Pôle de compétitivité)に指定し、支援する「フランス版産業クラスター計画」が導入されている)としての指定適性をアピールすることを狙っている。この動きを牽引しているのが、2003年に国民教育・高等教育・研究省により設立され、市内およびその周辺の約600人の科学者を擁するILEE研究所(Languedoc Research Institute of Water and Environment)である。このほか、モンペリエ市には80年代から多くの水関連研究施設(BRGM、Cirad、Cemagref、INRA、IRDなど)が集まっており、2000年には水総合研究所(Maison des Sciences de I’Eau)も創設されている。