UCLAのHenry Samueli工学・応用科学部の研究者たちが、海水、かん水、廃水の浄化の際によく発生する目詰まりを起こさない新しいタイプの脱塩用逆浸透(RO)膜の表面構造を開発した。透過性が高く、独自の表面構造をもつこの膜は、現在市販されている浄水システムに容易に組み込むことができ、脱塩コストを大幅に削減できる、と研究者たちは語っている。この研究成果は、Journal of Materials Chemistryの2010年第10号に掲載された論文(Polymer surface nano-structuring of reverse osmosis membranes for fouling resistance and improved flux performance)の中で発表されている。
RO膜による脱塩プロセスでは、処理する水に高い圧力をかけて膜の細孔を通過させる。水の分子はその細孔を通過するが、無機塩イオンや細菌などの不純物は通過することができない。それらの不純物が、時間がたつにつれて膜の表面にたまり、目詰まりや膜の損傷の原因となる。また、そのような付着物があると、ポンプシステムに大きな負荷がかかり、膜のクリーニングや交換にも高い出費を求められる。今回開発されたUCLAの新しい表面構造の膜では、このような問題を回避することができる。
論文の主執筆者であるUCLAのNancy H. Lin工学上級研究員は次のように書いている。「新しい膜は、水の透過性が高いだけでなく、不純物の付着を拒む性質があるので、長期間安定して使用することができる。この膜の表面構造をつくるには、長い時間をかけて反応を起こす必要もなく、反応温度を高くしたり、真空室を使ったりする必要もない。この膜は、異物の付着を拒む性質があるので、寿命が長くなり、脱塩プロセスのコストも安く抑えることができ、市販されている既存の膜より優れている」
この新しい膜は、3段階のプロセスで合成された。まず、研究者たちは従来の界面重合を用いてポリアミド薄膜の複合膜を合成した。次に、大気圧プラズマを使ってポリアミドの表面を活性化させ、活性点をつくった。最後に、それらの活性点を利用して、モノマー溶液でグラフト重合反応を起こし、ポリアミドの表面にポリマーの「ブラシ層」をつくった。このブラシ層の厚さと形状は、グラフト重合の温度と時間を調整して制御した。
指導教授を務めたUCLAの化学・生物分子工学教授Yoram Cohenは次のように語っている。「研究を始めた頃には、表面のプラズマ処理は真空室でしか行えませんでした。それでは、大規模な商業生産はできません。真空室の中では、何千メートルもの膜を合成することはできませんからね。あまりにもコストがかかりすぎます。しかし、今では、大気圧プラズマという技術が発明されたので、化学反応を起こす必要がありません。プラズマで表面をさっと撫でる程度でよく、しかも、ほとんどどのような表面にも対応することができます」
この新しい膜では、表面に形成されるブラシ層のポリマー鎖がたえず動いている。その鎖は、端部が表面に化学的に固定されているので、物理的にコーティングされたポリマーの薄膜より熱に対して安定している。このブラシ層の動きが、水流によっても増幅され、細菌などのコロイド状物質が膜の表面に付着できないようにする。
「ほら、海にもぐったら、長い海藻が水の流れでゆらゆらと揺れていたりするでしょう。あんな感じで、この膜の表面はたえず動いて形を変えていると考えてください。タンパク質や細菌が膜の表面に付着するには、複数の点にくっつかないといけないのですが、ブラシ層がたえず動いているので、それがきわめて難しくなります。ポリマー鎖がスクリーンになり、下の膜表面を守ってくれるわけですね」Cohenはそう説明する。
付着が起きないもうひとつの秘密は、膜の表面電荷にある。この膜では、ブラシ層の化学的性質を変えることによって表面に希望の電荷を与え、反対の電荷をもった分子を寄せ付けないようにすることができる。
この研究チームの次なる課題は、プロセスを連続的なものにして合成する膜を大きくし、その膜の性能をさまざまな水の性質に応じて最適化できるようにすることである。
「今後は、処理する水の付着の傾向に応じて膜を選択的に使用できるようにしたい。そうすれば、どのような水に対しても膜の表面特性を最適化し、不純物の付着を遅らせたり、阻止したりすることができるようになる。その結果、膜のクリーニングに用いる薬剤や膜交換の作業に要するコストを減らすことができれば、脱塩のコストが下がり、この方法が新しい水処理の切り札になる可能性がある」Linはそう語っている。
研究チームは現在、UCLAの水技術研究(WaTeR)センターと共同で、現場条件のもとで新しい膜のファウリング特性をテストしている。