かつては産業プラントでは水(廃水)の回収及び再利用が極めて重要だといわれていたかもしれないが、現在ではそれらに代わってゼロ・リキッド排出(ZLD:Zero Liquid Discharge)が求められていることは疑いもない。ZLDとは、「当該施設の外に廃水(廃液)を放出しないことであり、一般に、蒸発装置(evaporator)及び晶析装置(crystallizer)といった機械設備を指す」ものである。
主なZLD装置サプライヤー
様々な蒸発装置や晶析装置を供給している企業は世界中に数十社とあるが、実際にこのニッチなZLD市場は次の3社による寡占状態にある。
- Aquatech
- GE Power and Water
- HPD(Veolia社の子会社)
Veolia社のMinnich氏によれば、これらの中でもHPD社が世界で最も大きい蒸発装置及び晶析装置のサプライヤーであり、紙パ、製塩、ケミカル・プロセッシング、石油ガス、バイオ燃料及び発電事業などの様々な産業セクターで約700箇所に導入しているという。世界中で設置されるZLDの年間の設備投資額は総計で1億~2億ドルと見積もられている。
ZLD技術の種類と処理プロセス――蒸発装置と晶析装置
廃液を処理して固形廃棄物を生成するZLDプロセスには2つの装置が使用されており、それらは上述した、蒸発装置(evaporator)及び晶析装置(crystallizer)である。
蒸発装置は、濃縮塩水(ブライン)を250,000ppmTDSのレベルまで濃縮することができるもので、機械式の蒸気再圧縮システム(VPR)を用いることによって極めてエネルギー効率が高いものに設計されている。
濃縮塩水(ブライン)はその濃度が250,000ppmTDSを超えると、高圧状態の下で、蒸発装置から強制循環晶析装置にポンプで送られる。送られたブラインは圧力が下がった容器に流れ、残った濃縮水は煮立って塩分が結晶する。こうしてできた塩はその段階ではまだ僅かに湿っているが、米連邦環境保護庁(EPA)が規定している固形物処分基準に適合するものとなる。こうしてできた、いわゆる「ソールトケーキ(salt cake)」は量的には当初の廃液に比べてほんの僅かな量となり、最終的には埋め立て処分場で処分される。
ZLDシステムの課題――高い資本コストと運転コスト
ZLD技術にも難点があり、その主なものが高い設備投資額である。約2000万ドルを要する在来の廃水処理設備を導入した大型産業施設の場合、その液体廃棄物の最大80%を回収し再利用ができる。しかし、この残りの20%の廃液から固形物を捕集するのに必要な処理能力1,000GPM(3.8 m3/min)の蒸発装置及び晶析装置を組み合わせたシステムの導入には、前者の倍の約4,000万ドルを要する。
もうひとつの課題は運転コストである。ZLDシステムは耐食性のあるチタンやハイニッケル・ステンレス鋼でできており多くの修繕を必要としないが、エネルギーコストが高いのが難点となっている。すなわち、蒸発装置と晶析装置は多くの電気を使用する。通常、淡水化プラントの電気使用量が2~4kWh/m3であるのに対してこれらの装置では10倍の20~40 kWh/m3を要するのである。
この結果、一般的にTDS濃度が低く大量の下水を処理している地方自治体では、ほとんどの場合、特殊な状況下にあって強制されない限りZLDを採用しているところはない。
ZLD技術の市場性と新たな市場
上述したように、費用がかさむZLDの利用には制限がかけられているが、石油ガス産業などの他の分野ではZLDの利用が大きく進んできている。
GE Water & Process Technolgies社のZLD担当部長であるBill Heins氏によれば、過去50~60年間、カリフォルニア州やヴェネズエラなどの地域での重油の生産は、粘度の高い原油を回収するために蒸気注入方式に頼って来たという。12年ほど前までは、重油生産(掘削)に際して回収された水はウォームライムソフニング(warm lime softening)および弱酸性陽イオン交換の技術で処理された後、直管貫流式蒸気発生器(OTSG)に送られて80%が蒸気に20%が水にされ、油井にボーリングの穴から注入されていた。
GEがZLD市場に参入したのは2005年でIonics社の買収によるものであった。Ionics社も1993年にZLD技術専門会社であるResources Conservation Company(RCC)社を買収してこの分野に参入したのである。
シェールガス採掘市場
ZLDはシェールガスの開発分野でも大きな市場性を有している。GEのHeins氏によれば、シェールガスの回収には岩盤を破砕するために大量の水が必要とされる。使った水はTDSが15,000ppmの濃度で戻ってくる。従来、戻ってきた水は遠くに運ばれて処分されており費用が非常に高くついている。そこでGE社は現在、搬出処分している水の量を最小限に抑えるか無くすため、廃水の掘削現場での処理と破砕用への再利用を検討している。
現在、北米には数十といわれるシェール埋蔵盆地が存在する一方で、この破砕水の処理に関して規制がかけられようとしていることから、その市場性は大きいという。
研究開発動向
ZLDシステムは運転コストが高いことから、ZLD分野のR&Dはエネルギーを多消費する蒸発装置/晶析装置システムに代わる技術を開発する方向へと向かってきた。発電プラントでのZLDシステムには逆浸透膜をベースとした技術の利用が企てられてきた。しかし、膜の目詰まりが想定以上に早く効率が悪いものであった。それでも、設備投資額の低下に関しては進展が見られたという。
リーマンショック以降の景気低迷が多くの産業セクターに悪影響をもたらしたが、ZLDに関してはそんなことはなかった。実際、専門家の予測では、回収・再利用装置の年間成長率は、次の10年間における累積で200%を超えると言われており、しかもその大きな部分ZLDという。今後も経済情勢や規制強化の動きが厳しければ、ZLDもしくはほぼゼロに近い排出の技術は今後も急速に成長してゆくものと見られている。