ウィスコンシン大He助教授のバイオ・システム、廃水処理、エネルギー生産と同時に淡水化も

水と電力のあいだには、二律背反的な関係がある。水の浄化には莫大な電力が必要であり、いっぽう、発電にも大量の水が必要である。だが、このパラドックスを解決する技術が開発されれば、それはビジネスとしてもきわめて有望なものとなるだろう。ウィスコンシン大学ミルウォーキー校に着任してまだ1年も経たないZhen He助教授は、自分の開発しているシステムがそのような有望なものであると考えている。

これは、He助教授が国際的エンジニアリング会社Gannett Fleming Inc.の資金協力を得て実用化の研究を進めているエネルギー生産と水処理を同時におこなうバイオリアクター・システムで、成長をつづける世界の水市場においてカーボン・フットプリントの小さな水処理システムとして期待されている。

He助教授の研究室にひしめいているバイオリアクターという装置は、原理そのものはおよそ100年前にイギリスで確立されたものだが、科学者たちが本気でその応用に取り組むようになったのは最近のことである。バイオリアクターのなかでは、微生物が廃水中の汚染物質などの有機物を分解するとき、その過程で電子の流れが生じる。それをふたつの電極でとらえれば電力を得ることができる。

Heのシステムは、原理上はつぎの3つのことを同時におこなうことができる。

  • 微生物を使って廃水を浄化する。
  • 電力を生じる。
  • 廃水とは別に供給する海水を、同じ3チェンバー型バイオリアクターで淡水化する。

このシステムについて、Gannett Flemingのマディソン・オフィスに勤務するエンジニアのDavid Drewはこう述べている。「これが永久機関でないことは、科学的に証明されている。これまで取り出されていなかったエネルギーを取り出して利用しているだけだ」

He助教授は、2009年夏に南カリフォルニア大学を辞してウィスコンシン大学ミルウォーキー校に移ってきた。現在、この実用化の研究はまだ「初期段階」だと同助教授はいう。

この研究についてHe助教授とDrewは、ミルウォーキーを中心とする地域を世界の水技術のセンターにすることをめざしている団体、Milwaukee Water Councilと、近日中に話し合うことにしている。ふたりは、より大型のバイオリアクターを開発してテストするために、連邦政府の補助金を獲得するのに力を貸してくれる協力者をさがしているのである。

He助教授がかつて博士論文を書いたとき、そのテーマは微生物利用燃料電池だった。これが現在開発中のバイオリアクターのもとになっている。

従来型の微生物利用燃料電池は、ふたつのチェンバーから成っており、通常のバッテリー同様、一方には陽電極、他方には陰電極がある。一方のチェンバーには微生物と廃水が満たされており、これが起電力となる。

He助教授とDrewが開発を試みているシステムがこれと大きく異なるのは、第3のチェンバーがあり、そこに海水が満たされている点である。海水中の食塩、すなわち塩化ナトリウムは、プラスのナトリウム・イオンとマイナスの塩素イオンに分離した状態にある。第3のチェンバーと他のふたつのチェンバーとはイオン透過性の膜で仕切られており、これにより、プラスのナトリウム・イオンとマイナスの塩素イオンはそれぞれの電極のあるチェンバーへこの膜を通して移動することができる。結果として、海水から食塩が――すくなくとも理論的には――取り除かれることになる。

いまのところ、このシステムで海水から塩分を完全に除去することはできそうにない。しかし、最低限でも、淡水化の前処理として塩分のほとんどを取り除き、完全な脱塩に必要なエネルギーを減らすことはできるとHe助教授はいう。

He助教授がウィスコンシン大学ミルウォーキー校に採用されたのは、この地域に決定的に足りないものを補うためだった。Milwaukee Water Councilによれば、この地域には水技術を専門とする企業が何十とあるが、最大の弱点は大学主導の水技術プログラムがないことだという。そのため、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校の工科大学院は、地域経済のなかでより大きな役割を果たすという同校の戦略の一環として、2009年に他校から新たに22人のスタッフを迎え入れることを承認されていた。He助教授の招聘もそうした動きのひとつとしておこなわれたものである。

He助教授によれば、科学者たちがエネルギーを生産する微生物に関心を抱きはじめたのは最近の経済危機以降のことだという。アメリカ国内ではこうした技術を20余りのグループが研究しているが、中国の大学にはこれと似た応用をめざしている研究グループがもっとたくさんあると、中国生まれのHe助教授は指摘する。
「わたしが最初だなんて、とてもとても」とHe助教授はいう。