中国国家海洋局、2017年7月19日、「2016年全国海水利用報告[1]」(以下、本報告)を発表した。本報告によると、2016年末時点で、全国で建設済みの海水淡水化プラントは131箇所で、1日当たりの淡水化量は118万8100トンに達した。2016年には、10箇所の海水淡水化プラントが新規建設され、1日当たりの淡水化量は17万9240トンの増加を遂げたという。本報告で注目すべき点として、海水淡水化量の増加に加えて、同業界の成長を阻むコストや技術面などの問題解決にもある程度の進展が見られたことが挙げられる。中国脱塩協会駐青島代表である郭亮氏は、次のように述べている。「1日当たりの淡水化量が1万トン以上の海水淡水化設備における水1トン当たりの投資費用は、これまでの1万元超から7000元~8000元前後にまで低減した」
図 中国海水淡水化量の推移(単位:万トン/日)
(出典:中国国家海洋局、2016年全国海水利用報告)
図 地域別の海水淡水化量(単位:万トン/日)
(出典:中国国家海洋局、2016年全国海水利用報告)
海水淡水化により造られた淡水の約70%を工業用水として利用
関連部門からの情報によると、山東省で建設済みの海水淡水化プラントによる1日当たりの淡水化量は28万2000トンに達するが、そのうちかなりの量の淡水が工業用水として利用されている。青島市は、水資源が極度に乏しい沿海都市であり、「国家第13次5カ年計画(2016年~2020年)」の海洋経済革新発展モデル都市(第1回)の8都市にも名を連ねている。郭氏によると、水資源を節約するため、青島発電所、黄島発電所、青島鋼鉄などでは、淡水化された海水が工業用水として利用されている。
海水淡水化プラントが分布する9つの沿海省や市は、主に水資源が著しく不足している沿海都市や島となる。北方地区に建設されているプラントは、主に大規模な工業用海水淡水化プラントで、天津市、河北省、山東省などの地域の電力、鋼鉄など水消費量が多めの業種に集中している。
本報告によると、2016年末現在、海水淡水化プラントにより淡水化された海水のうち工業用水として利用される1日当たりの淡水量は69万1385トンで、全体の66.61%に達している。以下は、その内訳である。住民の生活用水として利用される1日当たりの淡水量は39万2705トンで、全体の33.05%を占める。
図 海水淡水化の利用先内訳(単位:万トン/日)
(出典:中国国家海洋局、2016年全国海水利用報告)
水不足の補強策
海水の淡水化を代表とする海水利用は、各沿海地域における水資源不足という問題の解決を図る重要な手段となっている。青島水務グループは、海水淡水化事業を扱う国有企業のうち全国最大規模を誇る企業グループである。現在、同グループが運営管理する海水淡水化プラントによる淡水化量は1日当たり20万m3で、同プラントには1日当たりの海水淡水化量が10万m3に達する百発および董家口の海水淡水化工場が含まれる。青島市では、水使用量のピークを迎える6月以降、市街地の原水供給の95%を外部からの供給に頼ることになる。こうした状況を受けて、青島水務グループは、原水ポンプに技術改造を施し、原海水の取水能力の増大を図った。その結果、海水取水量は、設計輸送量の26万8000m3を超える29万m3にまで達した。2017年7月15日、同グループに属する百発海水淡水化工場は、同工場創業以降の最高記録である1日当たりの淡水化量10万5251m3を達成した。
それと同時に、青島市では、淡水化された海水を都市給水にも利用し、生活用水と工業用水で水質別に分類した給水を実現している。2016年9月以降、淡水化された海水を工業企業に直接供給しており、1日当たりの給水量は、熱供給期間以外の時期では約1万2000トン、熱供給期間には約2万2000トンにまで達している。こうした取組みは、大量の淡水資源の節約を可能にするだけでなく、経済効果の向上にも寄与している。
報告によると、2016年、海水淡水化プラントによる実際の淡水生産量を引き上げるため、青島市、天津市などの地域では、周辺の工業用水使用企業を開発したり、淡水化された海水の給水管建設を加速したりするなどさまざまな方法を講じて、実際の淡水生産量の増加が図られた。
技術成熟によるコスト低減
技術の絶え間ない成熟に伴い、これまで高止まりしていた海水淡水化のコストは、ある程度の低減を果たした。本報告によると、海水淡水化における主なコストは、投資、運用・保守、エネルギー消費により発生する。2016年、中国における海水淡水化のコスト水準は、水1トン当たり5元~8元前後に集中しており、同コストには、電力、蒸気、薬剤、膜交換などに伴うコストが含まれる。「以前は、水1トン当たりのコストが10元を超えていた」と海水淡水化企業の担当者は語る。コスト削減により、海水淡水化市場には、さらなる発展の余地が生まれた。郭氏の分析によると、天津市の工業用水の価格は1トン当たり7元前後のため、海水淡水化のコストを1トン当たり5元にまで抑えられれば、関連企業に価格面での優位性をもたらすことになる。
それと同時に、関連技術も一定の進展を果たした。本報告によると、天津市、舟山市、青島市など「国家第13次5カ年計画」の海洋経済革新発展モデル都市(第1回)では、海水淡水化を重点分野として積極的に推し進め、海水淡水化における重要設備や製品を開発している。一連の先進的な造水装置については、すでに商業化利用を実現させており、セラミック膜も事業化利用が見込まれている。逆浸透法(RO)、低温多重効用法(LT-MED)および多段フラッシュ(MSF)は、世界で商業化利用されている海水淡水化における主流技術である。現在、中国が独自に開発した低温多重効用蒸発による海水淡水化技術や、逆浸透海水淡水化技術は、1日当たりの淡水化量が1万トンクラスのプラントでの利用に成功している。全体としての技術レベルは、世界と肩を並べたといえる状態にあり、複数の海水淡水化装置を国外に輸出している。
[1] http://www.soa.gov.cn/zwgk/hygb/hykjnb_2186/201707/t20170719_57029.html