毎年3月22日は「国連世界水の日」である。2020年3月21日、国連-水（UN Water）は、「水と気候変動」と題された『2020年国連世界水開発報告書（World Water Development Report 2020 ‘Water and Climate Change’）』を発表した。報告書は、(1) 気候変動により水リスクがさらに高まっている事実とそのメカニズム、(2) 問題の解決策として、(a) 排水処理の改善、(b) 水資源に対する関心の向上、(c) 気候ファンドの利用などを提案している。

近年の気候変動によって水資源へのアクセスが危ぶまれるようになった。現在、世界では22億人が清潔な飲料水を確保できず、42億人が適切な衛生設備へのアクセスがない状態で暮らしている。報告書は、気候変動によって、現在水不足に悩む国々の状況の悪化を述べ、従来水不足を未経験だった国々へのひろがりを推測している。水の供給能力の低さは、気候変動によって水のリソースにだけでなく、さらに社会全体に影響を及ぼすと述べている。

(1) 気候変動と水

気候変動、水へのアクセス、品質、量に影響を及ぼす可能性がある。国連事務総長・グレーテス氏は、世界水の日に寄せたメッセージで、「地球温暖化と水の持続不可能な使い方により、水資源を求めてかつてない激しい競争が起こり、数百万もの人々が土地を追われ、健康と生産性に悪影響を与え、不安定な状態や紛争を倍増させる要因になる」と記した。

気候変動によって、水温と水中酸素が上昇し、水質汚染の可能性が上昇する。気候変動によって洪水が頻発すると、飲料水に病原菌が混入する恐れがあり、干ばつによって汚染物質の濃度が上昇する恐れが生じる。気候変動によって水の供給が変化すると、特に森林や湿地帯など、多くの生態系において生物多様性が失われる可能性がある。そして、農業、工業、エネルギー産業および漁業への悪影響が考えられる。

(2) 解決策：適応（adaptation） と緩和（mitigation）

ここでの適応（Adaptation）とは、自然的・技術的・社会的手法などによって環境へのダメージを低減すること、緩和（Mitigation）とは、温室効果ガスの排出量を抑えるなどにより気候変動を緩和すること。

報告書は以下のような解決策を提案している。

(a) 排水処理の改善
排水処理では、その工程で3％～7％の温室効果ガスが発生すると考えられている。また、排水には多量のメタンが含まれており、そのメタンからは、もし厳正に管理されれば、排水処理に必要なエネルギーを補って余りあるエネルギーを生産できる。ヨルダン、メキシコ、ペルー、タイなどの水不足の国々では、すでに排水からメタンを抽出して排水処理に必要なエネルギーを賄っている。しかし、全世界では80％～90％の排水が未処理のまま投棄されている。

(b) 水資源に対する関心の向上
水の環境問題解決にとっての重要性は周知されているが、環境問題に関する国際条約において実際に“水”という言葉が登場することはめったにない。世界的に見て、多くの国が将来的に水問題に取り組む姿勢を見せているが、その計画に対してコストを試算している国はほとんどなく、そうした計画を進めている国はさらに少ない。

(c) 気候ファンドの利用
報告書によると、水資源管理、水供給および衛生設備サービスは資金難である。適応と緩和の計画を水関連投資に系統的に盛り込むべきである。そして、水および気候変動への取り組みは、雇用創出・公衆衛生改善・貧困解消・男女平等など様々な分野でのメリットを生み出す。

なお、関連する文書は以下のURLで見ることができる。

・国連-水のニュースおよび報告書は、以下のURLでダウンロードすることができる。
https://www.unwater.org/world-water-development-report-2020-water-and-climate-change/

・世界水の日に寄せるアントニオ・グレーテス国連事務局長メッセージ
https://www.unic.or.jp/news_press/messages_speeches/sg/36799/