ベトナムのハノイ市建設局は、同市における都市下水の収集・処理システムの建設に向けて、2020年までに計19のプロジェクトに約42兆ドン(約2016億円)を投資すると発表した。投資金額の内訳としてはODAが19兆ドン(約912億円)、国家予算が4兆3000億ドン(約206億円)、民間資金が19兆ドン(約912億円)と見込まれている。このプロジェクトの目的は、ハノイ市の環境衛生状況を大幅に改善し、都市サービスのレベルを向上させ、そして市民の生活環境改善に対する満足度を高めることであるという。
すでに展開されているプロジェクトとしては、市内のバイマウ湖の汚染防止・改修プロジェクトがある。このバイマウ湖に処理能力1万3300m3/日の下水処理場を建設する予定であり、総工費は4000億ドン(約19.2億円)を見込んでいる。
この他にも、ハノイ建設局は排水処理プロジェクトへの投資を強化するために準備を進めている。具体的には、処理能力約27万m3のエンサ(Yên Xá)下水処理場の排水システム建設プロジェクト、BOT形式で処理能力約8万4000 m3 /日のあるフードー(Phú Đô)下水処理場の排水システム建設プロジェクト、処理能力約5万8000 m3/日のヌエ(Nhuệ)川下水処理場の排水システム建設プロジェクトである。
今後は、ベトナム政府首相に承認された「2050年を視野に入れた2030年までのハノイ市排水計画」に基づいて、ハノイ建設局は優先プロジェクトとその適切な投資形式を策定する。それを基に、民間セクターからの投資を呼びかける予定であるという。
EnviXコメント
世界銀行が2014年1月17日に公表した報告書 では、ベトナム国内の都市部における下水処理設備の未整備による同国の経済損失は年間7億8000万ドル(約795.6億円)(ベトナムのGDPの1.3%に相当)と推定されている。都市部の下水処理に関しては、これまで過去20年間にわたり中央政府によって毎年5億ドル(約510億円)の投資が実施されてきたが、国内の急速な都市化に対応するためにはまだ不十分であるという。
この度のハノイ市の発表は、まさに都市部の下水処理の改善に向けた具体的な計画のひとつであり、今後は他の都市部でも同様の動きが加速するものと予想される。
上述の世界銀行の報告書によると、ベトナム国内の都市部の人口は2025年には3600万人に増加すると予測されており、必要な下水処理サービスへの投資額は83億ドル(約8466億円)にまでのぼるという。
また、工業団地からの排水も今後さらに増え続け2030年には1日当たり1360万m3にまで達し、都市排水の総量を上回ると予想されている(下図、2015年~2030年は予測値)。ベトナムでの排水処理事業を検討する上ではこちらにも注目する必要がある。
最近では、日本企業のなかで例えば積水化学工業株式会社が2013年9月に、ベトナムでの産業排水処理の実証実験を開始し、事業化を検討していくと発表している 。同国の都市化、工業化にともなう排水処理へのニーズの高まりを見越しての進出であると思われる。
図:ベトナムにおける2030年までの排水量予測
(「ベトナムにおける環境産業の発展と日本企業への期待」をもとにEnviX作成)
ところで、上のグラフは環境省の主催した「ベトナムにおける日本の排水処理技術普及のためのセミナー」 の資料の一部をまとめたものだが、この資料のなかで「日本企業の弱点」として以下の点が挙げられている。
- 日本の環境サービス会社の殆どは、ベトナムにおける日系企業のみを相手にそのサービスを展開している。
- 品質はとても良いが、価格が高い。
ベトナムの水ビジネス市場への進出を検討する上では参考になる意見であろう。