2012年1月20日、Boston大学公衆衛生大学院(BUSPH)のオンラインニュースThe Insiderが伝えたところによると、同大学院の研究者たちの調査によって、幼児期早期に溶媒テトラクロロエチレン(PCE)に汚染された水に曝露した人たちに双極性障害(躁鬱病)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)が頻発していることがわかったという。
同日の環境・職業医学関係の論文掲載誌Environmental Healthに掲載された調査論文によると、PCE被曝と鬱病の発現との関連性は確認できなかったが、胎児期や幼児期早期にPCEに被曝した人は被曝しなかった人たちに比べて双極性障害の発現頻度が2倍高くなっていることがわかった。PTSDの発現頻度も50パーセント高くなっており、どちらの疾患についても最も多く被曝した人で罹患率が最も高くなる傾向が見られたという。
ドライクリーニングなどの業界で溶媒として使用されているPCEは、神経毒であり、仕事で使用している人たちに情緒の変化、不安神経症、抑鬱障害を起こすことが知られていたが、これまでPCEに被曝した小児にどのような影響が現れるかは、よく確認されていなかった。
マサチューセッツ州では、1968年から1980年代前半まで水道会社が敷設したビニールの内張りをした送水管から飲用の水道水中にPCEが浸出していることがわかっている。BUSPHの研究者たちは、Cape Cod地域の住民の被曝の影響を調べており、今回結果が発表されたこの調査は、Barnstable、Bourne、Falmouth、Mashpee、Sandwich、Brewster、Chatham、Provincetownの8つの町の住民の胎児期と幼児期初期の被曝に焦点を絞って行われたものである。
BUSPHの疫学教授で今回の調査論文の主執筆者だったAnn Aschengrauは、住民のPCEの被曝量を正確に算出することはできないが、記録に残っているPCEの濃度は現在推奨されている安全基準より1550倍も高かったと書いている。また、水道管はこの問題が発覚したときに水道会社が洗い流したが、ドライクリーニング、テキスタイル業界では今なお被曝が続いており、疾患増加のリスクはまだ残っているとも書いている。
調査では、PCE被曝と統合失調症の関係も調査されたが、信頼できる結論を導き出すには症例の数が少なすぎたと書かれている。また、今回の調査が対象者に医療機関から精神疾患と診断されたことがあるかどうかを尋ねて得られた回答をベースにした自己申告方式で行われたものであることも記されている。なお、この調査結果が発表される前には、BUSPHの別の研究グループから、胎児期や幼児期初期にPCEを含む飲用水に被曝した人が違法麻薬を使用する確率が高いとする調査結果も公表されている。