中央アジアの旧ソ連諸国間で水をめぐり緊張高まる

中央アジアの旧ソ連諸国間で水資源をめぐってますます緊張が高まり、アフガニスタンに隣接するこの地域の不安定さを増すひとつの要因になっている。

山岳地帯が多いがエネルギー資源に乏しいタジキスタンとキルギスは、それぞれ世界最大級の水力発電所の建設を計画しており、これが下流のウズベキスタンの怒りを買っている。ウズベキスタンは、貴重な水資源を失うのではないかとおそれているのだ。

ロシア、それにカザフスタンやトルクメニスタンといった他の中央アジア諸国も、1991年にソビエト連邦が崩壊したときからの水資源の割り当てをめぐる争いに巻き込まれている。

ウズベキスタンのイスラム・カリモフ大統領は、2012年9月にカザフスタンを訪問した際、水資源をめぐる争いが緊張を高め、「隣国間の反目どころか戦争」にまで発展する危険さえあると警告している。

タジキスタンとキルギスが復活を望むダム・プロジェクト

タジキスタンは、いまだに1990年代の内戦からの復興の途上にあって、エネルギーの不足に苦しみ、ソ連時代にはじまったバフシ川のログン・ダム建設プロジェクトを復活させようとしている。このダムは、完成すれば高さが335メートルの世界最大のダムになる。

キルギスも、ソ連時代に計画されたナルイン川のカムバラタ第1ダム建設プロジェクトの復活を望んでいる。これは、完成すれば高さが275メートルになる。

こうした動きに対し、ロシアのプーチン大統領はキルギスのプロジェクトには支持を表明しているが、周辺国からの反対の声がより強いタジキスタンのログン・ダムについては慎重な姿勢をくずしておらず、このことは、これらふたつのプロジェクトにとって重要な意味をもっている。

いっぽう、世界銀行は、ログン・ダム建設がもたらす社会的、経済的、および環境面での影響の調査を支援はしているが、建設そのものの支援へ向けた資金的なコミットメントはまだ一切していないことを強調している。

ロシアのプーチン大統領は、2012年10月にキルギスを訪問した際、「この地域のすべての国がこれらすべてのプロジェクトに直接参加して懸念を払拭しなければならないと思う」と述べたが、そこで同大統領はカムバラタ第1ダムの建設を支持していることにも触れた。

ログン・ダムについては、同大統領はこう述べている。「われわれは、ウズベキスタンを含めて地域のすべての国の懸念に注意を向け、そうした懸念の原因になっているあらゆる問題を取り除く必要がある。これはできないことではない」

はたしてソ連時代の誇大妄想の産物か

ロシアは最近になって、キルギスからは2032年まで、タジキスタンからは2042年まで軍事基地の使用を延長する約束をとりつけたばかりである。こうしたことを考え合わせると、ダム建設をめぐるこの争いを、ロシアは自国の戦略目標達成のために利用していると考えることができる。

タジキスタンの政治アナリストSaimuddin Dustovはこう言う。「ロシアがキルギスおよびタジキスタンと長期的軍事協定を結んだいま、水をめぐるこの争いは新たな局面にはいった」

中央アジア地域のアナリストらはこの争いについて、双方が周辺国を味方に引き入れようとするあまり、地域に亀裂が生じる危険をはらんでいると指摘する。

タジキスタンの政治アナリストAbdugani Mamadazimiovはこう述べている。「ウズベキスタン政府は軍事力を強化しはじめており、カザフスタンとトルクメニスタンを味方につけようとしている。双方の合意による解決がなければ、分裂へと進むほかはないだろう」

タジキスタンにとって、ログン・ダムは戦略的に優先度のきわめて高いプロジェクトだ。毎年、冬には電力危機に見舞われ、国民は1日に3時間しか電気を使えない状態がつづく。エモマリ・ラフモン大統領は、タジキスタンが自国の天然資源を「国民の利益のために」国際法を遵守しつつ利用すると明言している。

しかし、ラフモン大統領のこの発言は隣国ウズベキスタンではあまり好意をもって迎えられていない。ウズベキスタンは人口がおよそ3000万人と中央アジアで最も多く、綿花の生産でもトップの座を占めている。

ウズベキスタンは、夏場の灌漑用水の供給が途絶えること、それに、ログン・ダム周辺に地震が起きた場合の想像を絶する被害をおそれているのだ。

中央アジア諸国は、カザフスタンとウズベキスタンのあいだに位置するアラル海の壊滅的な環境破壊に悩まされている。この湖は、1960年代以来のソ連の灌漑プロジェクトにより、大量の水を失った。

ウズベキスタンのカリモフ大統領は2012年9月にカザフスタンを訪問した際に、河川が「国境を越えた」資源であることをタジキスタンとキルギスは忘れているとして両国を非難し、次のように述べた。「ログン・ダムとカムバラタ第1ダムは、われわれみんながソビエト連邦という枠のなかで暮らし、みんなが誇大妄想の病におかされていた1960年代から1970年代にかけて計画されたものだ。だが、時代は変わる」