中国で初の電子ビーム照射による廃水処理プラント

電子ビームで産業廃水を処理する中国初の施設が、2017年3月6日に浙江省金華市で稼働をはじめた。これは、繊維製品の生産で世界をリードする中国にとって、電子ビームなどの放射線照射による廃水処理技術の新時代をひらくものである。

 
図 処理前後の廃水の色の違い
(左:未処理の染色廃水、中央:オゾン処理後の染色廃水、右:放射線処理後の染色廃水)
(出典:IAEA)

図 使用した電子ビーム照射装置
(出典:IAEA)

先進国と途上国との廃水処理の格差

全世界で発生する産業廃水の汚染の5分の1は繊維の染色工程で生じている。いくつかの先進工業国では、繊維染色工場の廃水の一部を処理するのにすでに放射線照射を利用している。だが、近年では繊維製品の生産の多くがアジアの途上国に移り、大量の廃水が未処理のまま排出されている。これについて国際原子力機関(IAEA)の放射線処理の専門家、Sunil Sabharwalはこう述べている。「従来型の廃水処理技術が近年進歩してきたにもかかわらず、廃水に含まれる最も頑固な着色剤を処理することができるのは、依然として放射線技術しかない。問題は、その技術が先進国にあり、いっぽうでそのニーズのほとんどがいまでは途上国にあるということだ」

知識ギャップを埋めるためのIAEAの取組

こうした知識のギャップを埋めるために、IAEAは放射線処理技術について、アジアを中心とするいくつかの国への技術移転などを含む共同研究プロジェクトを実施してきた。北京の清華大学の原子力・新エネルギー技術研究院副院長でこのプロジェクトを後押ししてきた主要人物である王建龙(Jianlong Wang)教授は、たとえば中国の研究者らはこの技術の採用とプラントの建設に関してハンガリー、韓国、それにポーランドの専門家から有益な助言をもらったと述べている。

上海の南300キロメートルに位置する金華市に新設されたプラントは、日量1500 m3の廃水を放射線技術で処理する。これは同プラントの全処理量のおよそ6分の1に相当する。「すべてが順調にいけば、この技術をプラントの残りの部分にもひろげ、ゆくゆくはほかのプラントにも全国的に展開していくことができる」と王教授は言う。電子ビームを使った放射線技術を選択するのに先立って、中国の研究者らは実際の廃水を使って広範な実施可能性試験をくりかえし、電子ビーム技術とほかの方法とを比較してきた。その結果、「電子ビーム技術が環境面でも効果という点でも明らかに勝っていた」と王教授は言う。

インド、バングラデシュ、スリランカなど、繊維産業の盛んな他の国ぐにも、IAEAの支援のもとで放射線処理技術を導入することを検討しているとSabharwalは言う。同氏によれば、インドはすでに下水汚泥の処理にガンマ線照射を使っているという。

細菌による処理には大きすぎる着色剤分子:

一般に廃水処理には、細菌がその主役として活躍している。細菌は汚染物質を消化し、分解する。しかし、繊維染色工程の廃水は、細菌では処理することのできない分子を含んでいる。繊維の染色には、長く複雑な分子の鎖をもつ化合物が使われる。染色工程から出る廃水には、容易に分解しない70種類以上の複雑な化学物質が含まれていることがある。

こうした廃水に電子ビームを照射することにより、複雑な構造をもつ化学物質を小さな分子に分解することができ、それをさらに、通常の生物学的プロセスによって処理して取り除くことができる。短寿命反応性ラジカルを用いておこなわれるこの照射により、電子ビームが広範な汚染物質と相互作用してそれらを分解する。


図 放射線処理による高分子の分解
(出典:IAEA)

中国の研究者らは、抗生物質を生産する医薬品工場の残留物の処理に電子ビームを使うことも検討している。現在、抗生物質製造工程の残留物は有害廃棄物として扱われている。コンポスト化や酸化などの従来の技術では破壊できない抗生物質や抗生物質耐性遺伝子を含んでいるからである。だが、電子ビーム技術を使えば、残留している抗生物質や抗生物質耐性遺伝子を効果的に分解することができると王教授は言う。同教授はさらに、工業規模の実証プラントの建設が2017年後半に計画されていることを明らかにしている。