中国・都市部における汚泥処理事業の発展現状と課題

中国では近年、生活排水インフラ事業の推進に伴い、下水汚泥処理問題が政府において重要視され、第13次五ヵ年計画期間(2016-2020年)において都市部を中心に汚泥処理関連事業が更に推進されている。本稿では、「十三五」期間中の中国下水汚泥処理に関する政策動向・現状を踏まえ、今後の方向性を展望する。

 

1. 汚水処理および汚泥処理の現状

1.1 汚水処理率の連年増加

中国・国家発展改革委員会と住建部が2016年12月に発表した「『十三五』全国都市汚水処理及び再生利用施設の建設計画」では、2020年末までに、都市汚水処理率95%を達成し、また県レベル(県庁所在小都市)と鎮レベルにおいてもそれぞれ85%、70%を達成するという目標が打ち出された。中国住建部のデータによると第12次五ヵ年計画(2011-2015年)期間中、中国都市汚水処理施設の総数は年々増加し、2017年末に2209箇所に達した。汚水処理率も増加しつつあり、2017年に94.5%まで上がり、2020年の目標に近づいている。また、県レベルおよび鎮レベルの汚水処理施設もそれぞれ1572箇所、4810箇所に達し、都市部生活下水処理率がそれぞれ90.21%、49.35%となり、県レベルの汚水処理率はすでに2020年の目標に達しているが、鎮レベルでは目標を大きく下回っている。いっぽうで、都市部を中心とした汚水処理率・処理量の拡大に伴い、汚泥発生量が増加していくと見込まれている。

図 中国都市部下水処理施設数および汚水処理率の変遷(2011-2017年)
(出典:中国住建部データベース)

1.2 汚泥処理現状依然として厳しい

「『十三五』全国都市汚水処理及び再生利用施設の建設計画」では、2020年末に地レベル及びその上位レベルの都市の汚泥処理率を90%、その他の都市を75%、県レベル(県庁所在小都市)で60%を達成させることが打ち出された。汚泥無害化処理施設の増築・新築規模が6.01万トン/日(含水率80%)に、運営中の施設の規模が9.75万トン/日に達する計画が公開されている。

都市部汚水処理施設の増加および汚水処理率の向上につれて、汚泥発生量も増えていると考えられる。具体的な汚泥発生量と汚泥処理率について、政府部門の公式統計は公表されていないが、有力な民間調査機関が発表した調査データとしては、2017年の中国都市部汚泥発生量が5484万トン、2018年が5665万トンにも達していると推計されている[1]。また、別の中国関連協会の推計によると、2016年汚泥無害化処理率は39.5%であり、2020年の目標をはるかに下回っていた[2]。2017年11月時点で運営・稼働中の汚泥処理施設の処理規模は総計5.5万トン/日であるが、2015年の3.74万トン/日から、年平均成長率は21.1%に達していると推計されている。しかしながら、汚泥無害化処理率および運営中の汚泥処理施設処理規模から見れば、中国の汚泥処理事業の現状は依然として厳しいとも言える。

 

2. 汚泥処理に関する政策方針

汚泥処理における「十三五」目標を達成するため、中央政府は関連推進策を強化し、地方政府も現地の状況に踏まえ関連実施策を積極的に打ち出している。

2.1 中央政策:経営者責任の強化

2018年1月から施行されている「水汚染防止法」では、汚泥処理に関する以下のような項目が追加された。「十三五」時期の汚泥処理目標が明確に打ち出されたことを背景として、汚泥処理についての汚水処理施設運営者および汚泥処理施設運営者の主体責任は強化されている。

  • 第51条:都市汚水処理施設運営者あるいは汚泥処理施設の運営者は安全な汚泥処理を行い、処理後の汚泥が国家基準を超えないことを確保し、汚泥の行方を記録しなければならない。
  • 第88条:処理後の汚泥が国家基準を超え、汚泥の行方を記録しない都市汚水処理施設運営者あるいは汚泥処理施設の運営者は、都市排水管理部門より是正勧告を受けることとなる。深刻な結果を招く場合、10万元以上20万元以下の罰金が科される。定められた期間中に是正措置をとらない場合、都市排水管理部門が指定した第三者機関により是正・改善が代行される可能性もあり、その費用は違反者に負担してもらう。

