環境情報の開示を推進する国際的NGOのCDPは2019年3月、「グローバルウォーターレポート2018」を発表した[1]。報告書によると、現在、世界の水使用量の19%を産業界が占め、さらに70%が農業関連サプライチェーンに関係しており、企業の役割は大きい。また、2018年の水関連経済的損失が360億米ドル(約4兆円)に達しており、対策が必要である。現在の企業の行動は、SDG(持続可能な開発目標)の中の水に関する目標であるSDG6を達成し、将来の安全な水を確保する上で不十分だと述べた。水リスクに関する取り組みに一定の進歩が見られたものの、企業は取水量を減らしていない。特に、削減目標を設定した企業数は増加したが取水量の増加を報告する企業数も倍増し、水リスクに関する意識が取水量の削減行動には結び付いていない状況を懸念している。
CDPは2018年、影響力のある企業4969社に淡水資源の管理と統治の取り組みに関し、データの提供を求めた。回答企業は2016年の1432社から2114社に増加した。今回の報告書は、87兆米ドル(9600兆円)を運用する650の機関投資家の要請により、世界の大手上場企業1536社のうち回答を寄せた783社の情報をまとめた。前述の機関投資家や、合計2兆米ドル(約220兆円)の購買力を持つ44の組織が、彼らの活動にこのデータを活用している。
報告書のポイント
- 783社の企業の中で、以下のような主要水管理指標を設定している企業の比率は以下の通り。
図 水管理指標の設定の有無
(出典:グローバルウォーターレポート2018)
- 過去4年間継続して回答した296社の中で以下のことを回答した企業の比率
(1) 水リスクの報告実施:75%
(2) その大部分は、水不足および水質の悪化など物理的なもの:76%
(3) 取水量の増加:50%
CDPは、取水量削減目標を設定した企業がほぼ倍増したにもかかわらず、取水量が増加したと報告する企業数もほぼ50%増加していることに特に憂慮している。この傾向は、全社規模の取水だけでなく、事業所の取水でも起きている。取水量の増加は、アジアおよびラテンアメリカ、ならびに食品、飲料および農業、製造業および鉱物採掘分野において最も顕著となっている。
水問題をより適切に管理するために取締役に与えるインセンティブが重要
CDPは、水の未来の確保は、より良い水管理だけでなくより良いビジネス管理を意味すると言う。企業は、水リスクに対する真の戦略的対応の強化が必要である。その1つが、より適切な水問題管理に関して取締役に与えるインセンティブをあげた。2018年にCDPに回答した283社の影響力のある企業のうち、取水量削減に対しては3分の1以下、汚染回避に対してはわずか15%しかインセンティブを設けていない。CDPは、SDG6を達成するためには、企業の意思決定に水資源管理の将来目標、リスク、機会を組み込むことが必要であると提言している。
[1] 報告書の原文は以下よりダウンロード可能。
https://www.cdp.net/en/reports/downloads/4232