タイ水市場で躍進するHydrotek社の経営理念と最新の企業概要
代表とのインタビューを通して
その企業はバンコクに拠点を有し最近株式市場への上場も果たしその売上を2010年から2012年の間に約3倍へと増大させた「Hydrotek Public Company Limited(以降、Hydrotek)」である。
エンヴィックスは2013年2月にタイに行き、HydrotekのSlib Soongswang CEOにインタビューすることに成功した。以下は、そのインタビューの内容をもとにまとめたものである。前半部分ではHydrotek社の事業概要を、後半部分ではインタビューでのQ&Aを紹介する。
1. Hydrotek社の企業概要
1982年創立のHydrotek社は、当初より上下水道事業、中でも水処理施設の建設を中心に水分野でのEPC(エンジニアリング、調達及び建設)サービスを広く展開し、クライアントの抱える諸問題に総合的に対応できる態勢を整えてきた。水分野だけでなく廃棄物処理処分事業や廃棄物発電事業にも関わっており、独自の研究開発部門を有して水分野での新たな技術の開発・導入にも積極的であり、ラヨーン(Rayong)県では海水淡水化プラントのEPCサービスにも携わってきている。
2012年に同社は前年比で27.57%増の8億8157万バーツ(約29億円)の売上を達成し、純利益でも5649万バーツ(約1億8600万円)を達成し飛躍的な成長を遂げた。過去3年間の売上と利益は次の通りである。
2010年から2012年の売上げと利益(単位:バーツ)
年 | 売り上げ | 粗利益 | 純利益 |
---|---|---|---|
2010 | 2億8063万 | 4288万 | 1884万 |
2011 | 6億8906万 | 9228万 | 4791万 |
2012 | 8億8157万 | 1億692万 | 5649万 |
事業別の売上は次の通りである。
2010年から2012年の事業別売上げとその割合
事業分野 | 2010 | 2011 | 2012 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
金額 (単位:百万バーツ) |
割合 (%) |
金額 (単位:百万バーツ) |
割合 (%) |
金額 (単位:百万バーツ) |
割合 (%) |
|
|
205.59 | 69.67 | 600.83 | 86.92 | 820.48 | 93.07 |
|
74.94 | 25.39 | 88.23 | 12.76 | 53.57 | 6.08 |
|
0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
|
14.57 | 4.94 | 2.19 | 0.32 | 7.52 | 0.85 |
合計 | 295.10 | 100.00 | 691.25 | 100.00 | 881.57 | 100.00 |
* 後述するように、2013年以降はこの事業領域での売上が見込まれている。
上場で資金力が高まる-長期契約の運転サービス事業拡大へ
また、建設した施設の運転保守サービス分野にも早くから携わってきたが、その契約期間は3~6年と限られていた。
2011年に株式を公開して資金調達能力が向上したことを契機に、同社は今後、BOOやBOTなど10~30年にわたる長期の運営管理契約事業にも積極的に参入してゆく考えで、2011年にはThai Plastic and Chemicals(TPC)とBOO方式で廃水処理プラントの運転サービスを10年間提供する契約を交わしている。さらに2012年には、これもBOO方式であるがChiang Mai県の4つの地方都市と30年に及ぶ長期の独占運転契約を結んでいる。これらの契約に基づき実際に水施設の運転サービス分野での売上が2013年以降生じ増大するものと見られている。
着実で持続性を重視した経営理念
Hydrotek社は実に地味な会社である。
エンヴィックス社のスタッフは2013年2月にこのHydrotek社を訪問しCEOであるSlib Soongswang氏と同社経営スタッフに面談することができた。前評判や事前に把握していた事業規模から想定していたのは近代的なビルにオフィスを構えているものと思っていたが、それは住宅が密集するバンコク郊外の一角にある築30年以上は経ていると見られる小さな5階建てビルの3階と4階を占める程度のものであった。タクシーの運転手でさえも探すのに苦しんでいたが、社名入りの表札も地味でよく見ないと判読できないほどであった。1階に受付があると思ったら、1階は別のテナントで占められ、そこで尋ねてようやく階上に同社オフィスがあることを教えられホッとしたという有様であった。
Hydrotek社の入っているビル
外見の地味さはそのままHydrotek社の堅実でまじめな事業運営のあり方に現れていることはCEOとスタッフに会って感じられた。
同社の年次報告書(2012年)にも示されているように、そのビジョンとミッションは明快に同社の着実な地域貢献の姿勢に満ち溢れたものである。
