太陽光蒸気発生システムでほぼ100%の脱塩を実現――モナシュ大学

  • モナシュ大学の研究者らが、世界のあまたのコミュニティにきれいな水を供給できる技術を開発した。
  • この太陽光蒸気発生システムは、塩分を含む水(海水)から塩分をほぼ100%除去してきれいな水をつくることができる。
  • この技術は、電力網が届いていない辺境地域の水不足を解消してくれる。

世界で推定8億4400万人がきれいな水へのアクセスができない状態にあり、安全な水がないことと不潔な環境が原因で、1分ごとに1人の新生児が感染症で死亡している。海水の淡水化と廃水のリサイクルは水不足の問題を緩和するふたつの方法だが、そのための従来のアプローチはエネルギー集約型で、化石燃料に依存している。実際、水処理には世界のエネルギー供給量のおよそ3%が使われている。

モナシュ大学の太陽光蒸気発生システム

オーストラリアのモナシュ大学の研究者らが、光熱変換材料と太陽エネルギーを使うだけできれいな飲み水をあまたのコミュニティに供給できるエネルギー・パッシブな技術を開発した。同大学工学部化学工学科のXiwang Zhang教授が率いる研究チームは、塩分を含む水から塩分をほぼ100%除去して効率よく連続的にきれいな水をつくることのできる太陽光蒸気発生システムを開発した。このシステムはまた、蒸発ディスクの周縁だけで塩が結晶化するように制御することにより、除去した塩を容易に回収することができる。

研究チームはこのすぐれたシステムの実用性と耐久性を、南オーストラリア州のラセピード湾の海水を使って実証した。この技術は、電力網が届いていない辺境地域の水不足を解消する有望な手段である。この研究成果は、国際的な学術誌Energy & Environmental Scienceで発表された。

超親水露紙の蒸発ディスク

Zhang教授はこう言う。「人口が増え、気候変動の影響が顕著になっているなか、水のセキュリティは21世紀に世界が直面している最大の課題だ。発展途上で資源に乏しいコミュニティがこうした影響を最も実感している。水処理に太陽エネルギーを利用することは、そうしたコミュニティの水不足を環境や資源を犠牲にすることなく解消するための持続可能な方法のひとつとひろく考えられてきた。だが、材料の開発が大きく進んだにもかかわらず、表面で凝縮する塩が蒸発を妨げ、得られる水の水質には限界があった」

そこでモナシュ大学の研究チームは、光吸収のためのカーボンナノチューブの層をもつ超親水濾紙で蒸発ディスクをつくった。この蒸発ディスクは中心が直径1 mmの木綿糸につながっており、この木綿糸が水輸送チャネルとなって塩分を含んだ水がディスクに送られる。すなわち、塩分が溶け込んだ水は、木綿糸によって蒸発ディスクの中心部に吸い上げられる。蒸発ディスクを構成している超親水濾紙が純水を捕捉し、塩をディスクの周縁部に押し出す。蒸発ディスクの光吸収率は、太陽光の全スペクトルで測定した結果、94%だった。また、ディスクが光に曝されたときの温度上昇速度は乾燥状態でも濡れた状態でも速く、ディスクの温度は乾燥状態では1分以内に25℃から50℃に、濡れた状態では同じく1分以内に17.5℃から30℃に上昇した。

他の分野への応用にも大きな可能性

この技術は、産業廃水の廃液排出ゼロ(ZLD)処理、汚泥脱水、鉱山廃滓管理、資源回収など、他の分野への応用にも大きな可能性を秘めている。今後、こうした応用へ向けたさらなる研究が、産業界の支援を得て進められることになる。Zhang教授はこう述べている。「われわれの研究成果は、太陽光による蒸気発生技術の実用化へ向けた一歩前進であって、この技術が海水淡水化、廃水からの資源回収、それにZLDへの応用に大きな可能性を秘めていることを示せたと思う。この研究が何億ものひとびとに清潔で安全な水を供給するエネルギー・パッシブな方法の研究をさらに進めるための出発点となり、廃水の環境影響に光明を投じ、廃水からの資源回収につながることを願っている」

Zhang教授は、オーストラリア研究会議(ACC)のもとにある高効率分離研究ハブの責任者を務めている。この研究ハブは、オーストラリアの産業を下支えしている分離プロセスのエネルギー消費を減らす先進的な分離材料、革新的な分離装置、およびすぐれた分離プロセスの開発をめざしている。同教授は最近、オーストラリアの農村部と東南アジアにおけるよりきれいな水の確保をめざす別のプロジェクトで、資産管理会社のPerpetualから5万オーストラリア・ドル(約360万円)の補助金を受けた。

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