水は次代の石油である――需要は増えるいっぽうなのに、供給には限りがある。こんな指摘が、投資家や環境団体らの全米規模のネットワークであるCeresの2008年総会で専門家のあいだからあいついだ。このCeres総会は2008年4月29、30の両日、ボストンでひらかれ、産業界、投資家、環境団体らの代表およそ700人が参加した。総会では専門家らから、「世界的な水危機」が、経済面、環境面、および健康面でビジネスやコミュニティにもたらすリスクについて指摘する声があいついだ。
じゅうぶんな水をいかに得るかは、水不足に悩む国ぐにの長いあいだの懸案だった。しかしいまや、水はもっと多くの当事者にとってさし迫った問題になっている。企業もその例外ではない。さらに、水の問題は対地球温暖化戦略にまで密接な関係をもつにいたっている。
たとえば、2007年にテネシー州のある原子力発電所が、水不足のために出力低下におちいった。また、べつの場所では、ビールの醸造所が水不足で操業停止に追い込まれた。
こうした状況について世界野生生物基金(WWF)の水プログラム責任者であるChris Williamsは、「以前とちがうのは世界のビジネス界が水をビジネスのリスクとして、また、事業にとっての核心的要素としてとらえていることだ」と指摘した。カリフォルニア州では、利用可能な水の24%を電子産業が消費している。しかも、地球温暖化による気温の上昇が、貴重な水源のひとつである北部シエラ山脈の万年雪を融かしはじめているとWilliamsはいう。
統計を見ても明るい材料は見あたらない。世界には、安全な水を利用できない人が11億人いて、この数は2020年には倍以上になると見られている。水を浄化し、洪水を防ぐはたらきのある湿地帯は、世界中でその50%がすでに破壊された。水の用途の70%は農業用だが、そのおよそ50%は蒸発や非効率的な利用法により無駄になっている。カリフォルニア州では、電力の6.5%を水の汲み上げに使っている。
ますます水に力を注ぐGE
GE、Siemensなどのコングロマリット、それに水ビジネスへの新規参入業者らは、淡水化技術や、廃水の農業利用や工業利用技術の開発に取り組んでいる。
とりわけ、クリーン技術の開発キャンペーンであるエコマジネーションの3周年を5月にむかえるGEは、CEOのJeffrey Immeltを先頭に水への積極的取り組みをつぎつぎに発表している。
総会のパネル・ディスカッションに加わったGE Water & Process TechnologiesのJeffrey Connelly副社長は、GEはこれからもさらなる節水の必要性を訴え、顧客が水の消費を減らすのに役立つツールや産業界内部での水利用の比較に使える評価基準を提供していくと述べた。GEはまた、自社の水使用量の削減にも取り組むとともに、水問題への社内の関心をさらに高めていくとしている。「技術はある。投資する資金もある。あとは、すべての関係者が大きなうねりとなって前進するのみだ」と同副社長はいう。
しかし、Connelly副社長が「増大する危機」への取り組みとしてこのような技術ベースのアプローチを強調しているにもかかわらず、さまざまな水技術がいま、重大な障害にぶつかっている。たとえば、淡水化は膜濾過方式であってもプラントの運転に大きなエネルギーを必要とする。
また、アメリカを含む多くの国で、送水インフラのグレードアップが必要になっている(ニューヨーク州では、送水に木のパイプを使っているところがまだある)。しかも、自治体にはインフラの改善にまわせる資金がない。
水に市場価格がついたら
今回、複数のパネリストが指摘したのは、もし水にほかの資源と同じような市場価格がつけば、水技術の革新はさらに進むだろうということだ。
たとえば、衛生画像を使って降雨時の灌漑を止めることがすでに行なわれているが、こうした工夫がさらになされるようになる、とCitiのBruce Schlein環境担当副社長は述べた。同副社長によれば、Citiは淡水化、パイプライン建設、廃水処理、およびボトル・ウォーターの分野にも、さらなるビジネス・チャンスがあると見ているという。
いっぽう、Nestle WatersのHeidi Paul法人業務担当副社長は、もし水に石油と同じような市場価格がついていたら、バイオ燃料への巨額な投資は無意味なものになっていただろうと述べた。同副社長によれば、エタノールを1リットルつくるのに3700リットルの水が必要であり、また、1リットルのバイオディーゼルをつくるのには900リットルの水が必要だという。
そこでPaul副社長はこういう。「もし水に(そのコストの)何分の1かにでもなる市場価格がついていたら、(バイオ燃料への投資のような)こうしたことは起きなかっただろう。このような投資がなされているのは、石油に市場価格があり、水にそれがないからだ」