サハラ砂漠は世界最大の高温砂漠である。面積は900万平方キロメートルで、これはオーストラリアの国土より広く、アラスカとハワイを除くアメリカの国土面積に匹敵する。数千年前、そこには青々とした草木が生い茂っていた。水さえじゅうぶんにあれば、またそうなってもおかしくない。いま、この広大な乾燥地帯の砂漠化を逆転し、生物の棲みやすい森に変えることが不可能ではなくなった。ここで紹介するのはそれへ向かって邁進するひとたちの話である。
サハラ森林プロジェクトを創案したのは、3人の男――発明家のCharlie Paton、建築家のMichael Pawlyn、それに技術者のBill Watts――である。3人はそれぞれの知恵を出し合って、砂漠化を逆転し、サハラをはじめとする世界中の高温砂漠にエネルギーを供給するための野心的な提案をおこなった。基本となるアイディアは、実績のあるふたつの既存の技術――Seawater Greenhouse(海水蒸留による温室)とConcentrated Solar Power(CSP:集光型太陽熱発電)――を組み合わせることである。これらふたつの技術をうまく組み合わせると、砂漠に再植林が可能になるほか、その周辺地域に、きわめて必要度の高い食用作物、淡水、および電力を供給することができる、と彼らはいう。
Seawater Greenhouseという技術は、ペルシア湾やカナリア諸島ですでに実用化されている。これは、太陽熱を使って海水を蒸留すると同時に空気を冷却および加湿し、他の方法をもってしてはその地域で栽培することのできない作物を栽培するのに理想的な環境をつくり出そうというものである。世界中の淡水の消費量の約70%は農業用だが、この技術はその農業にとってきわめて大きな意味をもっている。さらに、乾燥した海岸地帯に淡水を供給できれば、そこに住むひとびとの窮状を救うのにも役立つ(10億人がじゅうぶんな淡水へのアクセスを保証されていないと推定されている)。また、こうした「温室」は、バイオ燃料の生産にも使うことができる。
サハラ森林プロジェクトの第2の技術、CSPは、地上に置いた多数の鏡に太陽光を反射させ、塔の頂上にあるボイラーに集光するというもので、ボイラーに集められた太陽熱は水を過熱水蒸気に変え、その水蒸気が発電機のタービンを回す。この技術は、生物と人間活動との調和というテーマが話題になり出した初期のころに言及されたことがあるものだが、太陽電池とくらべてずっと安価かつ効率的に太陽光発電ができる方法であって、世界の砂漠の1%未満の面積をこのCSP技術を使った集光型太陽熱発電所に充てるだけで、現在の全世界の電力需要をまかなうことができるのである。
これらふたつの技術は組み合わせるとシナジー効果を発揮し、乾燥した海岸地帯で慢性的になっている淡水、食糧、およびエネルギーの不足を緩和するための効率的で生物にやさしいソリューションをもたらしてくれる。さらに、淡水化に現在使われている他の方法や、化石燃料による発電とちがって、この方法は、日光と海水が豊富にあるかぎりまさしく文字どおり持続可能なのである。