2012年の創立30周年に際して、同社は社会やコミュニティそして環境に対する企業の責任の重要性を表明している。同社として、「水の道:やさしい心できれいな水ができる(The Water Road: Clean Water from Kind Heart)といったコンセプトの下で、自らの専門知識や経験及び技術をタイの人々がきれいな水を享受できるよう水質を確保するために使ってきたし今後もそのように取組むとしている。
《ビジョン》
タイとアセアン地域で、淡水化プラント、脱塩プラント、廃水リサイクルプラントなどに関する環境に好ましいエンジニアリングや建設サービスのリーダーとなる
《ミッション》(これがビジネスゴールとされている)
- 国際的な品質基準、作業効率、妥当な価格、及び納期遵守を重視して、EPC(エンジニアリング、調達、建設)、運転サービスなどを含む総合的なサービスを提供する
- 建設コストを効率的に管理・抑制する
- 人材を開発するとともに、新たな技術の研究開発を絶えず進める
- 優れたサービスとアフターサービスに対する評価を通して顧客との良好な関係を構築する
- 効率の優れた組織の構築を目指しながらも、安定性と持続性をもって事業を拡大してゆく
- 公衆のより快適な生活を支え築き上げることに貢献する
主なクライアント
Hydrotek社の主なクライアントは中央及び地方の政府機関であり、同時に民間企業も多く次第に増えてきている。政府機関の主なクライアントが下記に示されている。民間のクライアントも下記に示されているが主なセクターとしては、石油化学、エネルギー、鉄鋼、食品及び飲料水などである。
主なクライアントとセクター
政府部門
- タイ国地方電力公社 (PWA)
- タイ国首都圏電力公社 (MWA)
- 地方自治体
- タイ発電公社(EGAT)
- 大学
民間部門
- 石油化学産業
- エネルギー産業
- 製鉄業
- 食品製造業
- 工業団地
- Bangkok produce merchandising public Co., Ltd(ラヨーン県)
- Charoen Pokphand Foods PCL (ナコンラチャシマ県)
- PTT Utility Co., Ltd (ラヨーン県)
- PTT Chemical Public Co., Ltd (ラヨーン県)
- THAI CRT CO., LTD.
- Siam Yamato Steel Co., Ltd.
社会貢献に重きを置いたビジネスゴール
Hydrotek社の目指すゴールは、水処理分野で、タイ及びアセアン地域で環境エンジニアリング会社としてリーダーになることである。そのゴールを達成するための明確なガイドラインが、上述した「ミッション」として示されている。
Hydrotek社のその他主なプロフィール
- 海外進出地域
データなし。ただし、同社は2012年に、アセアンでの投資のフィージビリティ・スタディを始めた。特に、政治的緊張が緩和したミャンマーにおいてである。ミャンマー政府は、経済的、社会的発展、特に、工業団地における流水システムと汚水処理システムの建設を優先課題としている。この同社の調査研究プロジェクトは依然、フィージビリティ・スタディ、および、投資提案を策定の段階にある - 従業員数
年 | 正社員 | 日雇い労働者 | 合計 |
---|---|---|---|
2012 | 113人 | 7人 | 120人 |
2011 | 140人 | – | 140人 |
2010 | 117人 | – | 117人 |
- 事業拠点(国内外)
本社住所:1363 Soi Ladprao 94, Ladprao Road, Phlab Phla, Wangthonglang, Bangkok 10310 Thailand
2. Slib Soongswang CEOへのインタビュー
今回、エンヴィックスのスタッフはHydrotek社のCEOであるSlib Soongswang氏と面談し、日本企業が市場参入で困難に直面しているといわれるミャンマー、そして経済発展しているタイでの市場の特徴や、日本企業に関わる問題点などを直接あるいは間接的に質問することができた。その主なものは次の通り。
Q1.タイ及びミャンマーで現在、顕在化し成長の見込める水市場分野や水関連製品/技術は何でしょうか。
【回答】
- 下水汚泥処理がようやく始まったばかりというところだが、まだMBRの価格が高く導入が難しい。提示されている価格は予算に対して15~20%程度高いといえる。
- 経済成長と共に多くのプロジェクトや建設が進んでいるが、Hydrotekにとっては1500万ドル(15億円)を超えるような大型プロジェクトは対象ではない。それ以下のメディアム・サイズのプロジェクトにフォーカスしている。大型プロジェクトは総合力と資金力が必要でリスクも大きいので、米国、日本、中国及び韓国などの企業が参入に積極的である。
- Hydrotekとしては政府機関や民間企業を顧客としており、製品としては化学品を納めているが、その多くは外国メーカーのものが多くDow Chemicalや日本の企業の製品が信頼されている。
