気候変動による水不足や海面上昇で、大規模な人口移動のおそれ

気候変動により、数千万人規模の人口移動が起こり、空前の社会的、政治的、それに安全保障上の問題が生じるおそれがある――このほど専門家らが発表した報告書には、こんなことが書かれている。

これは、コロンビア大学、国連大学、および非政府組織のCARE Internationalの専門家らがまとめたIn Search of Shelter(シェルターを求めて)という報告書で、ボンで開催された国連の気候変動交渉会合の会場において2009年6月10日に取材記者らに配布された。

 

報告書はつぎのように警告している。「地球温暖化をくいとめる思い切った対策を講じないかぎり、それによる人口移動が未曾有の広がりと規模で起きるおそれがある。気候変動が原因の人口移動はすでにはじまっている。これについて、おもだった研究者らの予測が一致していっているのは、将来、この人口移動の傾向が数千万人規模にまで達するだろうということだ。今後数十年以内に、それは安全保障を脅かすまでになりかねない」

報告書は、海面上昇、洪水、あるいは旱魃の影響をこうむりやすいいくつかの地域を重点的に取り上げている。それら地域では、貧しい国から豊かな国に人口が移動するというよりも、むしろ貧しい国の内部で、地方から都市へ人口が流入し、都市インフラへの負荷がさらに増すという。

数千万人が住むメキシコ中部では、地域によっては2080年までに降雨量が最大50%減少し、「多くのひとびとの生計が困難になり、慢性的飢餓のリスクがいちじるしく増大する」と報告書述べている。

いっぽう、南アジアは、短期と長期の両方の脅威に直面している。地球温暖化は、春季にはヒマラヤの氷河の融解を加速させ、洪水の確率を増すが、他方で、氷河の後退により、ヒマラヤ山麓から流れ出るおもな河川の流量が長期的に見れば減少する。これは、世界で最も人口過密な地域の農業生産が深刻な打撃をうけることを意味している。

また、ガンジス・デルタや小島嶼国などの低地帯は海面上昇の危険にさらされる。海面が2メートル上昇すると、バングラデシュだけで940万人が住む家を失うという。2メートルの海面上昇といえば、気候変動問題にかかわるほとんどの科学者が、今世紀中に起こりうる上昇の上限として予測している値である。

 

2007年、国連の気候変動に関する政府間パネルは、2100年までに海水の膨張により海面が最大59センチ上昇すると予測した。しかし、この数字は、南極大陸西部とグリーンランドの巨大な氷床の一部融解を計算に入れていない。

このようなことから、報告書は、気候変動により移住を余儀なくされるおそれのある地域と人口を正確に予測するためのツールを開発するよう、政策立案者らにつよく求めている。