金融危機がほとんどのプロジェクトに資金面で冷水を浴びせている現在の市場状況にあって、アルジェリアは淡水化インフラの開発を進め、世界でも指折りの淡水化造水能力をめざす画期的なプログラムを推進する姿勢を崩していない。
アルジェリアでは、合計で日量226万立方メートルの造水能力をもつ13件の海水淡水化プロジェクトが2011年までに完了する予定である。これによって、アルジェリアはおそらく、造水能力の伸びが近年では最大の国のひとつになることだろう。
2011年にこの淡水化プログラムが完了するころには、アルジェリア国民の90%以上が住む高人口密度の地中海沿岸地帯の上水として、毎日1人あたり70リットルが新設の海水淡水化プラントから供給されることになる。
アルジェリアの海水淡水化プログラムは、水資源の開発へ向けた野心的な国家プログラムの一環である。上水の供給に関しては、この国家プログラムは2009年を目標とした22基のダムの新設、全長740キロメートルにおよぶいくつかの大規模な送水システムの建設、大都市の上水道システムの拡張、改善、修理などから成っている。
また、廃水処理に関しては、この国家プログラムはおもに次の事項を含んでいる。
- 40ヵ所の廃水処理プラントの新設
- 20ヵ所の既存の廃水処理プラントの改善と修理
- 50ヵ所の廃水処理用貯水池の建設
- 下水集水システムへの集中投資
ILF Consulting Engineersはアルジェリア市場において、同国で計画されている逆浸透法海水淡水化(SWRO)の全造水能力の60%を超える7件のプロジェクトにかかわっている。これらのプロジェクトにおいて、ILF Consulting Engineersは金融サイドの技術顧問(6プロジェクト)やプロジェクトそのもののテクニカル・エキスパート(1プロジェクト)の役割を果たしている。
淡水化市場の状況
アルジェリアにおけるおもな淡水化プロジェクトの実施企業および規模を表1に示す。これらの海水淡水化プラントは地中海沿岸に分布しており、なかでもILFがかかわっているプラントの多くは、発展のスピードが速く水不足もより深刻なアルジェよりも西の部分に位置している。
アルジェリアの淡水化プログラムには、国際的なプロジェクト金融と、国内の投資家および金融機関が深くかかわっている。
表1において実施企業としてどのプロジェクトの欄にも出ているAEC(Algerian Energy Company)は、アルジェリアの国営エネルギー企業SonatrachとSonelgazが50%ずつ出資して2001年に設立した電力事業会社である。AECの主要な目的のひとつに、国際企業との合弁による海水淡水化プラントの建設推進がある。すなわち、国際企業と組んでプロジェクトを実施する合弁企業を設立し、そのプロジェクト実施企業がプラントを設計、建設、運転し、そこで生産される水を所有する。
表1 アルジェリアにおける海水淡水化プロジェクト
プロジェクト名 | プロジェクト実施企業 | 造水能力(m3/d) |
---|---|---|
1 Beni Saf | Cobra, AEC | 200,000 |
2 Cap Djnet | Inima/Aqualia, AEC | 100,000 |
3 El Tarf | Inima/Aqualia, AEC | 50,000 |
4 Fouka | Snc Lavalin/Acciona, AEC | 120,000 |
5 Hamma | GE Water, AEC | 200,000 |
6 Honaine | Befesa/Sadyt AEC | 200,000 |
7 Arzew | Black & Veatch, AEC | 90,000 |
8 Magtaa | Hyflux, AEC | 500,000 |
9 Mostaganem | Inima/Aqualia, AEC | 200,000 |
10 Oued Sebt | Biwater, AEC | 100,000 |
11 Skikda | Befesa/Sadyt, AEC | 100,000 |
12 Souk Tlata | Hyflux/Malakoff, AEC | 200,000 |
13 Tenes | Befesa, AEC | 200,000 |
合計造水能力 | 2,260,000 |
プロジェクト実施企業における持ち株比率は、初期のプロジェクトを除いてAECが49%、合弁相手の国際企業が51%となっている。ただし、法律の改正により、これらのプロジェクトにおいても今後はAECが50%超の株式を保有することになると見られているが、これはまだ実現していない。
