欧州環境庁、都市部における下水処理の課題を示した概要書を発表

欧州環境庁(EEA:European Environment Agency)は2019年10月9日、欧州都市部における下水処理の課題を示した概要書「urban waste water treatment for 21st century challenge」を発表した[1]。同概要書では、気候変動による影響や抗生物質及び微小汚染物質の排水への含有に関する問題解決に向けて、都市部の下水処理施設の整備・改善に向けて更に投資が必要であると結論付けている。

同概要書によると、過去10数年に亘り欧州では排水処理の改善に向けて様々な取り組みが実施されているという。欧州における一般家庭の下水処理普及率は地域によって異なり、西欧や中欧では97%に達するものの、東欧や南欧、南東部では70%程度に留まる。また、都市部の下水処理施設は現在、気候変動や人口増減、新たな汚染物質の登場などの様々な課題に直面しており、これを解決する必要がある。気候変動に関連した異常気象による豪雨が一部の地域で多発化、甚大化している一方、水不足に直面している地域も存在する。このような地域差が、地域毎の雨水排水や下水処理プラントの管理や稼働に大きな影響を与えている。想定外の豪雨により雨水排水システムや下水処理プラントが処理能力を超える一方、水不足による影響を受けて下水の回収や処理が不十分であるといった課題も引き起こしている。地方自治体や下水道業者は、下水処理インフラの必要な改善に向けて、下水道インフラの建設・保守・稼働・更新に向けた資金調達や熟練した労働者の慢性的な人材不足などの問題解決に継続的に取り組んでいるものの、これらの新たな課題にも直面している。

また、欧州環境庁が今回発表した概要書によると、抗生物質や薬剤等が下水に含有されていることが確認されている事例が増加しつつある。これらの化学物質は、複数の物質が混合されており、多くの排水処理プラントでは処理が容易ではないほか、処理コストが高額でより多くのエネルギーを必要とする処理プロセスが必要となる。

更に概要書では、高額なエネルギーコストと財源不足といった現状の課題が、水効率性を促進させるドライバーとなっていると指摘している。下水処理施設の処理ライクルの過程において、リンなどの物質や下水を回収、再利用する機会となる。同概要書では、下水処理施設のレジリエンシーを改善するために、欧州地域で既に実施されているインフラ投資の事例も紹介されている。調整池や遊水池を活用し、洪水による流量調整や処理された再生水の再利用などが実施されている。

本概要書で述べられている課題、必要となるソリューションをまとめた図が以下である。

図 欧州での排水処理における課題と必要なソリューション
(出典:urban waste water treatment for 21st century challenge)

[1] 原文は以下よりダウンロード可能。
https://www.eea.europa.eu/publications/urban-waste-water-treatment-for/at_download/file

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