気候変動の影響と人の水需要が急速に増えている状況の下で将来の水ニーズを満たすという課題の解決の道は、世の中で広く言われているより暗くないかもしれないとスウェーデンとドイツの科学者のチームは言う。
河川の流域にあるすべての水資源が、認識されて、もっとよく管理されれば、将来の食糧危機を相当軽減できる可能性があるとStockholm Resilience Centre at Stockholm University(ストックホルム大学ストックホルム抵抗力センター), Stockholm Environment Institute(ストックホルム環境研究所)そして Potsdam Institute for Climate Impact Research(ポツダム気候影響研究所)の研究者らは言う。
このスウェーデンとドイツの科学者のチームは初めて、気候変動に適応し、将来の世界の人口に供給するために「グリーン水」と「ブルー水」(説明は、次とその次の段落に)の両方を効果的に用いる機会を定量化した。この研究は最近、Water Resources Research(水資源研究)という雑誌に発表された。
現在の水管理へのアプローチは、川の流出や地下水を表す「ブルー水」だけを検討している。このやり方が気候変動によって起こっている水不足や水リスクの増加に対処するための選択肢を制限しているとこれら研究者は考えている。このような検討の状況の下で、現在の世界人口のうちの30億人を超える人々が深刻な水不足に苦しんでいると推定されている。
今回の新しい分析では、ブルー水に加えて、降雨から直接生じる土壌中の水を表す「グリーン水」も検討された結果、水不足に苦しんでいる人々の実際の数は、10億人を下回ると推定している。また、水管理を賢明に行なえば何10億人もの人々を水不足から救えることも示されている。
「今回のアプローチによって、気候変動への適応のための投資の新分野が広げられ、世界中の貧困国において切望される新しい緑の革命をなしとげるための機会が開かれる。われわれの分析では、水不足におちいっている国で、グリーン水について検討して、それをうまく管理すれば、その国民のために十分な食糧を生産できる国が多いことが示されている」とこれら研究者は報告している。かれらの論文はFuture water availability for global food production: The potential of green water for increasing resilience to global change(世界の食糧生産のための将来の水の利用可能性:世界の変化に対する抵抗力を増すためのグリーン水の可能性)という表題であるが、世界の将来の水危機についてのこれまでの厳しい予測を根本的に変えるものである。
「さまざまな水の乏しい地域に関するこれまでの議論の多くは、水の存在に関係している機会より水不足に焦点が当てられた」とStockholm Environment InstituteとStockholm Resilience Centreからの主執筆者であるJohan Rockstrom氏は言う。
「われわれは、最新の地球規模の水文学モデルと気候変動のシナリオを適用して、農民がどれだけの水にアクセスできるかといった地方の村の規模についてまで分析した。このような分析では、通常はかんがいのためにブルー水の資源のみが検討されるので、非常に悲観的な結果となる。われわれは、降雨を利用した農業システムにおけるすべての食糧生産の基礎となっている土壌中に浸透する降雨を含めて検討した。われわれはまた、ブルー水とグリーン水の大量の無駄な損失という要因を背景として莫大な未利用の潜在力も明らかにしている。」
見過ごしていた資源が抵抗力の強化をもたらす
この研究では、グリーン水のよりよい利用が新しい緑の革命の基礎となりうる証拠が提示されている。グリーン水はまた、人為的な気候変動によって頻度や強度が増した洪水、干ばつ、日照り続きに対する抵抗力を作る基礎を提供する可能性もある。
「われわれは、現在の技術に投資し、グリーン水の利用を改善すれば、もっとしっかりとした気候変動に抵抗力のある農業システムを促進することができるので、より安定した食糧供給ができることを指摘している」とPotsdam Institute for Climate Impact Researchの研究者Holger Hoff氏は言う。
慢性的にブルー水が足りないと分類されている多くの国には、グリーン水も考慮するとその全住民のために標準的な食事を作り出すのに十分な水がある。たとえば、ケニヤには未利用あるいはよく管理されていないグリーン水が大量にあるので、その恩恵が得られる。「ケニヤは、気候変動の下では、ブルー水とグリーン水の両方がよく管理されなければ、2050年を待つまでもなく、水不足におちいるであろう」とHoff氏は言う。
よい選択肢はあるが、犠牲がないわけではない
この研究の目的は、利用できるブルー水とグリーン水の利用効率を高めて現在と将来の食糧生産のために水の要件を満たすためのさまざまな国の能力を分析することであった。
LPJmLは、自然植生と農業植生の定着、成長、生産力および水消費量をシミュレートする動的な地球規模の植生と水収支のモデルであるが、このモデルを用いて、現在(1996~2005年)と今後(2045~2055年)の世界中の水の利用可能性がシミュレートされた。
このモデルによって.2050年までに世界人口の59 %の人々がブルー水不足に直面し、36 %がグリーン水とブルー水の不足に直面することが示された。つまり、世界人口の36 %が自分たちのための食糧を生産するのに十分な水がない国に住むことになる。
「残念ながら、われわれのグリーン水とブルー水の両方の分析から生じた新しい機会にもかかわらず、人類は、世界の一部の地域で2050年までに重大な水に関する難問に直面することがわれわれの研究によって示された」とRockstrom氏は言う。
Karlberg博士は、よりよい水問題に対する抵抗力をつけるための選択肢を特定するためにグリーン水とブルー水をあわせて管理するアプローチを拡大して取るよう求める。
「しかし、グリーン水が、たとえば、無駄な土壌からの蒸発を犠牲にして植物による蒸散を増す方法によってよりよく管理されるならば、気候変動の下でさえ、耕作地を拡大しなくても多くの国で水問題に対する抵抗力をつけるためのよい選択肢は存在する。」
この研究チームは、今後の研究で、将来の食糧生産を増やすために具体的なグリーン水管理方策の可能性を検討する予定である。
〈参考サイト:Seeddaily 2009.05.12〉
http://www.seeddaily.com/reports/Better_Water_Use_Could_Reduce_Future_Food_Crises_999.html