その一方、中国国務院は2018年6月に公開した「生態環境保護を全面的に強化し、汚染防止攻略戦を断固として戦い抜くことに関する意見」では、汚水処理の部分において、「各地政府は汚水処理料金制度の整備を促進し、規定通りに汚水処理料金算定基準を調整し、原則として汚水処理施設と汚泥処理施設運営の正常化かつ収益化が実現するまで補助すべきである。」と規定し、汚泥処理インフラ施設の料金徴収および補助制度に関する内容を明らかにした。

実際、中国各地方政府は汚泥処理事業の発展を促進するため、汚泥処理における補助金制度を実施している。地域や処理方法によって補助金額が異なるが、1トン当たり150~300人民元程度である。

コラム1 地方政府による汚泥処理補助金制度の実例

1.    重慶市
重慶市政府は下水汚泥処理処置事業を発展させるため、2016年に「重慶市城鎮生活汚水処理場汚泥処理処置実施方案」を発表した。同「方案」によると、市内中心地域の汚水・汚泥処理施設では、重慶市政府はサービス購入の形式で汚泥処理処置運転費用を負担する。費用基準は以下のようである。
1)     栄養土としてのリサイクル費用基準:217元/トン;
2)     共同焼却、建設材料としてのリサイクル、食品廃棄物との共同処理など:193元/トン。

2.    浙江省・杭州市
杭州市政府は2010年に「杭州市汚水処理施設汚泥処理処置プロジェクト建設および積効管理以奨代補暫行弁法」を発表し、市内下水汚泥処理処置プロジェクトの建設・運営に対する財政支援策を明らかにした。同「弁法」によると、市レベル・都市中心部下水汚泥処理処置プロジェクトに対する財政支援の基準は以下のようである。
1)     無害化処置プロジェクト:市政府、区政府はそれぞれプロジェク総計投資金額の20%を補助する(市政府補助金が500万元を超えない);
2)     資源化処理プロジェクト:市政府、区政府はそれぞれプロジェク総計投資金額の30%を補助する(市政府補助金が800万元を超えない)。

2.2 地方政策:都市部下水汚泥処理事業の展開を促進

「十三五」目標および運営者主体責任の強化方針を受け、各地方政府も相次いで各種政策を公表し、地域の汚泥処理分野の目標を打ち出し、汚泥処理の規範化、処理技術の向上、施設運営管理のレベル上げを図ろうとしている。

表 2019年に発表された汚泥処理処置に関する地方政策

名称 地域 発表時間
「広東省城鎮生活汚水処理場汚泥処理処置管理弁法」 広東省 2019.07
「甘粛省都市(県城)汚水処理提質増効三年行動実施方案(2019-2021年)」 甘粛省 2019.06
「天津市城鎮汚水処理場管理弁法」 天津市 2019.01
「山西省城鎮汚水処理場運行監督管理弁法(試行)」 山西省 2019.09
「海南省城鎮汚水処理提質増効三年行動実施方案(2019-2021年)」 海南省 2019.09
「河南省都市汚水処理場汚泥集中処理処置管理弁法(試行)」 河南省 2019.02
「江蘇省環境インフラ施設三年建設方案(2018-2020年)」 江蘇省 2019.03
「広州市人民体表大会常務委員会 汚泥乾燥・焼却処置方法を全面的に実施することに関する意思決定」 広東省広州市 2019.09

一連の地方政策のなかで多く取り上げられたのは、汚泥の資源化処理のほか、PPPやBOTなどの方式を通じる汚泥処理処置施設建設・運営事業への民間参入である。民間資本、技術力を活用し、汚泥処理処置事業の発展を促進することが狙いである。このため、今後は各地政府の誘導により汚泥資源化処理、汚泥処理施設の建設・運営、汚水処理場汚泥処理設備の改造などに関するプロジェクトは増加すると見込まれる。

