水のリスクと、アメリカ企業の取組―渇水その他の要因でこの2年間に水の価格が急騰し、企業はリスクを低減すべく、節水や、水源域にかかわるステークホルダーらとの協調へ

渇水その他の要因でこの2年間に水の価格が急騰し、企業はリスクを低減すべく、節水や、水源域にかかわるステークホルダーらとの協調に努めている。

アメリカの少なくとも60%が渇水の状況に見舞われているいま、企業はいかにかしこく水を使うかに、かつてないほど努力を傾けている。企業は、水を節約し、水源域にかかわるステークホルダーらと協調することによって、水のコストを低く抑え、コンプライアンスや企業の評判にかかわる問題が起きるのを未然に防ぐ道を模索している。

急騰する水価格:

水をはじめとする資源問題に関する情報を発信しているCircle of Blueによると、アメリカの20の大都市と、地域を代表する10都市を合わせた計30の都市において、水の価格が2010年から平均18%跳ね上がり、2011年の1年間だけでも7%上昇した。値上がりの最も激しいのは2012年のシカゴで、現在までにおよそ25%上昇している。

ミシガン州立大学公共ユーティリティ研究所によれば、アメリカでは、水道料金の値上げ率は物価上昇率よりも高く、また、ガス、電気、電話などのほとんどのユーティリティの値上げ率よりも高い。ただし、ごみ収集料金とケーブル・テレビ受信料は水道料金とほぼ同じペースで上昇している。

これに関して、Deloitte Consultingで企業の水戦略部門のリーダーを務めるWilliam Sarniはこう述べている。「企業のCFOの立場で考えると、いくつかの重要な問題が見えてくる。水価格の上昇は、財務パフォーマンス、成長戦略、新興市場戦略、それにサプライ・チェーンの管理に影響をおよぼすおそれがある。CFOはこの点に注意する必要がある」

当面の課題は継続性:

当面、重要なのは継続性だとSarniは指摘する。つまり、ある一定期間にわたってビジネスを遂行していくのにじゅうぶんな水を確保しつつ、この問題に取り組んでいく必要があるというのである。企業によっては、資源としての水の管理をじょうずにおこなっているがゆえにブランド価値を高めているところもあるし、また、その逆のケースもあるとSarniは指摘し、次のようにつづけている。「評判を下げるリスクとブランド価値とは、同じコインの両面だから、このことに注意しておかないと、この問題がブランド・イメージに影響し、ひいては会社の操業能力にまでその影響がおよぶ危険を冒すことになる」飲料のように製品の生産そのものが水に依存している業界は、一時期、この問題に率先して取り組んできた。

ウォーター・フットプリントと水源域:

企業は、みずからを守るためにはまず、自社がどれだけの水を使っているかを理解する必要がある。これについてSarniは次のように述べている。「ウォーター・フットプリントということばあるが、これは直接的な使用量ばかりを指しているのではない。すなわち、製造工程やボトリング施設で使う水の量がすべてではなく、サプライ・チェーン全体を通して使われている水も含めなければならないということだ」このことは、食品・飲料業界にあてはまるばかりでなく、農業部門に依存するアパレル業界にも同様に言えることである。Sarniはまた、水をどの程度利用できるかはきわめてローカルな問題であることを強調し、企業はどこで水を使っているのかにも注意をはらう必要があると指摘している。

企業はいま、特定の水源域――そこにあるすべての水、あるいはそこから流れ出るすべての水が同じ場所に集まるような土地の広がり――からの水をどの程度使っているかを調査している。「水源域はそれぞれみんな違う」とSarniは言う。水のストレス、すなわち水不足に見舞われている地域にあるのは、水源域の一部にすぎない。企業は、自社がどこで操業しているかばかりでなく、サプライ・チェーンの各社がどこで操業しているかにも注意しておく必要がある。たとえば、ある飲料会社のボトリング工場が水ストレスのない地域にあったとしても、農業部門その他のサプライヤーは逆に水ストレスのまっただなかにあるかもしれない。重要なのは、サプライヤーがどのようにリスクを定量化しているのかを知ることだ、とSarniは言う。

水リスクの3つの側面:

Sarniによれば、水リスクには次の3つの側面がある。

  • 物理的水不足――必要な時、必要な場所で水が手に入るか?
  • 規制面でのリスク――水の利用や料金に関して規制が変わっているか、また、それが今後、企業やその操業にどのような影響をおよぼす可能性があるか?
  • 評判を下げるリスク――水源域にかかわるステークホルダーのうち、企業の水の使いかたに関心をもつ者が増えてきた。彼らは企業の水の使いかたや、場合によっては操業許可の取消しといったことにまで影響力を行使できる可能性がある。

こうした問題に直面して、企業は水を以前よりも効率よく使うようになってきている。「企業はできるだけ多くの水をリユースやリサイクルするとともに、水源域にかかわるステークホルダーらと積極的に交流して水資源を総合的に管理し、みんなにじゅうぶんな水が行きわたるように調整ようとしている」とSarniは言う。ここでいうステークホルダーには、競合他社、他業種の企業、行政機関、市民なども含まれる。

水とエネルギー:

水はエネルギー部門にとって欠くことのできない資源である。たとえば、原子力、石炭、ガスなどによる発電所の冷却に水は必要であり、シェール・ガスの水圧破砕にも水はなくてはならない。また、半導体生産などの製造業にも水は必要である。そればかりか、節水とエネルギーの節約はリンクしている。「企業はすでに、水の使用量を減らせばそれがエネルギーの節約につながることに気がついている」とSarniは指摘する。

いっぽう、コロラド州に本社のある石炭・石油採掘会社、Hallador EnergyのAndy Bishop CFOは、水不足が同社の業績に実質的に影響しているということはまだないという。

また、McDermott Will & Emery法律事務所のJames Pardoパートナーは、水不足は石油・ガス業界の価格設定、生産性、利益などに全体としてあまり影響していないが、これがつづけば、石油やガスの探査の規模が縮小することもありうると指摘している。

テキサス州など、水の価値が高まっている地域では、農家によっては水を農業に使うよりも石油・ガス会社に売ったほうが儲かることに気づきはじめたところもあるとPardoは言う。

水不足に対処する規制の動向にも注意が必要:

これまで、水の問題が大きな注目を集めたのは渇水が原因だが、Sarniによれば、水不足と渇水とは区別する必要があるという。「渇水がなくても水不足になることがある。その要因として、人口増、経済活動の活発化、世界的な中流層の増加、都市化傾向の増大などがある。みんなが、限られた資源から多くを要求しているのだ」とSarniは言う。

水不足が深刻になっていくにつれて、水資源を管理するための規制の変更もおこなわれていくことだろう。これについて、Sarniはこう指摘している。「企業は、ふだんのリスク・マネジメント戦略の一環として、現在どういう規制があって、これから5年後、10年後にそれがどう変わっていくのかを考えておく必要がある」