- ミャンマーに関していえば、資金がなく、政府の予算もないので、自ずとプロジェクト自体が少ない。したがって、日本政府によるODAなどの支援プロジェクトに絡んで参入してはどうですか。ミャンマーで今もっとも必要とされているのは水供給、すなわち飲料水の供給です。低コストが求められており、韓国企業などが供給しているようだが。
Q2.ミャンマーの水市場に参入する場合に貴社にとってあるいは他社にとっても特に問題となるバリアや困難なこととはなんでしょうか。
【回答】
どこでもそうであるが、ミャンマー市場では特にコネクションが重要です。タイはミャンマーと近いこともあり友人が多く20年前から交流を続けている。資金の無いミャンマーでビジネスを探すことは容易ではなく、たとえ友人がいても目的とするビジネスに繋がる適切な人物とは限らないので、人から人へと様々な分野の関係者を紹介してもらうことが大事です。そうして、何とかミャンマーと一定のビジネスができているが決して大きなものではない。
Q3.貴社はミャンマー市場に参入されているとお聞きしていますが、ミャンマー水市場に参入される戦略あるいはミッションとはなんですか。
【回答】
Hydrotek社の掲げるミッションに示されているようにミャンマーをはじめとするアセアン諸国に参入しこれらの公衆に貢献することを社是としているのでチャンスがあれば参入したい。タイという地域的優位性から、また低コストで提供できる技術、技術者を有していることは外国企業に対して優位であり、今後もミャンマーのみならずインドネシアやラオスなど近隣諸国にさらに参入してゆきたい。地域的に競合するのは、シンガポールやマレーシアの企業ということになる。
Q4.日本の水企業がタイやミャンマー市場で成功を収めるためにもっとも重要なファクターはなんでしょうか。あるいはアドバイスすべき点があればどのようなことでしょうか。
【回答】
- ミャンマーに関しては上述したとおりで資金が無い中でビジネスを探すのは難しく、将来に備えて人脈作りに心がけることが重要。
- タイでは既に日本企業が沢山進出しており、それらの企業に同じ日本企業である日立や栗田工業、五洲興産などがグループで取引しているが、彼らのタイ国内の代理店のアフターサービスが十分とはいえないのではないか。
- これら日本企業の製品やサービスはブランド力や信頼性があって日本企業には売れるかもしれないが、タイ国内企業と比較し30%程度高いので、今後韓国企業などの売込みで困難が生じるかもしれない。現在、日本企業が提供している製品で価格的に競合できるのはメンブレン製品ぐらいではないか。これもアフターサービスが十分でないと負けてしまう。この点、Dow Chemicalなど米国企業の対応は一貫しており信頼性がある。但し、タイ市場でも、中国製品に対する品質面及び知的所有権(コピー)に関して信頼性がなく中国製品を回避する傾向にある。その点、台湾は信頼されており、韓国企業も参入し始めている。
- Hydrotek社としては、タイに(日本企業という)大きな市場を持っている日本の水企業と協力し合って共に成長して行きたいと思っています。
Q5.貴社の会社経営において潜在的なリスクがあるとすればどのような点でしょうか。
【回答】
- 無理をせず着実にビジネスを進めてゆくことが大事であり、特にスキルを有する人材の育成が重要と考えている。
- 日本企業と取引をしたことがあるが、一般に独占契約(exclusive agent contract)を交わしたがらない。お互いの信頼関係を築く上でそうした排他的契約は重要です。
- GEとの契約でも独占契約を結んでいる。GEとは既に長い期間に亘って取引があるが、技術そのものが優れているというよりも、製品購入後の(現地代理店による)ケアが優れており信頼性が高い。これも独占契約という信頼関係から生まれているのではないか。
3. まとめ
今回のHydrotek社訪問、および同社に関する年次報告や経営データの分析などを通じて、Hydrotek社がすぐに巨大な水プレーヤーになるとは感じられないが、背伸びをしないその着実な経営手法、政府機関や地方政府との強いコネクション、経済成長に伴う民間企業との取引拡大、そしてローテクからハイテクにいたる幅広い技術力とコスト柔軟性を備えていること、加えて、タイ国内はもとよりミャンマー、ラオス、インドネシアなどの近隣諸国との豊富な人的コネクションを有していること考慮するとき、今後のタイ経済やアセアン地域全体の経済が拡大するに伴い、今後更なる成長が続くものと見られ、そう遠くはない時期に、国際水市場の中で有力な水プレーヤーとなる可能性は大きい。
日本企業にとっても、同社のタイの社会経済の規模やレベルに合わせた無理をしない経営手法や地域に深く根ざした人的コネクション、幅広い技術の提供によるコスト対応力などの面で学ぶべきことは多く、今後アセアン地域で事業拡大をする際に協力関係を結ぶべきパートナーとして考慮するに値するものと思われる。
写真中央がHydrotek社 Slib Soongswang CEO、
その向かって左側がエンヴィックス代表取締役中里純啓