英国における水使用が世界の水危機を悪化させている――ウォーター・フットプリント表示の必要性を示唆

先進国が輸入する食品や物品を生産するのに使われている水の量が、途上国世界の水不足を悪化させていることを指摘した報告書が2010年4月中旬に発表された。

英国に焦点を当てたこの報告書では、英国の輸入品を作るために使われている水の3分の2は、英国の外で使われていると指摘している。

専門技術者団体のEngineering the Future(将来を設計する)連合は、こういうことは、人口増加と気候変動を考えると、持続不可能であると言っている。

そして、同連合は、英国のような国は、むしろ貧困国が水の使用量を抑えるのを助けなければならない立場にあると述べている。

Cardiff大学のHydro-Environmental Research Centre(水・環境研究センター)所長で、この報告書の運営委員会の委員でもあるRoger Falconer教授は、「われわれは、われわれのウォーター・フットプリント(水の使用量と考えられる)がどのように世界のほかの地域に影響を与えているかということに注意を払わなければならない」と述べた。

「われわれが『パーフェクト・ストーム(’perfect storm、悪い要素がすべてそろった嵐)』を防ぐのであれば、緊急に措置を講じる必要がある。」

パーフェクト・ストームという用語は、将来のエネルギー、食料および水の不足を記述するために英国政府の主任研究員であるJohn Beddington教授が2009年に用いたもの。

世界の人口が今後20年間に大幅に増え80億人を超えると、世界的な食料とエネルギーの需要は、50 %急上昇し、淡水の需要は、30 %上昇すると予想されている。

しかし、途上国は、欧米の消費者のために食用植物を栽培し、商品を生産するためにかなりの割合の自国の水をすでに使っている。

「急激に増大している途上国の水需要は、すでに水不足になっている地域に大きな圧力をかけている」と報告書運営委員会の委員長を務めるケンブリッジ大学のPeter Guthrie「持続可能開発センター(Centre for Sustainable Development)」長は述べた。

「水危機が重大になれば、そのことはきわめて重要な資源を利用する機会にさらに影響を与えるので、英国の今後の発展に深刻な脅威をもたらすことになるだろう。」

この報告書の鍵は、「埋め込まれた水(embedded water)」、すなわち、食用植物を栽培し、商品を生産するために使われている水、という考え方である。

たとえば、1パイント(約0.57 L)のビールに埋め込まれているのは、約130パイント(約74 L)の水であるが、これは、1パイントのビールをつくるための原料を栽培し、すべてのプロセスを動かすために必要な水の総量を指している。

そのほかに、1杯のコーヒーには、約140 L、綿のTシャツ1枚には、約2,000 L、そして1kgのステーキには、15,000 Lの水が埋め込まれている。

このやり方を用いると、英国の消費者は、自分たちのために実際に使用されている水使用の約3 %しか(国内で)負担していないが、実際には、1日に大きな浴槽1杯ぐらいの約150 Lの水を(地球上で)使っていることになる。

平均的な英国の消費者が購入する英国製の商品には、その重量の10倍の水が埋め込まれているが、これは国内の分だけであって、すべての平均的消費者の食料と商品に埋め込まれている水の総量の約3分の1に過ぎず、残りは輸入品によってもたらされているという。

この点については、英国が例外的というわけではなく、同様な傾向はほとんどの先進国で見られる。

専門技術者団体は、英国のような国は、約10億人の人々がすでに汚れていない飲料水を十分に利用できなくなっている途上国における水使用を管理するのを支援する義務があるということを意味していると述べている。

報告書では、水の保全を英国が資金を出す援助事業の中核的なものとし、企業は、そのサプライ・チェーンにおける水使用のあり方について検討し、使われている水量を削減するよう薦めている。

このことは、英国がケニヤのような水不足に直面している国から豆や花を輸入することが正しいかどうかといった難しい質問をされていることになる。

それは、水を使って、このような作物を作って、それを売ることで、外貨が貧困国にもたらされているからである。

報告書では、欧米では、電気製品にエネルギー消費に関する情報がつけられているのと同様に、水への関心によってそのうち商品に埋め込まれている水分の含有量を表示するラベルがつけられるようになる可能性があると述べている。

なお、Engineering the Future連合には、Institution of Civil Engineers(土木工学技術者協会)、Royal Academy of Engineering(ロイヤル工学アカデミー)およびChartered Institute of Water and Environmental Management(公認水・環境管理協会)などが顔を連ねている。