企業の炭素排出量など気候変動に関連する情報の世界最大のデータベースを保有する非営利団体「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト」(CDP: Carbon Disclosure Project)は2009年11月19日、新たに「ウォーター・ディスクロージャー・プロジェクト」を立ち上げた。そのプロジェクトの下で、投資家は、気候変動によるものと見られる影響のひとつである水不足に企業が曝されどのような影響を受けるかその程度を評価できることとなる。
CDPの幹部であるPaul Dickinson氏によれば、「気候変動による影響の多くは利用可能な水の利用のパターンが変わってゆくことを通して分かるだろう。もし気候変動がシャークだとすれば、その場合水はその歯であり、水は企業にとって極めて高い意識と理解とを必要とされる課題ということになる」と語った。
国連は2030年までに世界の人口の約半分が水不足に直面する地域で生活することになると予測している。CDPによれば、企業も用水を必要とする製造プロセスに影響を与える水不足に直面するとともに、水価格を引上げる新たな規則を課されることとなる。
CDPは2010年より、企業に対して水の使用量を測定しそのデータを開示するよう要求するとともに、企業自身の事業活動及びサプライチェーンにおける水に関連したリスクや問題点を確認するよう要求してゆくとしている。
具体的には、CDPは、次のような水使用量の多い産業セクターにおける世界の大企業トップ300社を対象に質問表を送付する。
【質問表送付の対象産業セクター】
- 化学産業
- 日用消費財(FMCG:fast moving consumer goods)
- 食品及び飲料品
- 鉱業
- 製紙及び木材製品
- 医薬品
- 発電事業
- 半導体製造業
CDPの主要スポンサーであるNorges Bank Investment Management(NBIM)は、「機関投資家は、より十分な情報を基に意思決定を行い資金の運用をリスクから回避させるために、水に関連したリスクがどの程度企業を直接及びそのサプライチェーンの中で脅かすものであるのかに関する確度の高い情報を入手することが重要である」と指摘している。
なお、CDPは2010年の第4四半期に最初の年次報告書を発行する予定である。2008年の際に実施された小規模なパイロット・プロジェクトで集められたデータによれば、多くの企業は自社の水使用量のデータは持っていたがサプライヤーに関するデータは持っていなかった。また、企業の半数が水をリスクの対象とは見做していなかったという。
CDPとは、2000年に設立され、世界の385の機関投資家を代表する団体で、その運用資産は57兆ドルを超えている。独立した非営利団体であるCDPは、世界の3,000社を超える主要企業から気候変動に関するデータを収集し、企業による温室効果ガス排出について世界最大規模のデータベースを構築している。日本からは100社を超える企業を対象としている。また、CDPは多国籍企業と連携して、そのサプライ・チェーンから気候変動に関するデータを収集している。
また、環境に対して貢献をしている企業を公平に評価する団体で、気候変動とそれに伴うリスクおよび機会に対するグローバル社会の意識が高まるに伴い、カーボン排出量削減に対する企業の姿勢とその実績についての開示をより詳細に求める投資家の要求が背景にある。