いつまでも続く旱魃、気候変動、それに広がる一方の砂漠化があいまって、スペイン南部では水の供給量が減少している。水不足は野菜、果実、穀物などを栽培する農家、それに多くのゴルフ場オーナーらに影響をあたえている。彼らは地下水の違法揚水を大規模におこなうことでこの問題を解決している。
環境省が2008年12月に明らかにしたところでは、これまでの集計では、スペイン全土に50万本を超える違法な井戸があり、おびただしい量の水が地下から汲み上げられている。それは人口5600万人に水を供給しつづけられるほどの量で、スペインの大口消費者の使う水のおよそ半分が違法に組み上げられている勘定になる。
当局の目こぼし
環境団体らは、水をaqua negra、すなわち「ブラック・マーケットの水」と呼んでいる。南部の都市ムルシアの小さな環境団体のメンバーであるRuben Vivesは、違法な手段でオレンジを栽培している農園を指さし、これを見てくださいという。その農園は、荒れはてた土ばかりの風景のまんなかにある。周囲とは対照的に、違法に灌漑された土地に繁るオレンジの木々は、青あおとしている。
Vivesは、地元の当局のお目こぼしがなければこんなことは不可能だという。自治体も、水道会社も、大地主も、自分たちの身を守るのに必死なのである。「水はいまや、大きなビジネスなのだ」とVivesはいう。
Vivesの所属する環境団体は、違法な井戸を閉鎖に追い込んだことも何回かある。そのことでVivesはたびたび脅迫をうけた。「連中は私立探偵を雇ってわたしを拉致しようとした」とVivesはいう。
ムルシア近郊では、このオレンジ農園は氷山の一角にすぎない。環境団体らによれば、すくなくとも数万の大地主たちが必要な許可なしに水を手に入れているという。この問題について検察当局は、2006年から捜査を継続しており、大規模な犯罪組織が関与していると睨んでいる。
違法な井戸
いっぽう、ムルシアの大地主たちが水利権を獲得するために結成した組合で組合長を務めるFrancisco del Amorは、「違法に水を得ていることを否定する野菜農家は、みんな嘘つきだ」と公言してはばからない。同組合長はこう述べている。「違法な井戸はいたるところにある。水が足りないからだ。だからみんな、何でもしてしまうのだ。じゅうぶんな水が供給されていれば、違法な取水は一夜にしてなくなる」
Francisco del Amorはさらに、古い話までひきあいに出してこう抗弁する。スペインの前政権は、北部を流れるエブロ川の流路を変え、その水を運河で南部の乾燥地帯に引くことにした。
しかしその後、ホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ首相ひきいる社会労働党政権はその計画を反故にし、地中海の水を淡水化する道を選んだ。だが、淡水化プラントが完成するには何年もかかるし、農民たちは水の価格が高くなりすぎると不平をいっている、というのがFrancisco del Amorの言い分である。
農園にもメリット
スペイン南部海岸地方のアルメリアでトマト栽培農園を営むEvert van Geestは、効率のよい水の利用を実践していることで知られている。Van Geestは、環境団体らはものごとを誇張しすぎており、乾燥した土地で農業を集約的に営むことにはメリットもあると考えている。「これまでに、広大な砂地が農地に変えられてきた」
それには大量の水が必要だが、一方でオレンジやオリーブの木は、砂漠が拡大するのを食い止める役割もはたしてくれる、とVan Geestはいう。「環境運動家たちはあらゆる理屈を並べてくるが、農園の木が大量のCO2を吸収し、大気中のCO2の量を減らしているという理屈も成り立つわけだ。だが、環境運動家たちはこのことに決して触れない」
しかし、環境団体のメンバーであるRuben Vivesは、こうした議論には納得しない。彼はこういう。「われわれは、当局が解決の道を探っていることは評価する。しかし、ひとは自分の行動を正当化するものだ――てっとり早く儲けるために。問題は、やはりこういうことだ――近い将来、はたして水が残っているだろうか? 土地を潤す水のことではない。われわれ自身が飲む水のことをいっているのだ」