ほとんどの場合、プロジェクト実施企業が用意する資金は必要額の20%程度で、残りは融資に頼ることになる。融資元は、アルジェリア海外銀行(BEA:Banque Extérieure d’Algérie)、アルジェリア国立銀行(BNA:Banque Nationale d’Algére)、アルジェリア人民銀行(CPA:Crédit Populaire d’Algérie)などの国立銀行である。将来のプロジェクトについては、新設の国立投資ファンド(National Investment Fund)が融資をおこなうことになる。このファンドの資金はおもに国庫からの拠出と国内の資本市場からの調達による。
アルジェリアの淡水化プロジェクトの特色は、どのプロジェクトにおいても、実施企業の株主である国際企業のすくなくとも1社がプラントの建設(EPCターンキー契約)および運転(保守・運転契約)にたずさわっていることである。このことによる利害の衝突は事前に調整済みである。
ILFが関与しているプロジェクト
ILFが金融サイドの技術顧問としてかかわっている6件のプロジェクトは造水能力の合計が日量132万立方メートルにおよび、これは図1に示すようにアルジェリア全体の海水淡水化の造水能力の58%を占めている。これらのプロジェクトにおいて、ILFはアルジェリアの国立銀行であるBEA、BNA、およびCPAの顧問を務めている。
(青):ILFが金融サイドの技術顧問、(黄):金融サイド技術顧問未定、(赤):その他
図1 アルジェリア全体の海水淡水化プロジェクトに占めるILFの関与の割合
ILFがこれまでにかかわってきているすべてのプロジェクトについて、おもな技術的特徴なども含めた概要を表2に示す。
表2 ILFが関与しているプロジェクト
SWRO プロジェクト |
融資元* | 建設期間 | 投資額 (百万ドル) |
固有キャペックス (ドル/m3/d) |
造水能力 (m3/d) |
SWRO 前処理 |
SWRO フラックス (Lmh) |
SWRO 回収率 (%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Cap Djinet | BNA | 2008-2010 | 100-150 | 1525 | 100,000 | 従来型 | 13.2 | 45 |
Fouka | CPA | 2008-2010 | 200-250 | 1797 | 120,000 | 従来型 | 13.5 | 45 |
Mostaganem | BEA | 2007-2010 | 200-250 | 1276 | 200,000 | 従来型 | 13.2 | 45 |
Magtaa | BNA | 2008-2011 | 400-500 | 882 | 500,000 | UF | 14.1 | 45 |
Skikda | BNA | 2008 | 100-150 | 1179 | 100,000 | 従来型 | 13.2 | 47 |
Souk Tlata | BNA | 2007-2010 | 200-250 | 1276 | 200,000 | UF | 12.8 | 45 |
Tenes | CPA | 2008-2010 | 200-250 | 1325 | 200,000 | 従来型 | 12.1 | 45 |
* 単一の融資元または筆頭融資元
表2に示したプラントはすべて、おもに次のような段階を踏んで処理をおこなっている。
- 海水の取入れ
- 前処理
- SWRO
- 後処理と送水
アルジェリアの淡水化プロジェクトはすべてSWROによるもので、膜の寿命や運転の経済性を考えると、前処理の良否が全体の性能に大きく影響する。
表2からもわかるように、SWROプラントの前処理の技術ソリューションとしては、従来型とUFを使用した前処理の両方が使われている。
回収率はアルジェリア以外の市場のプロジェクトと比べて高い傾向にある。これは、アルジェリアの場合、海水の状態が比較的良好だからである。
経済的な見地から2007年の中東における市場の基準(1320~1760ドル/m3/d)と比較すると、アルジェリアのプロジェクトでは固有キャペックスがやや低いことがわかる。これは、競争原理がよくはたらく入札プロセスであることと、海水の状態が良好であることによる。
中東およびアルジェリアにおけるプラントの固有キャペックスの比較を図2に示す。
SWROプラントの固有キャペックス
図2 中東とアルジェリアのプラントの固有キャペックスの比較
全プロジェクトのなかで、日量50万立方メートルのMagtaaのものは間違いなく世界でも最も重要な淡水化プロジェクトのひとつである。
このMagtaaプロジェクトはきわめて野心的なキャペックスで受注しており、現在、建設が進んでいる。
おわりに
比較的新しい市場であるアルジェリアの淡水化市場は、ここ数年、急速に拡大してきている。
アルジェリアの淡水化プラントには、さまざまなニーズに応えるべく最適のプロセスが追求された結果、いくつかの異なる技術ソリューションが見られる。
投資コスト、運転コスト、また、それゆえに水道料金も安いアルジェリアは、海水淡水化プラントのさらなる発展にきわめてよい条件を備えているといえる。