コラム2 安徽省合肥市政府主導の汚泥処理・資源化プロジェクト実例

合肥市汚泥処理センターのデータによると、2019年上半期市内10箇所の汚水処理施設の汚泥発生量は16.7万トンであり、1日当たりの発生量が912.6トンであった。それに対し、市内には汚泥処理インフラ施設は3箇所しかなく、処理能力が760-860トンであり、汚泥処理需要が満たされていない状態である。

そこで合肥市は2019年に9億元近くの資金を投入し、計画処理能力が1000トン/日に達する汚泥乾燥・焼却インフラ施設の建設プロジェクトを開発しようとしている。新規汚泥処理施設建設プロジェクトの展開に合わせ、市内既存の汚水処理施設において、汚泥脱水プロセスの最適化も行われるようになる。

汚泥は最初に汚水処理場で含水率を80%まで処理される。また、新規汚泥処理施設で汚泥の含水率を60%に下げた後に焼却する。その焼却灰は市内の建設材料工場に搬入され、レンガの原材料としてリサイクルされ、汚泥の再利用を実現する。

まだ立地選定段階にある同プロジェクトは3年間で建設され、2021年から正式に稼働する予定である。

 

3. 汚泥処理・処置技術に関する動向

汚泥の処理および最終処置については様々な方式がある。処理方法としては、濃縮、生物処理(嫌気性消化または好気性発酵)、乾燥化、焼却および石灰等による安定処理はよく採用される。最終処置に関しては、栄養土リサイクル(農業地・林業地施用)、建設材料リサイクル(セメント、レンガ原料)、焼却(単独焼却または共同焼却)および埋立は主な手段である。

しかし、実際の汚泥処理現状は各地域の技術力、汚泥の有機物の含有量、汚水施設の汚泥処理設備などの状況によって異なる。有力民間研究機関の分析によると、2018年までの汚泥処理分野での運営中プロジェクトと建設中プロジェクトからの推計にもとづくと、「機械脱水+加熱乾燥」が主な汚泥処理方法であり、全体の31%を占めている[3]。2018年に契約された新しいプロジェクトの中では、汚泥減量化に向け、乾燥・焼却を行う比率が増えている。そして、汚泥処理後の最終処置も、汚泥処理後の含水量、栄養分、焼却施設、汚泥リサイクル製品のニーズなどに関わっている。したがって、主な汚泥処理・処置方法の選択および実際の現状は地域によって異なる。一部の大都市では、高い技術力、完備した焼却などの処理施設を生かし、汚泥の資源化を促進する傾向もある。また、広東省広州市など、焼却を主な汚泥処理処置方法とする方針を示した大都市も現れた。

コラム3 広東省広州市の汚泥焼却処理方針

広州市水務局は2013年に「広州市城鎮生活汚水場汚泥処理処置技術路線及び場内技術改造工程方案」を発表し、広州市の汚泥処理処置事業の現状を分析し、必要な汚泥処理処置事業推進方案を明確にした。

同「方案」によると、2011年、広州市での汚泥発生量(含水率80%)は1671.4トン/日であり、2020年には2603.25トン/日に達すると予測されている。膨大な下水汚泥に対し、広州市は環境影響と経済効果を配慮に入れた結果、以下のような都市中心部汚泥処理処置プロセスを提案した。
1)     脱水または深度脱水+乾燥化+建設材料リサイクル
2)     脱水または深度脱水+乾燥化+焼却+残渣埋立
3)     脱水または深度脱水+乾燥化+焼却+残渣の建設材料リサイクル

その後、広州市政府は2019年9月に「広州市人民体表大会常務委員会 汚泥乾燥・焼却処置方法を全面的に実施することに関する意思決定」を公表した。この政策では、「2019年末までに、市内すべての汚水処理場内で汚泥乾燥施設を整備する;2020年末までに、市内汚泥乾燥・焼却処理能力は基本的に満たされ、汚水処理場で汚泥の乾燥・減量化処理が行われた後、市内での焼却処理を実現する;2022年末までに、市内汚泥乾燥・焼却処理の実際のニーズが満たされ、すべての汚泥の無害化乾燥・焼却処理を実現する」という汚泥処理目標が打ち出され、汚泥の乾燥・焼却処理を全面的に実施する方針を明らかにした。

 

