2012年3月1日、オンライン版Scienceに「微生物逆電気透析電池の熱分解ソリューションによるエネルギー捕捉」という論文が掲載された(雑誌は3月23日号掲載/ペンシルベニア州立大学土木環境工学科Roland D. Cusick、Younggy Kim、Bruce E. Logan著/下記URL参照)。逆電気透析(EDR)の原理を利用して微生物燃料電池で水を浄化し、その装置の動力もその電池によって得て自力運転していくことができるシステムである。
http://www.sciencemag.org/content/335/6075/1474.abstract?sid=7ff25a41-8ca7-47d6-8ec4-9b5207202e23
EDRは、海水と淡水の塩分濃度の差を利用してエネルギーを取り出す技術だが、現在のところは、大量の海水やイオン交換膜のペアを必要とすることもあり、実際に応用できるのは海岸部だけに限られるだろうと考えられている。だが、塩を含む溶液を在来の技術で廃熱(≧40℃)を利用して継続的に再生することができれば、この塩分濃度の差を利用してエネルギーを取り出す技術を応用できる場所も、もっと広がると思われる。
「私たちの研究室では、微生物燃料電池にEDRのイオン交換膜の積層を組み込んで、重炭酸アンモニウムの塩水から塩分濃度の差を利用して効率的にエネルギーを取り出せるようにしたのです。アセテートを用いてカソード(陽極)の単位面積当たりの出力密度を測定すると5.6 W/m2まで達しましたが、これはEDRを使用しない場合の5倍に相当し、生活廃水を使用した場合には3.0±0.05 W/m2でした」研究者たちはそう説明している。
米国電気電子学会(IEEE)の最新技術情報メディアIEEE Spectrumもこの論文のことを取り上げており、この研究が成功する決め手となったのは、海水の代わりに熱分解性のある重炭酸アンモニウム塩を使用したことだったと伝えている。熱分解性、すなわち放熱性のある重炭酸アンモニウム塩を用いたことによって、40℃をやや上回る程度の温度に過熱するだけでも塩を分離することができるようになり、工業プロセスからの廃熱を利用して水をリサイクルすることができるようになったという。(下記URL参照)
http://spectrum.ieee.org/energy/environment/hybrid-energy-tech-could-clean-wastewater-for-free
この熱分解の原理は、Yale大学のMenachem Elimelech教授が正浸透淡水化や浸透圧発電の研究に利用するために開発したものである。そのElimelech教授は、このペンシルベニア大学のハイブリッド装置をスケールアップして実用化するためには、まだまだEDRの方面でも微生物燃料電池の方面でも克服しなければならない技術的な問題があると語っている。「スケールというのはいつも悩ましい問題なのです」Elimelech教授はIEEE Spectrumにそう語っている。