2013年5月15日、米国スタンフォード大学工学部のShan X. Wang教授らのグループが “Magnetically ultraresponsive nanoscavengers for next-generation water purification systems” *と題した論文をNature Communications誌で発表した。この論文では、新しい種類のナノスカベンジャーの研究成果を伝えている。ナノスカベンジャーとは、汚染された水に対して除菌、汚染除去、脱塩の作用を示すナノスケールの粒子をさす。これは、水質浄化に取り組む環境工学者たちが近年考え出した汚染物質除去の仕組みで、抗生作用を持つ銀や、ある種の重金属や汚染物質を吸着する二酸化チタンや、塩に対して同様の作用を示す物質などが該当する。
今回開発されたものは、磁気に対して超反応性を示す合成材料のコアを持つナノスカベンジャーであり、ほとんどすべてのナノスケールの汚染物質を容易に効率よく回収することができるという。「このナノスカベンジャーは汚染された水中を漂い、菌を殺したり、汚染物質の分子に吸着したりする。その場合、コアが強い磁性を発揮し、それを利用して汚染物質を除去することができる」Shan Wang教授はそう述べている。
磁気を利用するアイデアは、何も新しいものではない。現在でも磁性を帯びた酸化鉄のコアを銀、二酸化チタンなどの活性物質で包み込んだナノスカベンジャーが作られている。だが、これら従来のナノスカベンジャーは、働く磁力が十分とは言えない。酸化鉄のコアでは、人間が安心して飲めるところまで汚染物質を取り除くことはできないのである。
本論文のアイデアの新しいところは、コアを酸化鉄から合成材料に変えたところである。このコアは、酸化鉄のコアのように単体ではなく、チタンの層を両側から磁性を帯びた合成材料の層でサンドイッチ状にはさんだディスクになっていて、ひねりも加えられている。外側の合成材料の層に働く磁気モーメントは、向きが逆で、周囲に何もないときは、それらが打ち消し合ってコア全体では磁性を発揮しないが、強い磁場にさらされると、両側の合成材料の磁気が同じ方向に作用し、その効果が相乗的に大きくなる。そのため、このコアは現在の酸化鉄のコアより磁気に対して強い超反応性を示し、スタンフォード大学の研究チームはこれを「合成反強磁性コア」と呼んでいる(「反」は反対方向には磁性を示さないことを意味する)。
実際に使用する場合は、ターゲットとする汚染物質に応じてこのコアに銀や酸化チタンなどの反応性材料をかぶせる。スタンフォード大学のチームが大腸菌で汚染された水の中に銀をかぶせたナノスカベンジャーを浸して行った実験(銀の用量約17ppm)では、20分ほどで99.9パーセントの大腸菌を除去することができたという。
* Mingliang Zhang, Xing Xie, Mary Tang, Craig S. Criddle, Yi Cui & Shan X. Wang, 2013: Magnetically ultraresponsive nanoscavengers for next-generation water purification systems, Nature Communications
http://www.nature.com/ncomms/journal/v4/n5/abs/ncomms2892.html