4. 中国汚泥処理事業の形態

2010-2017年間、中国汚泥処理事業の市場規模は拡大しつつあり、研究機関と統計によると2010年の129.8億元から2017年の524.7億元にも達し、年平均成長率で10%以上の発展を遂げている[4]。「十三五」目標を目指し、近年、全国各地で汚泥処理に関する新規プロジェクトが次々と現れている。新規プロジェクトのうち、処理処置方法の違いから見れば、焼却処理を行う、または焼却するために脱水処理を行うプロジェクトがあれば、セメント原料リサイクルまたは緑化用土壌リサイクルのために生物処理を行うプロジェクトもある。また、事業対象別に見れば、汚泥の性質に近い物質(藍藻、ゴミ)などとの共同処理事業および汚泥単独処理処置事業に分けられている。事業内容もそれぞれ違い、施設の建設・運営を統括的に行う新規プロジェクトのほか、建設事業の推進に伴い、既存施設における運営管理プロジェクトも増える傾向である。

表 2019年典型的汚泥処理事業新規プロジェクト

モデル 案件名 地域 企業 規模
トン/
状態 金額(元) 契約
期限
(年)
処理・処置方法
BOT 常州市汚泥焼却センター建設・運営プロジェクト(第一期) 江蘇省常州市 新蘇環保産業集団有限会社 400 2019年8月から運営 3.4億 30 乾燥・焼却一体化
EPC 無錫市藍藻および生活雑排水汚泥処置施設建設プロジェクト 江蘇省無錫市 無錫華光鍋炉股ふん有限公司 乾燥化600;脱水300 2019年8月契約 1.4億 10 乾燥化・深度脱水
(焼却前処理)
O&M 済源市100t/d汚泥処理施設運営プロジェクト 河南省済源市 中原晟啓新能源装備有限公司 100 2019年7月落札 352元/トン(処理費単価) 5 好気性発酵+
肥料化
(緑化用土壌リサイクル)
O&M 密云区汚泥無害化処理施設運営PPPプロジェクト 北京市密云区 北京碧水源科技股ふん有限公司 200 2019年4月落札 2.3億 24 熱加水分解法+嫌気性消化
(リサイクル前処理)
BOT 延吉市汚水処理場汚泥集中処理施設建設・運営プロジェクト 吉林省延吉市 中節能兆盛環保有限公司 150 2019年2月落札 建設費5197.59万元;377.54元/トン(処理費単価) 30 /
BOT 西安市汚水処理場汚泥集中処置PPPプロジェクト 陝西省西安市 中国環境保護集団有限公司 1000 2019年11月から試運転 5.9億 16 熱加水分解法+嫌気性消化+加熱乾燥化
(リサイクル前処理)
DBFOT 長治市汚泥・食品廃棄物処置施設建設・運営PPPプロジェクト(第一期) 山西省長治市 啓迪桑徳環境資源股ふん有限公司 150(+食品廃棄物50トン) 2019年建設中 1.37億 30 電気浸透脱水法+好気性発酵(堆肥化リサイクル)

 

5. まとめ

中国都市汚水処理能力の向上により、汚泥発生量も増加しつつあり、「十三五」目標を達成するためには、高い成長率を保たなければならない。中央政策と地方政策により、汚泥処理施設の経営者責任が強化される一方、各地の具体的な汚泥処理に関する目標・計画も打ち出されている。各種政策の指導の下、汚泥処理市場規模は拡大し続き、汚泥処理に関する新規プロジェクトが次から次へと導入されている。汚泥処理方法について、一定の条件が揃い、共同焼却または単独焼却を主な汚泥処理方法とする新規・改造プロジェクトも現れている。また、汚泥処理後の肥料・燃料としての再利用も重視される傾向にある。

政策の下、汚泥処理に関する新規・改造プロジェクトは引き続き増加し、汚泥市場規模が更に拡大し続くと見込まれる。

[1] 中国環境コンサルティング会社GEP Researchの調査レポートにより

[2] 中国水網の調査レポートにより

[3] 「2018中国汚泥処理処置業界市場分析報告」中国水網,2018

[4]前瞻産業研究院が2018年に発表した「中国汚泥処理処置深度調査研究と投資戦略分析報告書」による

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