ベトナムでは多くの事業者は工業廃水費用を負担していないのが現状であるが、さりとて、そうした事態に対処するために環境費用を賦課する規制の策定をめぐって、資源環境省と金融省の考え方が一致していない。本来は、賦課規定を設け廃水費用を納める対象を確定するだけでなく、廃水費用の金額も上げる必要があるにもかかわらずである。
実際、環境費用の賦課規定を作成するに際して、金融省は資源環境省に協力していないのが現状である。例えば、固形廃棄物処理費用の賦課規定の作成に向けて、議会にこの規定案を上程する前に金融省は、資源環境省の意見を求める文書を送ったところである。そこで、資源環境省は、従来から指摘していたことであるが、環境に深刻な汚染を引き起こす企業に対しては、累進税を納めさせなくてはならないとの見解を提出した。すなわち、ある企業が認許可基準より5倍以上超えた量の廃棄物や汚染物質を排出していれば、環境費用の支払い額を5倍に増やすべきであると主張していた。しかし、金融省の考え方は異なっていた。金融省は、ベトナムはWTOに加盟したばかりで、そうした厳しい規制を導入すれば、ベトナムの事業者の競争力を低下させるとの理由で反対したのである。
その一方、資源環境省の汚染監視・監査局、水質・土地監視観察部のNguyen Hoang Anh部長によると、現在、ベトナムには全体で工業拠点は4万カ所もあるので、各拠点の環境費用の額を算定するために廃水の流量や濃度を測定するなど、全国の拠点を検査・監視することは事実上不可能であるという。したがって、今でも事業者の申告書に基づいて環境費用を確定しているので、それはきわめて僅かな数値であり金額となってしまっている。それでは、廃水の流量を実際に測定した結果に基づいて環境費用を算定しようにも、計算ソフトがないのが現状である。こうした事情から現在、環境費用を納める対象の確定はまだ不十分で、環境に汚染を引き起こす汚染物質の全体も把握できていないのが現状と言える。
上記の実態に対し、環境管理当局者は工業廃水処理費用の負担額は必ず上げるべきであると主張している。しかも、この支払額は廃水処理費用に近づけるべきとしている。また、対象によって費用の負担額の決め方は柔軟であるべきとも指摘している。たとえば、皮革やビールなどの深刻な汚染を引き起こす施設に対しては、拠点ごとに、費用負担額の計算に際して廃水を直接測定・検査して決めるべきである。他の施設の場合には、廃水中の対象汚染廃棄物を明記した規制を施行することによって、現場で測定しなくても、環境費用を納めさせればよい、としている。